Day 1 sith 入場
どうやら、ここでは照明を明るくすることで起きる時間を教えるらしい。
だが、眩しさで目覚めたというよりは、男たちの大声で起こされたと言う方が正しかった。
ここでは、起きてまずやることが、大声での挨拶だった。
起床後、洗面、朝食までのスケジュールの間、誰とも話すことはなく、
朝食のとき、ようやく同居人と挨拶を交わした。
私を含めて4名。1番大柄な男は名前を名乗り、詐欺です、と付け加えた。
眼鏡をかけた若い男と年齢不明の茶髪ロン毛は、2人とも名前の後、
罪名を窃盗と言った。
ここでは自己紹介を、名前と罪名だけで済ますようだった。
こちらが頼んでもいない、先住民3名の必要にして充分な自己紹介が終わると
彼らは静かに食事を始めた。私は食べなかった。
食欲が湧かなかっただけではない、迷っていたのだ。
次が誰の番かは、ド素人の私にだってわかる。
気が重かったが、正直に言うことにした。
結果としてそれは正解だった。
「珍しいですね」
「2室に似たような奴がいたよな」
この部屋は7室だった。
「あの人は、Yahooオークションで売ってたんですよ」
コピー屋さんがいるらしい。
だが、それは私にとって都合の良いことではないような気がする。
とりあえず、口止めを頼むことにした。(30分くらいの効果はあった)
朝食の間、7室を(というより彼らの人となりを)観察したところ、
この部屋を仕切っているのは、大柄で態度の横柄な詐欺師ではなく、
小柄で、前歯の欠けた茶髪ロン毛のように思えた。
詐欺師のロン毛に対する態度の中に、僅かながら卑屈さが感じられたのだ。
そう言えば、コイツ1番奥で寝ていたな。間違いないんじゃないか。
眼鏡をかけた、やや太めのどうでもいいような若い奴は、おそらく最下層だろう。
世間一般の想像そのままに、オリの中では小さいながらも、
厳然たる階級社会が存在していた。
食パンとマーガリンとジャム、
それと、乳製品の取扱いで社会的制裁を受けた会社の牛乳が今朝の朝食で、
ジャムがマーマレードになる以外に大した変化はないよと横柄で大柄な詐欺師が言った。
どうでもよかったが、その後振り返ると確かにそうだった。
スポンサードリンク
朝食が終わり、ただなんとなく、
今日はこのままここで一日過ごすんですかね、と誰ともなしにたずねると、
即座に全員から否定された。
「シンケンだよ、アンタ」
シンケン・・・?
警察は、被疑者を逮捕したならば、
48時間以内に所定の書類と共に検察官のところへ被疑者を連れて行かなければならない。
その検察官による最初の取調べをシンケンと呼ぶそうで、
おそらく、新件と書くのだろう。
私は、その日の残りの時間ほとんどを検察庁で過ごすハメになった。
シンケンとは、そういう苦痛を伴う、被留置者の忌み嫌う行事の1つだった。