あの日から数日が経過したが、凰が行動を起こそうとはしていなかった。たまにすれ違ったが織斑と一緒の時は無視して俺単独だと挨拶する程度。あの部屋で危険人物だという事は認識できたようだ。ま、箒の存在があるから俺の事は基本的に敵だと思っているのだろうが。
そんな状態だったのだが驚いたのは織斑が何もしないことだった。一度その事について聞いてみたが、「向こうが放っておいて欲しそうだった放っておいた方が良いだろ」という事だが、たぶんそれは間違いだろう。恋愛経験が無い俺の意見なんて参考にならないが、それを聞いたオルコットは顔を逸らしたからあながち間違いではなさそうだ。
「……織斑さんに惚れる方は、苦労しそうですわね」
と呟いていたので、どうやら彼女は織斑には惚れていなさそうだが、その事については間違いではない。まぁ箒に関しては行動しなさすぎているところはあるが。
そんな現状が続いている中、クラス対抗戦はいよいよ近づいてきてアリーナが調整に入るのでISでの特訓は今日でおしまいになる。後はトレーニングするなりで自力を上げるしかない。その事を今回もまたISを使えるようになった箒が述べているが、誰がお前の相手をすると言ったのか。
今では織斑の戦闘方法に納得している箒だが、当初戦い方を見た時に「剣を投げるなどふざけているのか!」と怒鳴ってきた時は姉の存在を隠しきった俺を誰か褒めるべきだろう。妹にすら配慮できる俺、素晴らしい。……なんだろう。涙出てきた。後で楓に癒してもらおう。クラスメイトに癒し代表と言われている布仏がいるが、悠夜に殺されたくはない。
「IS操縦もようやく様になってきたな。今度こそ―――」
「まぁ、わたくしと武さんが訓練に付き合っているんですのもの。このくらいはできて当然。できない方が不自然というものですわ」
「あんまりプレッシャーを与えてやるな。いざと言う時に縮こまって動けなくなっては困るからな」
別に戦わなくても良いが、流石に逃亡手段まで忘れられては困るしな。
「どうせなら最後なんだし、実戦形式でもやるか」
そう言うと織斑が「待ってました」とテンションを高める。それをオルコットが妙に冷ややかな目で見ていた。心なしか箒もやる気のようだ。
「それで、一体どのような組み合わせで行いますの? わたくしが単体で、というのならば成長したことを証明しますわ」
「それも良いかもしれないが、織斑と箒の二人だと証明にならないだろ。せめて俺レベルが10人いたとしても圧倒できるくらいには育ってもらないと」
「あなたレベルが10人なんて悪夢そのものですわ!」
「……え? そこまで言う?」
まぁ確かに俺が10人もいたら世界終わっているかもしれないけど。
ピットに着いたのでドアを開くと、そこには先約がいた。
「待ってたわよ、一夏!」
と、アホが腕を組んで立っていた。哀れな奴だ。腕を組んでも胸がそこまで目立っていない。愚妹ならば間違いなく揺れるのに。オルコット? 知らん。
「貴様、どうやってここに来た!」
「……関係者以外は、基本的に入れないはずなのですが」
「アタシは一夏関係者よ。だから問題なしね」
「……ほほう。どういう関係かじっくり聞きたいものだな」
ただの腐れ縁程度だろうと突っ込んだらたぶん今度こそキレると思ったので自重した。織斑が箒を見て妙な反応をしているなと思っていると、何故かオルコットが俺の腕を掴んで箒から隠れるように移動している。
「な、何なんですの、あなた方兄妹は。もう既に人間を辞めていません!?」
「あの程度で、か。それならまだクソ姉の方が十分辞めてるな」
「……はい?」
俺とオルコットでやってて思ったがおかしな会話をしていると、織斑と箒の方でもおかしな会話をしていた。
「……おかしなことを考えているだろう、一夏」
「いえ、なにも。人斬り包丁に対する警報を発令しただけです」
「お、お前と言う奴は―――」
織斑掴みかかろうとする箒だが、その間に凰が割って入って止める。
「今はアタシの出番。アタシが主役なの。脇役はすっこんでてよ」
「わ、脇や―――」
「はいはい、話が進まないから後でね。……で、一夏。反省した?」
あ、箒が大人しくなった。戦略的撤退だろうか。
「へ? 何が?」
「だ、か、らっ! アタシを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!」
全く。無駄なことをしていることに気付いていないのか? そんなことを言ったところでどうにかなるわけないのに。そもそもあの女、どれだけ織斑に気付いてほしいんだっての。
「いや、そう言われても……鈴が避けてたんじゃねえか」
という奴にまともな告白をしないといけないって何故わからないのか。あの時の会話でそれをわかったのじゃなかったのか?
「アンタねぇ……じゃあ何? 女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ!?」
「おう」
……これに関しては俺も同感だな。藪蛇を突いたところで自分に不利な状況なんて誰も作りたくない。ましてや今は女尊男卑。下手に関わって冤罪で訴えられたらその冤罪が真実になるくらいの酷さだ。そんな世の中で押してダメなら引いてみろなんて作戦、通じるわけがない。
「なんか変か?」
「変かって……ああ、もうっ!」
とは言え織斑の態度にも問題があるな……と言ってもこいつ、何で凰がキレているのかわかっていないんだよなぁ。
「謝りなさいよ!」
だからこそ、今の織斑に謝れって正しく悪手だ。
「だから、何でだよ! 約束覚えてただろうが!」
「あっきれた。まだそんな寝言言ってんの!? 約束の意味が違うのよ、意味が!」
さて、どうしたものか。こっちはそんなじゃれ合いに時間をかけられたら困るんだがな。
「下らいことを考えてるでしょ!?」
織斑は織斑で集中力が無くなっているのか別の事を考えているみたいだし、そしてそれで凰のボルテージが上がっている。
「あったまきた! どうあっても謝らないっていうわけね!?」
「だから、説明してくれりゃ謝るっつーの!」
「せ、説明したくないからこうして来てるんでしょうが!!」
たぶん、当事者だったら今頃凰を入院―――下手したら再起不能にまでしていたな。まぁ今回は凰の気持ちも少なからず同情できるし我慢してやっているが。
「じゃあこうしましょう! 来週のクラス対抗戦で勝った方が負けた方になんでも一つ言う事を聞かせられるってことで良いわね!?」
「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明してもらうからな!」
「せ、説明は、その……」
と顔を赤らめる凰。ま、告白をしたことを説明させるとか拷問でしかないからなぁ。
「何だ? 止めるなら止めてもいいぞ?」
織斑のその一言が凰にとっては余計なお世話だったのだろう。凰は一気に沸騰した。
「誰が止めるのよ! あんたこそ、アタシに謝る練習しておきなさいよ!」
「何でだよ、馬鹿」
「馬鹿とは何よ馬鹿とは! この朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタよ!」
「うるさい、貧乳」
その瞬間、俺たちの後ろで爆発音が響いた。その衝撃でピット内が揺れる。凰は右腕部を肩までISを展開しており、アーマーに紫電が走る。
「言ったわね……。言ってはならないことを、言ったわね!」
「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」
「今の『は』!? 今の『も』よ! いつだってアンタが悪いのよ!」
俺は盛大にため息を吐く。そして―――
「ちょっとは手加減してあげようとかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね。良いわよ、希望通りにしてあげる。全力で―――」
さっきからごちゃごちゃと五月蠅い凰を蹴り飛ばした俺は残念に思いながら言った。
「少しはマシな奴が現れたと思ったが、どうやら見込み違いだったようだな」
「ちょっと、どういうつもり―――」
「―――黙れ」
オルコットの危機管理能力の向上を素直に喜びながら凰に銃を向けて発砲した。それを直に食らって凰は察したらしい。
「アンタ、何でそんな攻撃―――」
「コピーとでも思った? 敢えてそう念じて放出しただけに過ぎない。俺はお前ら女とは違うんでな。ましてやお前で証明できた。俺の作ったものはISにもダメージを与えられる」
「調子乗んな! アンタからスクラップにしてやるわ!!」
「………俺をスクラップに? やるもんならやってみろよ」
そう言って武装を展開しようとした瞬間、後ろから殺気を感じたので回し蹴りをすると受け止められた。
「チッ。アンタかよ」
「……お、織斑先生……」
「………凰、あれはお前だな?」
織斑千冬が顎で指したのを見て、凰は顔を青くする。
「で、でも、それは、一夏が―――」
「さっき私の端末にこのデータが送られてきてな」
ズボンのポケットから取り出した映像には、凰がしっかりと織斑の近くを狙ってISを使って攻撃をしていた映像が流れていた。
「こ、これ―――」
「出所は知らんが、貴様がISを使って生身の人間に撃っている風に見えるが?」
「そ、それは、その―――」
「とりあえず、来てもらおうか」
凰は無理矢理織斑千冬に攫われてどこかへと連れていかれる。その間に俺の事も色々と言っていたが、俺は無視して銃姫を展開する。
「ちょ、武」
「重要度は凰の方が高い。さてと、織斑。相手の武装はわかったんだ―――俺が呼ばれる前に対策しようか」
「……あ、うん。わかった」
織斑もISを展開してカタパルト発射口から出て来るのを確認した俺は、織斑に徹底して凰の攻略を教え込むのだった。
それからしばらくして、凰は反省文50枚。俺は凰を殴ったことで反省文10枚を言い渡されたが、その反省文10枚を使って俺が反省する必要性が皆無であることと、世界が施行した女性優遇制度がどれだけ愚かという事と、織斑一夏がどれだけ鈍感すぎるかを書き綴ってやったのだが、やり直しを要求してきたので、ISの本来の使い方と今の世界がどれだけ間違っているのかを書き綴ったら呼び出しを食らったので「反省する事はありません。最も反省するべきは世界でありますが、なんでしたら今すぐどれだけの愚行をしていたのかを証明したしましょうか?」と尋ねたら諦めたようだ。
■■■
クラス対抗戦、当日。第二アリーナの管制室には二人の生徒が訪れていた。一人は武の要請で一夏の特訓を手伝ったセシリア・オルコット。そして回数こそ少ないが積極的に関わっていた篠ノ之箒の二人である。本来ならば第一管制室と第二管制室にそれぞれセコンドの随員が許可されていたが、第二管制室には二組の担任以外は誰もいない。というのも凰鈴音の存在を好ましく思っていない派閥が大半だからである。
そんな状況だが、それよりも千冬はセシリアと箒を見て疑問に思った。
「篠ノ之兄はどうした? 今回のことで一番動いていたのはアイツだろう?」
「……さぁ。たださっきすれ違った時に「箒でも呼べば?」と言っていたので……」
「……私も何も聞いていません」
すぐさまそう答える箒にため息を吐く千冬。とはいえ、これで条件は満たし問題はないだろう。
(大方、どこかで待機はしているだろうが、奴がいないのは少し不気味だな……)
と考えたところで、ある事に気付いた。
(そういえば、妙に物分かりが良かったな)
千冬も昔から武が一夏を嫌っている節があることは感じていた。それは妹が取られそうだからとかではなく、純粋に自分の領域に足を踏み入れる敵と認識している雰囲気だった。だが今は一夏の事を助けているため、成長したのではないかと思ったが。
(まぁ、いない者の事を考えても仕方ない、か)
これから始まる弟の戦いに注目しながら、千冬は自分のするべきことを考えていた。だからこそだろう。そこに一人、異物が混じっている事に気付いていないのは。
アリーナの映像を見ながら武はコックピットで待機する。既にいつでも出れるように操縦桿を握っていた。
『来たわよ』
「そうか。零司、行ってくる」
『……了解』
フットペダルを踏みこむと同時に飛行形態の銃姫がカタパルトを疾走、射出されてブースターを噴かせた。
『目標は一―――いえ、武の予想通り二機よ』
「零司、俺の周囲500mだ」
『……わかった』
武が出てきた場所とは別の場所から槍のような形状をしたものが現れて散る。そして武からキッチリ500m離れた場所に移動して滞空を始めた。
『起動しなさい』
武だけが聞こえる声がそう言うと周囲に滞空していた槍が開いてバリアフィールドを形成した。
『首尾はどうだ?』
『上々よ。どちらもエリア内に捕らえることができた』
武は下の方に視線を向けると、さっきまで姿がなかった一機が壁に阻まれてぶつかって透明化が解けていた。
『上から来るわ』
武はすぐに人型に戻りながら回避する。上には下にいるタイプとは形が違うタイプの敵がおり、武を狙う。武はすぐにエネルギーライフル《リヒトブリッツ》を展開して攻撃を始める。そして何かを感じた武はさらに右に回避した。
『下からも来るわね』
『先に上を片付ける。下を行かせた方が万が一まだ倒せるからな』
武は上にいるISに集中的に攻撃を浴びせる。下から攻撃してくるがそれは展開したシールドやビットを使って防いでいた。そんな状況に一本のビームが戦況を変える。
「武、下は引き受ける」
「…頼んだ」
武はすぐさま二機目の角ありのISに迫る。下にいたISは一機のマシンの登場によって武に対する攻撃ができなくなっていた。
「……僕らの夢に、武には死んでもらっては困るから」
白銀の機体の両肩に着いている長い砲身から高威力のエネルギーを発射させた。すぐに離脱した両腕に大型の砲身を携えたタイプのIS離脱するがビームが曲がって上にいる武ともう一機のISに向かった。武は咄嗟に躱したが反応が遅れた構えていた銃器が爆発する。
「ちょ、撃つなら先に言ってくれ!」
「……敵を欺くなら、まず味方から」
「今考えただろそれ!」
武は今の一撃を食らって相手がやられたと思って油断していたが、敵の攻撃に反応して腕部に仕込んでいるビームサーベルを抜いて相手の腕を切り落とす。
「………中身は?」
「あ……いつも通りやっち……こいつ、中身ねえな」
「………じゃあ、こっちもか」
二人が話をしている最中に進行ルートを塞ぐバリアを破壊しようと行動をしているもう一機に視線を集中させた。
「………さよなら」
零司はまた両肩の砲身をまた向けると、反応したISが零司に迫る。だが零司は顔色を変えずにチャージを続ける。
「おい零司―――ってまたこいつか!?」
「……大丈夫。そして逃げて」
高威力のエネルギー砲が発射される。だが大型の腕部を持つISは簡単に躱し、右腕部を零司にぶつけようとしたところで零司が纏う兵器の左肩から巨大なエネルギー刃が現れて腕部を切断した。さらに右肩から巨大ビーム刃で機体を両断する。
その頃、エネルギーはまた曲がって零司に迫るISを容赦なく焼く。
「流石は零司。えげつないな」
「……これくらい普通だよ。ただの妄想で済むならともかく、外宇宙に地球のように発展した存在がいないと限らない。そんな奴らから身を守るためにはどうしても力は必要だから」
次々と相手の攻撃を回避する武は零司が味方で良かったと思いながらも相手の攻撃を回避して右脚部装甲で胴体を真っ二つにした。
「俺も負けてられないからな」
深刻なダメージを受けて落下するIS。床の役割を果たすそこに落下した機体は爆発し、燃え上がる。零司はすかさず消火剤を撒いて、あるものに気付いて回収した。
(とりあえず、一件落着か……)
機体を回収しながら武は思ったが、まだ今日は終わらない。
自分が放ったIS。一機はある目的のために放ち、もう一機は武の介入を防ぐための機体だった。だが結果はその襲撃すらあっさりと防がれたのである。
「………まさか、男でも乗れるISが完成していたなんてね」
しかも既に世界レベルを遥かに超えた代物。それが既に実用化しているなんて思わなかった束は舌打ちをする。しかもそれが弟に協力しているとは。
(普通だった私を殺しに来たり、この世界じゃ女に対して復讐でもしそうなのに)
だがそんなことは一切せずにIS学園に所属しているなんて。その事に違和感を感じていた束は盛大にため息を漏らした。
「ま、たっくんがIS学園にいるからもしかしたらとは思ってたけどさ………あー、嫌だなぁ」
未だに寝ている時に時々見る夢。まだ少し幼さが残る武が自分に言った事。
『―――結局、アンタが可愛いのはアンタが一番嫌う箒だってことかよ。あんな頭でっかちで姉さんが開発したインフィニット・ストラトスがどれだけ凄いものかわからない世界と一緒のレベルなのに。だったらそうやって可愛がっていれば良いさ! 俺は俺の道を行く! アンタが行こうとしなかった道をな!!』
武が自分と同種―――とまではいかないにしろ、かなり自分に近い存在だと理解したのはこの後だ。武は次々と自分が予定していた場所を襲撃し、すべてのデータを奪い取り、研究所を更地に変えていった。コア・ネットワーク内で例年以上に集中しているのはそのためだろうと束は推測している。
思えば、家族の中で武だけだったなと、後から悔やんだ束。確かにコアを手に入れたのは偶然かもしれないが、それでも破壊される予定のなかった機体を破壊し、これまで自分以上の非道を行ってきたその実力は本物だと束は認めているが、その後何度もかけた電話は取られることなく、メッセージはことごとく削除されている。武の近況を知れるのは自分の娘のコアにのみ送信されるメールのみだった。コピーとすら思えた領域外の妹とメールをしていた自分の娘に物凄く感謝したのは言うまでもない。
束は立ち上がり、隣の部屋でISの勉強をしている自分の娘に声をかける。
「くーちゃんくーちゃん!」
「……何ですか、束様」
「今日の夜、たっくんのところ行くから! 準備して!」
「! わかりました!」
くーちゃんと呼ばれた銀色の髪をした少女はすぐに準備に動く。その姿を見て束は自分の娘の行動に癒されるのであった。