航空業界の苦境 「自助」はもはや限界だ

2020年10月31日 06時40分
 航空業界の苦境が一段と鮮明になっている。コロナ禍の中、大手航空二社は懸命の経営立て直し策を進めてきたが巨額赤字は避けられない情勢だ。自助努力は限界で官民による全面支援が必要だ。
 二〇二一年三月期決算について、ANAホールディングスは五千百億円、日本航空(JAL)も二千四百億〜二千七百億円という膨大な最終赤字を見込んだ。いずれも経営の根幹を揺るがすレベルの赤字である。
 国内線の利用客はやや持ち直したものの、国際線は依然前年比で九割以上減っている。この間、人件費のほか機体にかかる整備費やリース費用、燃料費などがのし掛かり、財務悪化に歯止めがかからない状況に陥っている。
 両社は旅客用の機体を貨物に転用したり、社員を他業界に一時的に出向させるといった対策を検討し一部は実行に移している。国も空港使用料の減免などで支援している。だが決算を見る限り、こうした対策はあまり効果を上げていないといえる。
 ANAは現在、政府系の日本政策投資銀行や三井住友銀行など五行から四千億円規模の融資を受ける方向で調整中だ。人員削減や機体売却も検討課題に上っているとみられ、経営は極めて厳しいと判断していいだろう。
 一方、JALはANAと比べると赤字見通し額は小さい。ただこれは十年前の経営危機の際、三千五百億円の公的資金を受け入れ、経営がスリムになったためで、直面している経営環境はANAと大きな差はない。
 国際航空運送協会(IATA)は今年の世界の航空需要が前年比66%減で、昨年並みに回復するのは二四年との予測を公表した。IATAの予測通りだとしても、大手二社のほか格安航空会社(LCC)を含む国内航空各社の経営が、その時まで耐えきれるのか疑問を呈せざるを得ない。
 航空会社で人員削減や意にそぐわない出向などが繰り返された場合、不安なのは安全運航への影響だ。士気の低下が空の安全を損なうことだけは避ける必要がある。
 安易な路線撤廃も心配だ。遠隔地を中心に里帰りなどで航空便に頼っている人は多い。
 今後、金融機関は支援に向けスクラムを強化する必要がある。さらに国も、極めて高い公共性を持つ航空会社の存続を守るため、公的資金投入も視野に入れた本格的な支援策を準備すべきである。

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