IS-Black Gunman-   作:reizen

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2020/10/23

文章一新しました


第2話 ドタバタな日常

 国立IS学園とは、インフィニット・ストラトスという宇宙活動を想定して作成されたマルチフォームスーツの操縦者や技術者を育成するための教育機関だ。そしてISというのはインフィニット・ストラトスの略称。主にその略称の方がよく使われる。

 まぁそのISが10年前に暴れたことで今では宇宙に行かず大気圏内で未だに猛威を振るっているのだが。

 

「―――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ―――」

 

 前で行われている説明を聞きながら欠伸をし、とりあえずノートに記載していく。まぁ性なのか自分から見てもかなり綺麗にまとめられるのはもう才能と言って良いのではないだろうか。

 ちなみに今はISの運用に関する刑法などを勉強しているが、男として言わせてもらうとこんなものがあるのに何故女性を優遇しており、それに乗っかって奴らが好き勝手出来るのか疑問であるが。

 にしても、俺の席が窓側最後列にあるという都合上仕方ないかもしれないが、さっきから織斑の奴が顔を青くしているのが見える。一体今のどこにわからないところがあるというのだろうか。左にいる女にちょっかいをかけて箒がキレているので、その女子は気の毒でならない。

 

「織斑君、何かわからないところがありますか?」

「あ、えっと……」

「わからないところがあったら聞いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

 

 山田先生が胸を張ったら胸が揺れた。箒のも大概成長していたが、アレは一体何を食えばそこまでデカくなるのか不思議でならない。ここが一般的な高校で今の世が女尊男卑でなかったら、さぞ彼女は生徒からモテただろう……案外、普通の高校に行ったら下駄箱にラブレターが大量に入っているのではないだろうか?

 

「先生!」

「はい、織斑君!」

「ほとんど全部わかりません……」

 

 ………え? マジで?

 と驚いて俺の視線を織斑一夏(いちか)ではなく、織斑千冬の方に向ける。俺に気付いた奴は首を振っていた。

 

「え、えっと……織斑君以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」

 

 まぁもちろん誰も手を挙げない。てっきり姉を嫌っている箒もかと思ったがどうやらそうではないらしい。……まぁアイツ、勤勉だしな。恐らく勉強はさせられたのだろうが、それでもしっかりやっていたのだろう。

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

「……あの分厚いやつですよね」

「そうだ。必読と書いてあっただろう」

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 出席簿が振り下ろされたが、まぁこれは仕方ない。

 

「馬鹿が。後で再発行してやるから、一週間以内に覚えろ。いいな」

「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」

「やれと言っている」

「……はい。やります」

 

 相変わらずの眼力である。あれがなければ多少は男にモテたかもしれないのにとは思っている。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 まぁ正論だが、何よりあの女がISを「兵器」と言ったのが驚いた。

 

「……貴様「自分から望んでここにいるわけではない」と思っているな?」

 

 その言葉を聞いて織斑が冷や汗をかく。まぁ至近距離で睨まれたそうなるわな。

 

「望む望まざるに関わらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすらも放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」

 

 集団、ね。じゃあその集団から弾かれた者はどうすればいいのかね。無理矢理弾かれて未来を奪われた奴らはどうなるのか。撃った人間としては、安らかに眠って欲しいというのが本音だ。

 

「………どうした、篠ノ之兄」

「? なんでもないですよ」

 

 たぶん俺は今織斑千冬を睨んでいたな……ヤバい。冷静にならないと。

 

「え、えっと、織斑君。わからないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、頑張って? ね? ね?」

「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」

 

 割と普通の受け答えだったはずだが、それを何と勘違いしたのか、授業を担当していた山田(やまだ)真耶(まや)が妄想を口にしていた。

 

「ほ、放課後……放課後に二人だけの教師と生徒……。あ! だ、ダメですよ、織斑君。先生、強引にされると弱いんですから……それに私、男の人は初めてで……」

 

 たぶん俺は今、山田先生をゴミのように見ているだろう。本音を言うなら、これだから女教師は気持ち悪い、だ。

 

「で、でも、織斑先生の弟さんだったら……」

「―――山田先生、授業の続きを」

「は、はいひぃ!?」

 

 ブタみたいな泣き声をあげたと思ったら尻餅をついた。

 

「……篠ノ之兄、その目は止めてやれ。山田先生が怯えている」

「…チッ」

 

 舌打ちしてから視線を逸らす。余計な事を思い出させやがったゴミはいずれ始末するとして、今は参考書を読むふりをしてとりあえず勉強を続けることにした。

 

 

 

 

 

「頼む武! 勉強を教えてくれ!」

「………はぁ」

 

 あのゴミの妄想の次はこいつかとため息を吐く。何でこうも厄介事が絡むかね。

 

「大体何で…………………あぁ、あの女のせいか」

「? 誰の事だ?」

「お前の姉以外誰がいるのか? どうせ奴の部屋は汚物だらけだろう?」

「俺が掃除してるからそれはねえよ」

 

 真面目な話、今の女尊男卑の世界でISを動かせなくてもこいつは「主夫」として優秀なんだろうなと思った。

 

「んで、どこがわからないんだ?」

「え? 良いのか?」

「基本的な勉強は自分でしろ。わからないところがあったら教えてやる。あのゴミ女よりかはまだ俺の方が時間が取れるだろうからな」

「……ゴミ女って、もしかして山田先生のことか?」

「それ以外に誰がいるのか教えて………すまん。かなりいたわ」

 

 と織斑と会話をしていると、俺たちに誰かが近づいてきた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

「あ?」

 

 俺が返事を返すとその女は何故か怯んでいた。

 

「き、聞いてます? お返事は?」

「あ、ああ。聞いてるけど……どういう用件だ?」

 

 俺よりも先に織斑が答えると、その女は今の女にありがちな態度を見せてきた。

 

「まぁ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけらえるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度という者があるんではなくって?」

 

 思い上がった家畜風情が何を言っているんだという言葉を呑み込んで冷静に応対する。

 

「知ったことか。そもそもアンタ誰だよ」

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

「知るわけないだろ。自国の国家代表すら知らねえし」

 

 数年前に織斑千冬が引退したことは知っているが、その後窯までは知らない。

 

「あ、質問いいか?」

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「……代表候補生って、何?」

 

 それを聞いた周りはこけた。それもまぁ盛大に。

 

「あなた、本気で仰ってますの!?」

「おう。知らん。なぁ武、代表候補生って知ってる?」

「お前の姉ちゃんが国家代表だっただろ? その代表になろうとIS学園に入学する前に政府の育成機関の試験に合格して鍛えている奴らのことだ」

「そう。つまりエリートなのですわ!」

 

 豚の肥やしの間違いだろう、とは言わないでおこう。そしてオルコットは俺たちに人差し指を向ける。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……いえ、幸運なんですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「そうか。それはラッキーだ」

「そういうことにしておいてやるよ」

「……馬鹿にしていますの?」

 

 当然だろ? そもそも代表候補生とクラスメイトになるより男性IS操縦者とクラスメイトになる方がよっぽどレアだろうに。

 

「大体、あなたISについて何も知らない癖に、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたが。もう一人はそれなりにあるようにですが、なんとも悪い態度のこと。どちらも期待外れですわね」

「……俺に何かを期待されても困るんだが」

「そりゃこれまでの人生で最悪な環境にいたからな。当然だ」

 

 俺の物言いに一瞬怯んだオルコットだったが冷静になって対処をした。

 

「ふん。まぁでも? わたくしは優秀ですから、あなた方のような人間にも優しくしてあげますわよ」

 

 それが本当に優しさだと思っているのかね。

 

「ISの事でわからないことがあれば、まぁ泣いて頼まれたら教えて差し上げても良くってよ。なにせわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

「いらねえよ」

 

 さっきからごちゃごちゃと五月蠅い奴だ。そのうざったい口を二度と利けなくしてやろうかと思っていると、織斑の口からとんでもないことが聞こえた。

 

「入試ってISを動かして戦う奴だよな? それなら俺も教官倒したぞ?」

「は……?」

 

 ショックで固まるオルコット。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

「も、もしやあなたも教官を倒したとでも仰るつもり?!」

「そもそも俺は戦ってないがな」

 

 そう答えるとオルコットに激怒した。

 

「入試を受けていない!? よくこの学園に入学できましたわね!?」

「そりゃそうだろ? これまで動かせなかった男がISを動かせたんだ。それで保護のためにとりあえずIS学園に入学させるのはある意味当然だろう? それとお前はISを動かして試験も受けていないのだからとっとと辞めて研究所にでも入れって言うのか? まさか国家代表候補生ともあろう者がそのような事を言うまいな?」

「……それは、そうかもしれませんが」

「そもそもこの学園は在籍人数に対して学園の所有するコアは圧倒的に少ない。ただでさえ一人目の対応を終えたと思ったら入学式間近で今度は二人目だ。そう簡単に予約が取れるわけでもないしってことで試験は延期という事さ」

 

 それに俺と会った時の織斑千冬の反応が「お前もか……」だからな。自分の弟が動かしたから、もしかしたらとでも思ったのだろう。その後に楓を見て真顔になったのは笑ったが。

 

「そ、そういうことならば仕方ありませんわね。ええ、仕方ありませんわ」

 

 と納得するオルコット。するとすぐにチャイムが鳴り、織斑先生が教壇に昇った。

 

 

 

 

 

 授業が終わり、俺は寮に戻る―――のではなく、校舎から離れた場所に来ていた。そこは用務員用の家屋になっており、基本的に男禁止の女の園で唯一男がいられる場所でもある。まぁそれは去年までの話なのだが。

 俺はドアのチャイムを押すと、インターホンから老人が漏れる。

 

「篠ノ之です。挨拶に伺いました」

『そうですか。ちょうど話がしたいところだったのです。鍵は開いていますので中に入ってください』

「わかりました」

 

 ドアを開いて中に入ると、用務員の姿を初老の男性がいた。彼がIS学園にいられる理由は彼が実質的にこのIS学園を運営する人間だからだ。

 

「数日ぶりですね、篠ノ之君。クラスには馴染めましたか?」

「……わかってて言っているでしょう?」

 

 そして俺が敬語で話す数少ない人間の一人でもある。

 

「そうですね。あなたのような人間は本来ここにいるべきではないことは重々承知しています。ですが―――」

「両親と楓を守るため、ですからね。()はそれで構いません」

「『俺』で結構ですよ」

「では遠慮なく」

 

 流石に「僕」は堅苦しいからな。これまで大人の事を見下してきた身としてはかなりやりにくかったというのが本音だ。ちなみに彼は轡木(くつわぎ)十蔵(じゅうぞう)。入学の際に色々と世話をしてくれた方だ。

 

「それで、久々の学校生活はどうでしょう? 慣れましたか?」

「……正直、彼女らのような奴らが女尊男卑を持ち出すのは滑稽だなと思いますね。確かに生身でも強いは織斑千冬の用に何人かいることは否定しませんが、すべてそうだとは思いません。もっとも俺はあの程度の烏合の衆は簡単に消せますが」

「………まぁ、そうなりますよね。ですが止めてくださいね。試合で機体を破壊するならばともかく」

「……しちゃっていいんですね、それ」

 

 これは良いことを聞いたと思った。

 

「ええ。構いません。私も少々憂さ晴らししたいのでね。何でしたらちょうど五月蠅い小娘が一組にいるので遠慮なく潰してあげてください」

「………えーと」

 

 どいつの事だ? と聞く前に轡木さんが教えてくれた。

 

「イギリスの代表候補生です」

「……ああ。あの金髪ドリル」

 

 確かにあの女も大概だったからな。……まぁ、代表候補生の実力も知っておきたいし、やるにはちょうどいいだろう。

 

「ところであなたはハーレムを作る予定はありますか?」

「……俺みたいな人間を愛せる女なんて、この世界にいませんよ」

 

 そう言った俺はしばらくしてから用務員室を後にした。

 

 

 

 

 

 さて、これは一体どういう状況なのかね。

 寮に戻るとその道中で人だかりができていたので退いてもらいながら進んでいると、顔を青くしている織斑と遭遇した。

 

「頼む武! 助けてくれ!」

「助けろって……」

 

 と、ドアを見ると、木製のドアから木刀みたいなのが生えていた。

 

「…誰が同居人だ?」

「箒なんだよ!? それで色々あって、こんな風になって―――」

「……………あの馬鹿」

 

 ここの寮長、誰かわかってんのか? 織斑千冬なんだぞ。つうか一体何をすれば木刀でドアを貫通する事態に発生するんだか。

 

「おいこの馬鹿! 一体何考えてんだよ!」

「い、いきなりドアを開けるな! 馬鹿者!」

「ドアを木刀で貫通させる奴が何を言うか!!」

 

 全く。この妹は……姉は姉で面倒だがこれはさらに面倒だ。

 

「というかさっさと服着ろよ」

「言われなくてもわかっている!?」

「じゃあさっさと着ろよノロマ」

 

 後ろに付いて来ている織斑の頭を掴んで俺はそのまま寮長室に案内した。

 

「とりあえず、ここにいる奴に話をしてドアを変えてもらえ。俺は部屋に戻る」

「そういえば、武の部屋ってどこにあるんだ?」

「言う必要はないだろう。ああ、それとその部屋の主はお前の姉だからな」

 

 と言うと織斑の顔が青くなったが、そんなの知ったことかと俺は自分の部屋に急ぐのだった。


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