OVERLORD -the gold in the darkness-   作:裁縫箱

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 少し投稿時間が遅くなりました。待っていた方がいらしたら心苦しい次第です。
 
 あと、文章量は前回より少ないです。


4、実力把握

 トロールは、人間の肉を食べるが大好きだ。基本的に、強者と戦い、打ち負かした相手を喰うことを尊ぶトロールではあるが、そんな彼らでも、人肉は味の面からよく食べる。決して、人間がトロール以上に強いわけではないのにも拘らず、好んで食べることからも、人間が食料としてどれだけ愛されているかが窺えるだろう。

 

 故に、知能の低いトロールたちには珍しく、彼らは、人間をより安定的に確保するために、策を講じた。

 人間を捕らえ、集め、繁殖させる飼育場を作り出したのだ。

 

 流石のトロールといえども、在野の人間を片っ端から狩っていくうちに、人間が徐々に減っていくことに気づいたのだろう。そんな中で、とあるものが、ミノタウロスの国に設置されている人間の飼育場のことを聞きつけ、実行に移したのがきっかけとなり、人間の飼育場は、トロールの国全土に広まった。

 中でも、母親の腹に宿って六カ月の胎児を、大量に市場に供給できることが決め手となったらしい。

 それまではその条件の厳しさ故、希少とされていた高級食材に魅了されたトロールたちにより、飼育場の研究は加速。

 現在では、ある程度の自由を与えながら飼育することにより、肉質が向上するということまで分かっているようだ。

 

 

:::::

 

 

「・・・なるほど。お話は理解できました。この世界における食糧事情は、なかなか興味深いもののようですね。」

 

 黒鎧の言葉に、黒フードは頷いた。一時的に脱げていたフードだったが、すぐに被りなおしたようで、また素顔が見えなくなっている。

 

「でしょう。僕も結構驚いてるよ。まさか、見るからに頭悪そうなトロールたちが、そんなに頑張るほど人間が美味しいとはね。僕はよく分からないけど、エントマあたりに聞いてみたら何か感想とかあるのかな。」  

 

 時刻は既に日没を過ぎており、森の中は完全な闇に包まれている。しかし、夜目の利かない人間などとは違い、彼ら二人に、暗闇は障害となりえない。全く気にせずに、舗装されていない悪路を進んでいた。

 

「どうでしょうか。エントマの味覚がトロールのとそれとどの程度違いがあるかは、比べようがありませんし。・・・それで、あの人間の子供は、その飼育場なる場所から逃げ出したということでしょうか。本人の発言内容や、追ってきたトロールのことからもほぼ確実だと思われますが。」

 

 前を歩く黒フードの頭上で、ふわふわと浮いている緑色の光の球を見ながら、黒鎧はそう言った。

 光球は、丁度手足を縮めた人間が一人入れるようなサイズで、中には、今話題に上っている子供が保護されている。ナザリックには戻らず、散策を続けることにした二人の邪魔にならないためということが多いが、それでも、かなり厳重に守られていることに変わりはない。とても幸運なことだ。本人も、眠ったまま中にいるので、余計な不安はないだろう。

 

 配下の黒鎧と同じように、黒フードも、光球を見上げた。

 

「うん。魂の記憶を見ても、あのトロールが、飼育場を警備していたうちの一体であることに間違いはない。あの子の姉や家族というのも、そこにいたんだろう。まあ、本当の家族かどうかには、少し疑問があるけど、それは今からやることには関係ないことだね。」

 

 フードの下でにやりと笑う。その様子に、主の心中を僅かながら察した配下は、その意思を確認するべく言葉を綴った。

 

「・・・では、この人間の望みを聞き届けられるのですか。貴方様自ら出向くほどの事ではないと思われるのですが。」

 

「いいんだよ。僕の能力把握のためにも、実験台は多いほうがいい。それに、周辺を偵察させているシモベたちからの報告にも、僕たちに届きうる能力を保有した個体はいない。少し遊んでも、問題はないだろうね。」

 

 楽しそうに笑った彼の横顔が、アルベドの脳裏に強く焼き付いた。

 この笑顔を独占できたことで、同胞たちへの自慢話ができたと内心歓喜しながらも、配下としての苦言を呈しておく。

 

「・・・しかし、万が一の事態も想定し、伏兵を用意しておいてもいいかと存じます。ただ正面から攻めるだけでは、些か芸がないかと。」

 

「なるほど。それもそうか。・・・八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)

 

 顎に手を当てて考えた後に、彼は、潜伏していた配下を呼び出す。

 即座に、数匹の異形が姿を現し、追従してきた。

 

「御前におります。何なりとご命令を。」

 

「急いでデミウルゴスのところに行ってきて、トロールたちの退路を塞ぐ形で兵を一部動かすようにと伝えておいて。ここで逃げられてもすぐ捕まえられるとは思うけど、人間の死者が増えたりすると、約束を反故したことになってしまうからね。」

 

「ハハッ。」 

 

 瞬く間に闇夜に消えていく異形たちを見送りながら、彼はアルベドへ声をかけた。

 

「ありがとうね、アルベド。ちゃんと注意してくれて。」

 

「注意などと、とんでもありません。私はただ務めを果たしたにすぎませんから。」

 

 先ほどに倍する嬉しさが湧き上がってくるが、それを押し隠してアルベドは一礼する。

 至高の存在に仕えるシモベとして、自らの感情程度で務めに支障をきたすことは許されない。その信念がアルベドにそう行動させた。

 

 その姿に彼は、少し複雑そうな表情になる。

 

「う~ん。いやそういうことであってもさー。やっぱりこうー、う~ん。」

 

「・・・何かございましたか?もしや私の行動に問題でも?」

 

「いや・・・うーんまあいいよ。とりあえずは周囲の警戒を頑張ってくれればいいから。」

 

 心配そうな声に、問題がありましたなどとは言えない彼は、ひとまず話を変えようと部下の仕事のことに触れる。

 幸いにも、アルベドもそこまで突っ込んでくる気はなかったのか、不思議そうに頷いた。

 

「・・・畏まりました。」

 

 そのまま命令に応えようと、周囲の警戒に努めるアルベドだが、実際のところ、彼女のところまで不審な影が接近することは不可能といっていい。

 なぜなら、黒フードの周囲にはナザリックのシモベ達が多数、階層守護者デミウルゴスの指揮のもと、厳重警戒態勢で控えているからだ。

 勿論、常人にそれと気づかれぬよう、隠密能力を持つものを重点的に選抜しているので、戦闘力では、やや劣る面はある。しかし、そんな配慮は、外の世界の住人たちにとっては誤差の範囲内だ。どちらにせよ、世界を滅ぼしうる軍団が闊歩していることに変わりはない。

 

 ただ、客観的には過剰ともいえる戦力だが、今の彼らの状況を考えると仕方がない面もある。兎にも角にも至高の存在の守護を第一とする彼らにとって、世界級アイテムで守られているナザリック地下大墳墓が予兆なく謎の場所へ転移している現状は、まさしく異常事態。

 外の世界に何が待ち受けているかは全く分からず、従って、至高の存在を守り切れるかどうかも怪しまれる。

 そこで、至高の御方がデミウルゴスに、

 

「危険性を考えて、外に出かけるときは護衛をつける必要があると思うんだ。それで護衛の手配、及び指揮を、君に任せることにした。君が良いようにシモベ達を動員していいから、完璧な対処を頼むよ。」

 

 と言った結果、このような大名行列さながらの大軍が組織されることになってしまったのだ。

 

 過保護で済めばいいが、もしデミウルゴスを初めとする守護者たちが何らかの危険を察知した場合、戦争、または虐殺が起きる可能性をまざまざと見せつけられた黒フードは、この布陣を聞いた際、天を仰いだそうな。

 

 だが、そんな彼でも却下はしなかった辺り、ナザリック外への潜在的恐怖を一番持っていたのは、実は彼自身だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今宵トロールたちに、未曽有の悲劇が降りかかる。

 

 世界最強の軍勢に襲撃される彼らの運命は、まさしく絶望。

 

 まるで、あと一秒で人に踏まれるのを待つ蟻のように、いやそれよりも遥かに圧倒的な差 

 が、トロールたちに立ち塞がる。  

 

 

:::::

 

 

 

 上空から見て、二重に柵を設けた集落だ。上からだと外側の柵の方が高く見えるが、そんなことはない。実際には、集落全体が蟻地獄の巣のようにすり鉢状の土地に位置しており、高低差があるため、外側の柵の方が高く思えるのだ。

 

 そして外に面した柵の内側で、一体のトロールが徘徊していた。彼の名前は、ガ・ドズ。現在は、人間たちが住居の外に出て、一つ目の柵をよじ登ろうとしていないかどうか監視する任務についていた。ただ、彼の仕事が人間の監視だけではないことは、彼の握った赤黒く変色しているメイスを見れば、分かることだ。

 食料を狙う盗人は、いつの時代でも多く、またそれに対処する番人も、存在せざるを得ない。そして、食料が逃げ出そうとする心をへし折るための見せしめも、番人としては有効な手段だ。

 

 彼のほかにも、総数三十体のトロールが飼育場内で見回りをしており、ここで飼育されている人間数百を管理している。

 数だけを見ると、トロールたちのほうが圧倒的に少なく、管理に不安があるが、ガ・ドズはそんな心配はしていなかった。

 現実的に人間がトロールを倒すことなど不可能だからだ。強力な再生能力と、身体能力、そして嗅覚を持つ彼らにとって、非力な人間が襲ってきたとしても、問題なく殺しきれる自信がある。

 そして、もし仮に人間が逃げていたとしても、そもそも人間の数に記録をつけていないトロールたちの間では、騒がれることはない。それが妊婦であれば、惜しいとは思うが、それだけだ。

 

 反対に怖いのは、仲間内の誰かが、内緒でつまみ食いをしていた時だ。その時は、上から激しく叱責され、肉体的な罰も与えられる。

 目の前で極上の獲物が群れているのだから、喰いたくなっても仕方はないが、それでもそういうことがあると、報酬の人肉も貰えなくなるので、それ欲しさに職に就いているガ・ドズにとっては、辛いものがあった。

 

 そういえばと、ガ・ドズは夕方ごろに脱走者を追いかけていった同僚が戻っていないことを思い出した。既にあれから数時間は経っているが、未だに戻ってくる気配がない。

 誰かが、逃げ出したのは子供だと言っていたが、それが本当としたらなおさらおかしい。

 人間の子供が、トロール相手に逃げ切れるわけがないからだ。

 だとするともしや、つまみ食いをしてその処理に時間でもかかっているのではと、ガ・ドズは思った。というか、それ以外だと何があるのか。

 これは面倒なことになったと気が重くなってきた彼は、少し足を止める。そして柵の奥の御馳走たちのことに思いをはせた。

 

 この職について数年。彼の寿命からすると短い期間だが、それまでの長い年月も、この飼育場の番人になるために努力してきたことを考えると、易々と放棄していいはずがない。

 

 今思いついたことを仲間に知らせ、同僚の捜索に赴いたほうがいいだろうか。同僚を見つけ、つまみ食いをしていた場合は拘束し、上に報告すれば、自分たちは軽い罰で済む。間違っても、職を解かれることはないはずだ。

 ただ、そう簡単にことを運ぶことも出来ないと、トロールにしては頭がいい彼は分かっていた。

 なぜならば、現在飼育場で待機しているトロールたちは、妊婦の連行のために数を割く必要があり、通常時に比べ、数が少ないからだ。既に脱走者が出ている現状で、他のことへ監視員を使えば、さらに逃げ出される可能性が増してしまう。

 騒がれないとしても、脱走者が出ることは当然喜ばしくはない。

 

 

 これは困ったと、頭を悩ます彼だったが、ふと視界の隅に、黒い羽が見えた。自分が着ているのは毛皮で、羽毛ではない。

 なんだと思って首を回してそちらを見ると、意味不明なものを見た。

 ガ・ドズの肩に、黒い鳥が止まっていたのだ。彼の知識の中には、クアランベラトという、似たような外見の鳥がいたが、それとは何か根本的に異なる気がする。

 そもそも、肩に乗っているのに、感触がない。また、鳥であればの羽ばたいたときに音が出るはずだが、それも全く聞こえなかった。

 不気味な存在。もしかしたら、自分の知らないモンスターかもしれない。

 そう結論付けら彼は、一先ず手で払おうとするも、そこでさらなる異変に気づく。

 

 手が動かない。

 いや、手だけではない。

 体のいたるところが、ピクリとも動かない。

 

 それは奇しくも、彼が今しがた考えていた同僚の身に起こった現象と同じで、また最期まで同じだった。

 

 鳥の足が触れていた箇所からだんだんと黒く、塵になっていき、やがて全身がこの世から消え去る。

 鳥の煌々と光る不気味な眼に覗き込まれながら、ガ・ドズの意識は途絶えた。

 

 そして完全にトロールの肉体が塵になったのを見届けて、鳥は飛び立った。既に足場となっていた肩が消失していたにもかかわらず、まるでそこに肩が残っているかのような体勢からの飛翔だ。

 

 そのまま、黒い鳥は羽を大きく開きながら、自らの主人の許へと急ぐ。

 鳥の足には、青白く光る球体が掴まれており、それが夜空に流星のように輝いた。

 球体の輝きに照らされて、同じような鳥が数十羽、同じ目的へと飛んでいるのが見える。

 さらによく見ると、鳥たちの目的地には、一人の影が立っていた。全身黒装束で、闇に溶け込んでいるが、鳥たちの眼には関係ない。

 迷いなく全ての鳥が主人へと降下していく。

 

 次々に鳥たちが、主人が広げた掌に輝く球体を置いていき、また空へと上がっていった。

 そして全ての鳥が球体を主人に渡し終えたとき、主人の掌には、ソフトボールほどの大きさの球体が収まっていた。

 主人はゆっくりと指を閉じる。球体はそれを拒むかのように激しく輝いて、黒フードの主人の口元を照らした。僅かに上がったその口角を。

 

 再び掌を開いたとき、球体は既にその姿を消していた。

 しかしまだ実感が沸かないのか、黒フードは閉じて開くを何回か繰り返す。

 その姿に、疑問を抱いたのか、傍らから声がした。

 

「いかがいたしましたか、■■■■様。何か異常でも。」

 

「いや、問題はない・・・かな。なんというか、こう、不思議な感触だね。前とは違うというか、体の中が熱くなるというか。まあ、即座に何かあるわけじゃないから、このまま続けよう。」

 

「承知いたしました。では、人間たちはどういたしましょうか。先行させたシモベが眠らせたため、動き出してはおりませんが、状況に気づかれると面倒です。」

 

 黒フードは、自分たちが立っているところから、飼育場を見渡す。

 現在彼がいるところは、飼育場の中心だ。不可知化した状態で潜入し、生み出した眷族たちに魂を集めさせたのだが、思った以上に呆気なく終わり、拍子抜けしていた。

 

「・・・仕方がない。助けると言った手前殺してしまうのは、道理に反する。シモベ達にはままここで頑張ってもらおう。僕とアルベドは、妊婦たちのところへ行く。」

 

 

 




 書いていた文章に納得がいかず、金曜日に七千字消去。
 
 ハハハハハ。


 

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