IS-Black Gunman-   作:reizen

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第10話 嫌な予感と哀れな少女

 放課後、第三アリーナに訪れた俺たちの前には意外な顔があった。

 

「な、なんだその顔は。おかしいか?」

「いや、その、おかしいっていうか……」

「おかしいというより似合い過ぎているな。切腹でもするの?」

「せんわ!!」

 

 したら流石に両親に申し訳がないので止めるが。

 

「では一夏、構えろ」

「………待とうか、箒」

「何だ?」

「オルコットも加わったことだし、織斑には新しく特殊軌道を覚えてもらう予定だから、今日は余計にいらないぞ?」

「なっ!?」

 

 本気で驚愕している箒。

 

「織斑、オルコットは先に行け」

「あら、構いませんの?」

「問題ない。箒は箒でいずれ鍛えるつもりだったからな。今日はアリーナ全て使えるから、織斑とオルコットは向こうの方で、こいつは俺が面倒を見る」

「私は一夏と―――」

「わがまま言うなっての。つうかお前は筋は良いんだから鍛えればかなりの物になると思うぞ」

 

 そう言って俺は先に出る。箒も渋々という感じで出てきた。

 

「それで、どうすると言うんだ?」

「まずはお前の腕がどれだけ発揮できるか確認する。この攻撃を防げ」

 

 そう言って俺は近接小型連射砲《ヘッジホッグ》を右肩部に展開して発射する。すると箒はそれをいとも容易く捌いてみせた。

 

「………あれ?」

 

 いや、技術として切り払いとかあるけど、いくら何でもIS初心者の動きじゃない。……いくら篠ノ之とはいえ、ここまでなのか。

 

「どうした武。もう打ち止めか?」

「いや、妹ながらその動きに驚いているのさ。ランクCだと普通、そこまで動けないはずなんだがな?」

 

 まさかあの姉が細工したか? いや、むしろ今開発中の機体に全力を注いでいて、何よりもその驚きようを見たがるのがあの姉のことだ。ということはこいつ自身の実力か。

 

「私とて、伊達や酔狂で竹刀を振っていたわけではないのでな」

「………なるほど、な」

 

 よく考えれば、特訓の際に親父だってできていたのだから、コイツにできない………いや年期が違い過ぎるだろ!!

 

「まぁいい。これもまぁある意味喜ぶべきか……」

「どうした? もう終わりか?」

「安心しろ。まだだ」

 

 本来ならミサイル迎撃用なんだが、どこまで防げるか気になったので遠慮なくぶっ放すことにした。

 

「……おーい……うん。あれ絶対に聞こえてない」

「なんだかんだで仲が良いのですわね。はぁ。わたくしも弟妹が欲しかったですわ」

 

 なんか外野が五月蠅いので、後で潰すとしよう。

 

 

 

 

 

「よし。今日はこの辺りで終わりにするか」

「お、おう……」

 

 と、唯一体力切れに近い織斑を見下ろす俺たち三人。

 

「ふん。鍛えていないからそうなるのだ」

「つうかお前は少し体力付けろよ。当日は三連だって考えられるんだからな。ってことで箒。明日からはその胸使って早く起こせ」

「…………ふ、ふざけるな!!」

「じゃあいつ使うんだよ」

 

 果たしてこのコミュ障に使えるタイミングなんて存在するのだろうか? いや、ないな。

 

「とりあえず織斑、お前は後で整備室な」

「え? 何でだよ」

「試合前に一度白式を見ておきたいんだ」

「……わかった」

「じゃあ、俺は先に行く」

 

 ピットに戻って着替えて整備室に向かう。着いたら今いる場所からの道を織斑に送っておく。どうせ迷うからな。

 整備室に入ると、そこは珍しく人があまりいなかった。

 

「いい加減にしない、簪」

 

 奥の方で二人の生徒が言い合いをしているそうだ。関わる気はないので俺はそのままスルーしようとしていると、二人の内の一人に妙に見覚えがあった。

 

「………」

 

 まさか、な。いくらなんでもあり得ないだろう。確かに悠夜の顔は美人のソレだが、いくら女装して学園内に潜入するなんて、ありえない。

 首を振って自分の機体の状態を見ていると、一夏が現れた。

 

「悪い、武。待たせた」

 

 すると二人が織斑の姿に反応し、その内一人が織斑を睨む。

 

「な、何だよ」

「………で、織斑。あの子は何番目の被害者の関係者だ?」

「何で!?」

 

 そりゃあお前の事だからな。どうせどこかで傷つけて怒らせたに決まっている。

 

「………あなたが」

「?」

「あなたのせいで……」

 

 機体を量子化したその女はどこかへと行く。

 

「何だ、アレ」

「ごめんなさいね、二人とも。ちょっと今の彼女、神経質になっているの」

 

 だろうな。そうじゃなければあんな態度はそうそうされない。

 

「えっと、あなたは―――」

「あの子の関係者とだけ名乗らせてもらうわ」

「そ、そう………」

「また後でね」

 

 そう言って去っていく誰かさん。その後、俺が持つ端末からメッセージが届いた。

 

【俺の女装、最高だろ?】

 

 やっぱりお前か、悠夜め。

 全く。何で女装してやがるんだとか、色々言いたいのだが―――

 

「なぁ武」

「……あ?」

「さっきの人、凄い美人だったな………」

「……………ああ。そうだな」

 

 織斑の様子がおかしくなった気がしたが、とりあえず俺は白式のスペックを調べるために織斑に四角のエリア入るように指示する。少しばかり心ここにあらずだったが、なんとか従ってくれた。

 そしてスキャンを始めさせて詳しいスペックを見せてもらうが、結果を見ると白式は正気と言えないものになっていた。

 

「一体何の冗談だ、これは」

「どうしたんだ?」

「正直、これはどう考えても織斑程度の操縦者に渡す代物じゃない」

 

 そもそも、暮桜からしてまともな戦闘タイプとはいえない。それを可能とし、一時期流行らせた織斑千冬は剣道の経験を上手く活かしたと言っても過言ではないだろう。正直、その分技術の発展が遅れたとも言いたいし何より女が助長した原因として言いたいが、それはともかくだ。制作者は一体何を考えて―――あ?

 俺はもう一度その画面を見て舌打ちをする。

 

「………とりあえず、追加装備を入れられないという異常はあるが問題はなさそうだ」

「そうなのか? その割には武の顔が怒っているんだが……」

「気のせいだ」

 

 そりゃあ、怒りたくもなるさ。誰が作ったのかわかっちまったんだからな。

 

「ともかく、またクラス対抗戦の前に一度見る。近い内に姉からパーツの発注を習っておけ」

「わかった」

 

 そう言って織斑は白式を受け取って整備室を後にする。俺も軽く銃姫のチェックを行ったかが、やはり自動修復機能が優秀過ぎてあまり弄るところがない。

 そして自分の端末にメッセージが他に来ていないか確認し、楓から「今日はパパとママの家に泊まります」というメッセージが送られてきて、その後に親父から「楓をこちらで預かる」とメッセージが来ていたことを確認した。まぁ両親と上手くいっているようでなによりだ。ま、楓はあのクソ姉並のスペックを持っているのに、俺たちを反面教師にし続けた結果として人を誑し込む術まで手に入れてしまったある意味での悪魔の子になっている。流石は天才。

 整備室に誰もいないことを確認した後、電気を消してロック機能をかける。それから俺は二人に連絡を取った。

 

 

 

 

 

 IS学園には前年度終盤から大まかに分けて三つのエリアが存在する。

 一つは俺たち学生が利用するエリア。そして二つ目はIS学園内に存在する研究機関に出入りする人間たちのエリア。ここまではIS学園ができた時から存在していたが、三つ目からは最近できたエリアで、孤児たちが自分たちの生活を確立するために増設されたエリアだ。

 元々IS学園の人工島は十年前に建設が開始されそうになっていたところを国が買い取ったので日本の監視下に置かれているので土地を私有化できないのだが、そこは轡木十蔵の手腕というか零司の技術力の高さがそうさせたのか知らないが、最近になってIS学園には農業などの研究を名目に孤児たちの住居が許可されたエリアがあった。そこはもしかしたら本当を超えるほどの厳重な警備を敷かれており、場合によってはその島独自で離脱が可能となっている。

 そんなところに移動が許可されているのは、本当の人間では今のところ俺と楓のみ。特例中の特例なわけだが、俺はそこに足を運んでいた。

 

「急に時間を作ってもらって済まないな」

「……別に良い。基本的に僕らは自由だし」

「そう言ってもらえると助かる。これは後で悠夜にも行っておいて欲しいのだが、今度のクラス対抗戦でどこかの馬鹿が襲撃してきそうな気がしてな。その対策を立てておきたいんだ」

 

 そう告げるとさっきからパソコンに視線を向けている零司の手が止まった。

 

「……誰?」

「十中八九、篠ノ之束だ」

「………何のために?」

「これを見てもらえるとわかる」

 

 そう言って俺は先程白式からコピーしたデータを見せる。

 

「……これ」

「ああ。一体何を考えているのかわからないが、何故か白式唯一の武装《雪片弐型》に展開装甲が使われているんだ」

 

 展開装甲とは、攻撃と防御、そして機動の支援機能が搭載された通常装甲から生える形で存在する高性能エネルギー兵装だ。それを機体に搭載すれば正しく最強の機体となるだろう。だがエネルギー兵装に分類される機体にあるあるなのだが、常時展開していればエネルギーを漏らしているようなものなのでエネルギー切れを起こすのだ。それこそ無限エネルギーが存在するならばともかく、ISには存在するのは存在するが制限がかかっているためフルチャージに時間がかかるしでデメリットだらけというべきだろう。銃姫にも搭載されているがあくまで切り札的な使い方しかしていない……というか使ったっけ?

 そんなエネルギー大量消費武装なんて一体どうしようというのか。

 

「………普通に忍び込んで回収、とかじゃダメなの?」

「あの姉はともかく派手好きだからな。特に織斑千冬を警戒しているし、動けない状況にさせて襲わせる事を考えるだろうな。突入させてあっさり撃破されましたとかだったら意味ないし」

「……確かに」

 

 まぁ、徹底的に邪魔されたら最終的にこっちに来るだろうけど。特に今俺以外に織斑の白式に接している奴なんていないし、俺と接触してデータをもらった方が向こうも楽だろう。

 

「……………それで、本音は?」

「姉のわがままでデザートフリーパスが無くなるのは惜しい」

「……似た者同士」

「………まぁ、そんなわけだ。頼むが俺に協力してほしい」

 

 そうやって頼み込むと、零司は「大丈夫」と答えた。

 

「………分け前」

「襲撃者次第だと言わせてもらおう」

 

 おそらく俺の事は警戒しているだろうからな。たぶん一機ずつ確保できると思うが。あくまでも希望論だ。

 

「……わかった。それにどうせ、武は研究している時間がないからこっちで引き取ることになるし」

「痛いところ付くなよ」

 

 確かに最近、研究できていないけどな!!

 

 

 

 

 

 寮への帰り道に自販機を見つけた俺は、何かかって帰ろうとするとすすり泣きが聞こえてきた。

 

「そんなところで何やってんだ、凰」

 

 そいつの名前を呼ぶと俺に気付いたのか、慌てて目を拭いて「なんでもない」と答えるが、どう考えても何かがあっただろう。まぁ織斑絡みなんだろうが。

 

「………織斑への告白にでも失敗したか?」

 

 なんて、そもそも告白する勇気がこいつにあるわけが―――

 

「……………」

 

 え? したの? てっきり箒と同じでそんな勇気を持てずに燻ぶっているものかと思ったがどうやらそうではないらしい。

 

「マジ?」

「………そうよ。笑いなさいよ。どうせアタシもずっと笑っていた奴らの仲間入りよ。蓋を開けてみればこれよ。アタシなんて……アタシなんて……」

 

 ダークサイドに落ちようとしているし、そろそろ門限だし、流石に帰った方が良いだろう。

 

「あー、別に取って食うつもりはないけどさ……部屋に来る?」

 

 

 

 

 

 部屋に戻ると、そこには俺の作りかけのプラモとかが置かれている反面、楓の物だけはぴっしりと整頓されている状態だったのを見て凰は心から驚いている。

 

「アンタ、あんまり掃除しないの?」

「同居人が今凝っていてな。一時期一人暮らしだったし、それなりにはするさ」

「……そうなんだ」

「ま、主夫極めた織斑には劣るだろうが」

「………そうね」

 

 と、遠い眼をどこかに向ける凰。これまでの女は大体姉みたいなぶっ飛んでいる奴とか、織斑千冬みたいな暴力女とか、箒のように意固地な奴とか、クロエのような大人しい奴か……もしくは大体俺に危害を加えようとする奴だったのでこれはちょっと珍しいと思った。

 冷蔵庫にあるジュースが入ったペットボトルを二本取り出してからベッドに座った俺は、凰が椅子に座っているのを確認してからペットボトルを差し出す。受け取ったのを確認して手を離すとすぐに彼女は呑み始めた。どうやら喉が渇いていたらしい。

 ひとしきり飲み終えてから俺は凰に尋ねる。

 

「そういえば、何で織斑の事が好きになったんだ?」

「……その、昔ね。日本に来た時に言葉の壁で虐められていたことあって」

「あー……」

 

 子どもってそういうのがあるからなぁ。言っている本人にしてみれば大したことはないが、言われたら傷付くものだ。

 

「それで織斑に助けられた、というわけか」

「………まぁ、ね」

 

 テンプレ過ぎて草生えるとはまさにこの事だろう。まぁ似たようなことで惚れている奴がいるからどうも言えまいが。

 

「ってかよくそれでIS操縦者になろうと思ったな。普通、別の手段で日本に来た方が安全だろ」

「そりゃあね。ま、才能があったってのもあるけど、やっぱり一夏と並び立つならちゃんとした女の方が良いじゃない」

 

 それが今完全に無駄になっているわけだが、なんとも思わないのだろうか? にしても、ちゃんとした女になりたいならマジで花嫁修業してって感じだ。

 

「変わってるな。いや、今の世の中だとそれが普通なのか?」

「どうかしら?」

 

 まぁ、今の世界だと「私たちの力になるから」って理由でISを動かそうとする奴が大半だっただろう。それがどれだけ愚行なのかを理解せずに。目の前にいるコイツも同じかと思ったが。

 

「そういうアンタだってかなり変わっていると思うわよ。あれだけ女の事を否定しておいて、今はアタシを慰めようと部屋に連れてきて―――あ、もしかしてアタシの身体目当て―――」

「安心しろ、凰」

「何よ」

「俺がお前に手を出す時は、この地球が俺の手で更地になってもお前が生き残っていた時に限る」

 

 そう言うと凰は俺が冗談でも言ったと思ったのか笑い始めたので俺も釣られて笑った。

 

「そういえば、凰はなんて織斑に告白したんだ?」

「………」

 

 重大な事を尋ねると凰は沈黙する。「言ってもらわないとわからないだろ」と言うと小さな声だったが「……料理が上達したら、毎日私の酢豚を食べてくれる?」とはっきりと口を出したので俺は思わず頭を抱えた。

 

「凰。それは悪手だ。相手はあの織斑なんだから」

「………ええ。見事に勘違いされたわ。奢ってくれるものだって」

 

 ………は?

 いや、素直に、は? だ。何でそんな発想になるのやら。今の世の中の女は皆男が奢るものと思っているような存在だぞ?

 

「よくもあそこまで能天気に育ったものだな。道理で今の機体に普通に適応できるわけだ」

「……ちょ、アタシが言うのもなんだけど、それって酷くない?」

「いや、織斑の方が酷すぎる。何をどう勘違いすればそんな勘違いに至れるのやら。俺には理解できない」

「………アンタの女批判って凄く根が深いってことはよくわかったわ」

 

 と同情的な視線を向ける凰。そんな目で見られても俺の根底は変えられない。

 

「気にするな。考えたところで無駄だ」

「……そういうことにしておくわ」

 

 凰は立ち上がって俺を観察する。

 

「話を聞いてくれてありがと。思ったより良い人じゃない。女批判は激しいけど」

「……一つ勘違いしているぞ、凰」

「何よ」

「俺は女だけじゃない―――世界を批判している」

 

 そう言うと驚く凰だが、当然かもしれないが、それでも俺は世界が嫌いだ。だが凰は小さく「当然かもね」と呟いてから俺に言った。

 

「でも、対抗戦は負けないわよ」

「むしろ織斑に負けないように気を付けるんだな」

「わかってるわよ。絶対に泣かせて買ってやるんだから。ジュース、ありがとね!」

 

 部屋を出て行く凰。そんな彼女を見て俺は内心、別世界では「姉御」とか呼ばれてそうだなと思った。


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