検査後確率は0.036%、それでもスクリーニングPCRやりますか?
3都市抗体検査の示すもの

2020/06/22
森井大一(大阪大学感染制御学)

 6月16日、厚生労働省は、東京、大阪、宮城でそれぞれ実施した抗体保有率の検査結果を発表した。これによると、東京は0.1%、大阪は0.17%、そして宮城は0.03%であった。検査が行われた6月初旬の東京の累積確定感染者数は5250人程度で、これは東京都の人口1400万人の0.0375%に相当する。つまり、PCR検査によって確定した感染者の2.67倍(=0.1/0.0375)が実際の感染者であったということだ。筆者は、確定数の10倍から100倍ぐらいの潜在的感染者数を予測していたので、意外と少なかったという印象を持った。

著者プロフィール

森井大一(もりい・だいいち)●大阪大学大学院医学系研究科博士課程。2005年3月大阪大学医学部卒業、同年4月国立病院機構呉医療センター、2010年大阪大学医学部附属病院感染制御部、2011年米Emory大学Rollins School of Public Health、2013年7月厚生労働省大臣官房国際課課長補佐、2014年4月厚生労働省医政局指導課・地域医療計画課課長補佐、2015年4月公立昭和病院感染症科を経て今に至る。2018年から阪大病院の感染制御部医員も兼務。

連載の紹介

森井大一の「医療と経済と行政の交差点」
救急医として医師のキャリアをスタートさせた後、感染制御に越境し、公衆衛生を学んだ上で、厚生官僚を経験。現在はノーベル賞受賞で話題の行動経済学を医療に応用すべく研究を進める筆者に、 医療と経済と行政が交わる地点に立って思いの丈を語っていただきます。

この記事へのコメント(16件)

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  • 筆者(2020/08/01 16:31)

    SQ300様。コメントいただいたのに気づくのが遅れてしまい申し訳ございません。詳細な追加情報ありがとうございます。未査読論文についてのツッコミは、先生にご教示いただき勉強させていただきました。ありがとうございました。阪大病院のスクリーニング検査の結果については、対外的に公表できる立場になく詳細はここで書けません。申し訳ございません。ただ、自験例や伝聞も含めて、偽陽性はそれなりに出ているのは事実です。今、発表のお手伝いをさせていただいているものもあります。発表になりそうもないものとしては、LAMPでは偽陽性(そして偽陰性も?)がPCRよりも若干増える印象を思っています。検体から核酸を抽出するのか溶出するのかという、増幅手順にかける手前の段階の問題があるのかとも思ったりします。ただ、当職自身がRT-PCRを日常業務としてせっせとやっていたのは、海外の大学院に留学していたほんの一時期で、ずいぶんそこから離れてしまっているので決してこの手の技術を専門とする者の意見ではないことをご承知おきください。LAMPでの偽陽性例についての検体処理を、溶出ではなく抽出にして検査しなおしてみると、きちんと陰性の結果が得られた、なんて話もあったりして、増幅の手間の手技もやはりクリティカルであることを再認識しています。この手の話は、論文にもならないような些末な問題なのかもしれませんが、経験ある技師さんたちはみな知っていることのようです。 検査精度の問題を真摯に考えている多くの先生方には釈迦に説法ですが、偽陽性の議論をする時に、個人的にとりわけ気を付けていることがあります。それは、どの段階の「偽」陽性なのかという問題です。自験例でも伝聞でも、検査室レベルで「偽陽性」に遭遇しても、検査前確率が低かったり、「陽性」の出方が典型的でなかったりした場合には、もう一度再検したり、処理方法を変えたりして「真の陰性」を確認することで、偽の「陽性」という結果で患者が不利益を被ることを防いでいる事例がそれなりにあります。5月後半から6月いっぱいぐらいまでの有病率が全国的に低かった時期にスクリーニング検査を実施されているところは、おそらくこの手の「内々に処理された偽陽性」をいくつか経験されているものと推察します。これはNEJMの総説(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2015897)でも触れられていたanalyticとclinicalの違いの議論と本質的に同じと思います。

  • SQ300(2020/07/22 20:54)

    ご丁寧なコメントをありがとうございます。 「上げさせていただいた論文はいずれもクリティカルに読めばツッコミどころはあるのですが、他になかった、というのが正直なところです。」 正直なコメント、恐れ入ります。 そうしますと、中国武漢の1041例の論文において「PCR陽性、CT陰性」であった21人のうち、なぜ、「あるベータ分布に従ってそのうちの2割にあたる約4人前後が偽陽性になる」(→最終的には偽陽性3人と推定)については、テキサス大論文の著者の論理的思考過程はよくわからない、と受け取ってよいでしょうか。 テキサス大からのこの『特異度98.8%』という論文が、特異度99%を唱える医師の方々の中で、あたかも水戸黄門の印籠のような扱いを受けているわけでもなさそうですからあまり深入りしても仕方ないと思いつつ、偽陽性を推測していく道筋に関するご見解を確認させていただきたいと思った次第です。 「尾身先生がこの偽陽性・偽陰性の説明をされていたのをテレビで拝見しましたが、その時も特異度は99%とされていました。」 政府・内閣官房のweb siteに、「新型インフルエンザ等対策有識者会議」というページがありそこに今回の分科会の資料もリンクされています。 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/yusikisyakaigi.html 第1回(2020/7/6)の資料は全部がまとめて一つのPDFファイルで、その資料4-1「検査体制の拡充するための、基本的考え・戦略」」の11枚目に、2×2の表があり、確かに「特異度99%」となっています。 一方、第2回(2020/7/16)の資料の、まとめの資料PDFの6-1の9枚目(「検査体制の基本的な考え・戦略」というPDFの9枚目でも同じ)に、こんどは「特異度99.9%と仮定」というスライドを示されています。 ということは、「おそらく文献がないので苦肉の策?でそのように仮定されたものと推察します。」という森井先生の推察はおそらく正しいのでしょう。 「無症状者へスクリーニング検査も保険収載されてしまっているこの状況において、未だに特異度がバシッと決まらないというのもどうかと思います」 日本中の大学病院クラスの規模の病院において、入院患者全員というところは少ないでしょうが手術前患者スクリーニングを多数行っている病院はかなりあるでしょう。そこで偽陽性と思われる事例がどのくらい出てきているのか、そろそろデータが集まってきてもいい頃だと私も思います。 「特異度99%」が大体正しいのならば、おおよそ100人に1人のペースで陽性(真陽性+偽陽性)が出てきているはずです。私の周りではそのような話は聞かないです。今後、真の陽性は増えるでしょうが... 森井先生の病院では1例?何例?か偽陽性と思われる例があったとのこと。オーストラリアでは、PCR検査をn=3で行い、陽性が出たら別ラボに保存検体を送って再検査しているようです。 森井先生の病院ではPCR検査は院内検査部ですか、それとも民間検査会社ですか。そして検査の最終段階の前の検体は保存していますか?もし保存しているならば、保存検体での再検査でまた陽性が出るのかどうか、確認されてはいかがでしょうか。今回のその例が偽陽性なのかそうではないのか、そして偽陽性ならばその原因を絞り込むことに役立つかもしれません。あるいは確認済みであれば、その結果も教えていただけますと議論が深まるように思います。

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