おさかな座賀紀行


ユメカサゴ

本日の魚はユメカサゴHelicolenus hilgendorfi (Steindachner and Döderlein, 1884)です.

本種は水深150m以深の深場を好むメバル科魚類です.食用として利用されており,しばしば底曳き網で大量に漁獲されますが,ここ志摩半島では主に釣りによって漁獲されています.本種は同属のオキカサゴやニセオキカサゴとよく似ておりしばしば混同されます.後2種とは側線の上下に細長い赤褐色の斑紋があるかどうか(ユメカサゴには幅の広い赤橙色の横帯がある)で識別されますが,ユメカサゴの大型個体でもこのような斑紋が現れることがあるようです.また最近のミトコンドリアDNAのマイクロサテライト座位を用いた研究ではニセオキカサゴはユメカサゴとオキカサゴの交雑個体である可能性が強く示唆されています.写真の個体は和具沖の水深250mから釣獲されました.同じ場所に多数が群れていることが多く,一度釣れ始めると連続して釣れることもあります.

Helicolenus hilgendorfi

コバンザメ

2日連続の頭部背面シリーズです.

本日の魚はコバンザメEcheneis naucrates Linnaeus, 1758です.

本種は頭部背面に発達した小判型の吸盤でサメやウミガメなどの大型動物に吸着するという特異な生態であまりにも有名な魚です.背中の「小判」は背鰭が変化してできたものだと考えられています.本種はコバンザメ科魚類の中で最も大型となり,体長100 ㎝に達することもあります.大型個体は吸着生活を送らずに自由遊泳していることも多いようです.本種はスジコバン属のスジコバンと形態的に類似していますが,吸盤の板状体の数が多く,18~28であること(スジコバンは9~11)から識別されます.写真の個体は御座の定置網に入網したもので,選別台の上に張り付いているところを発見されました.

echeneis-naucrates

オオヒメ

今日の魚はオオヒメPristipomoides filamentosus (Valenciennes, 1830)です.

本種は主に水深100m前後の深場に生息するフエダイ科魚類で,沖縄では他の「マチ類」(ハマダイやアオダイなどの深場に棲むフエダイ科魚類の総称)と同様に食用魚として重要視されています.ここ志摩地方ではごくたまに漁獲されるものの,流通しているのは見たことがありません.

本種はよく似たヒメダイとは側線有孔鱗数が59~65枚と少ないこと(ヒメダイは70~74枚),キンメヒメダイとは頭部背面に暗色の小斑点が多数あること(キンメヒメダイは頭部背面に黄色の虫食い紋様がある)ことなどから区別されます.この個体は御座沖の水深45mで釣獲されたものです.

 

 

Pristipomoides filamentosus

アミウツボ

先週から急に寒くなり,冬の到来を予感させる北風の吹く座賀島からお届けします.

本日の魚はアミウツボ Gymnothorax minor (Temminck and Schlegel, 1846)です.

本種は温帯種で,琉球列島を除く本州中部以南,台湾,ベトナムまでの中国大陸の沿岸域に分布する中型のウツボ属魚類です.沿岸域でも水深100m前後の深場を好み,底曳き網でよく漁獲されるらしいのですが,ここ志摩地方では定置網に時々入る程度で見かける機会はあまり多くありません.写真の個体は御座の定置網で漁獲されたもので,この日は珍しく一度に4個体がみられました.

Gymnothorax minor

チョウハン

調査続きで,更新が滞ってしまいました・・・,約1か月ぶりの更新です.

今日の魚はチョウハンChaetodon lunula (Lacepède, 1802)です.本種はチョウチョウウオ,トゲチョウチョウウオ,アケボノチョウチョウウオ,フウライチョウチョウウオ,セグロチョウチョウウオと並び本州沿岸でも幼魚が夏~秋によくみられるチョウチョウウオ属魚類です.本種の幼魚はチョウチョウウオの幼魚とよく似ていますが,チョウチョウウオの幼魚は背鰭のみに眼状班を持つのに対し,本種では尾柄部にも眼状班があることから識別されます.チョウハンの名前は頭部の白色帯が丁半頭巾を被っている様を連想させることから名づけられました.座賀島では他のチョウチョウウオより数が少なく,数年に一度目撃される程度でしたが,今年になりようやく採集することができました.

Chaetodon lunula

ソウシハギ

今日の魚はソウシハギAluterus scriptus (Osbeck, 1765)です.

本種は体側に青色の斑紋があること,尾鰭は長くその後縁は丸いこと,背鰭条数が46~52本であることから同属のウスバハギや他の日本産カワハギ科魚類から識別されます.成魚は暖海域のサンゴ礁などで暮らしていますが,幼魚は流れ藻などの漂流物について表層を漂いながら生活しています.そのため幼魚は海流に乗ってかなり北方の海域でも採集されることがあるようです.

本種は内臓に猛毒のパリトキシンを蓄積し,食べると中毒を起こす可能性があることで有名です.その一方で本種の成魚が多く産する沖縄県では「センスルー」と呼び食用とされています.当地では一般的に魚類の内臓を食べないため(筋肉は無毒),今まで本種による中毒の報告はありません.標本の個体は座賀島でロープについているところを採集されました.

 

aluterus-scriptus

オキザヨリ

今日の魚はオキザヨリTylosurus crocodilus crocodilus (Péron and Lesueur, 1821)です.

本邦においてダツ科魚類はダツ,テンジクダツ,ハマダツ,ヒメダツ,リュウキュウダツ,そしてオキザヨリの6種が分布していますが,本種は尾柄部側面に隆起線があること,背鰭軟条数が21~24本であること,鰓蓋に暗青色の横帯があることなどから他の5種と区別されます.この標本は座賀島で採集されたものですが,全長20cmほどとまだ若魚であるため,背鰭の後縁がドレープ状に延長しています.

本種はダツ科のなかでも大きくなり,最大で全長1.3mほどまで成長します.本種に限らずダツ科魚類には正の走光性があるのですが,それが時に人間に危害を及ぼすことがあり,電灯潜り漁の漁師やダイバーが光に向かって突進してきたダツに刺されるという事故が発生しています.

 

tylosurus-crocodilus

ハモ

今日の魚はハモMuraenesox cinereus (Forsskål, 1775)です.

本種は水産重要種で「骨切り」を行ってから賞味され,関西―特に京都では夏の味覚としてなくてはならない魚です.地方によって評価が分かれる魚で,ここ志摩地域では残念ながら評価が低く,漁港で捨てられていることもあります.「ハモ」の由来には諸説あるようですが,よく噛みつくことから「食む」が転じてハモと呼ばれるようになったと言われています.写真の個体は座賀島産で水面付近を泳いでいるところを採集されました.良く見かける大きさは1mほどまでが多いですが,時には2mを超えるような大物が捕獲されることもあります.

 

ニセフウライチョウチョウウオ

本日の魚はニセフウライチョウチョウウオChaetodon lineolatus Cuvier, 1831です.

実験所の周辺で毎年夏~秋によく見られるチョウチョウウオ属の魚はチョウチョウウオ,トゲチョウチョウウオ,アケボノチョウチョウウオ,フウライチョウチョウウオ,セグロチョウチョウウオ,トノサマダイの6種ですが,今年はこれに加えミスジチョウチョウウオや本種ニセフウライチョウチョウウオも見られました.本種はチョウチョウウオ属としては大型となり成長すると全長30cm以上に達します.

 

Chaetodon lineolatus

オオスジヒメジ

今日の魚はオオスジヒメジ Parupeneus barberinus (Lacepède, 1801)です.

本種はヒメジ科のなかでも大型になる種で最大で全長60cmに達するようです.しかしながら座賀島の所在する志摩半島では~10cm前後の個体が観察されるのみで成魚は確認されていません.昼間はコバンヒメジやホウライヒメジなどの他のウミヒゴイ属の魚やチョウチョウウオ類と一緒に群れていますが,夜間は単独で寝ていることが多いように感じます.多くのヒメジ科魚類と同様に本種も昼と夜で体色が異なり,昼間は背側は黄褐色で腹側は白色というカラーリングなのですが,夜は体側が一様に赤~桃色になります.この個体は夜間に採集されたため,標本になっても夜の体色のままです.海中で赤色は真っ先に減衰するため,赤っぽい体色は夜の海の闇に溶け込むいわば迷彩色の役割を果たしていると考えられます.

 

Parupeneus barberinus


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