第126話 レストラシオンへの旅路 その3
「お前らの仕事は簡単だ。前にいる連中を尾行しろ。見失わないよう付かず離れず距離を保ってな。別に存在を気づかれても構わんが、自分達から接触を持とうとはするな。話しかけられても、普通の旅人のふりをしろ。以上だ」
オリン達が宿場町の門に集まったところで、アレインが説明を行った。
「ああ、わかった」
オリン達が頷くと、アレインの口許が微かに上がる。
「よし。なら、早速だが、連中を追いかけてもらう。これより南に進むと南と東に続く分岐点があるのは知っているな?」
「もちろん。そこら辺は余裕で俺らの活動領域だ」
「じゃあ、そこまで進んだらお前らはあえて連中とは別方向に進め。その後、数分程歩いたら休憩して待機していろ。とりあえず、そこまでがお前らの仕事だ。その間、俺は別行動させてもらうが、後で合流する」
「了解した」
オリンが即答した。依頼の大枠はいまだに理解できないが、簡単な仕事である。
「何か訊いておきたいことはあるか?」
「いや……」
微かに逡巡したが、オリンはかぶりを振った。心情的にはこのまま報酬の話に移りたいところだが、頼んで仕事を請け負っている立場では切り出しにくい。
「そうか。言った通り、俺は少し野暮用がある。戻るのは少し時間がかかるかもしれん。日が暮れるまでには戻るが、少し長めに待ってもらうかもしれない。まぁ、そこら辺は臨機応変に対処してくれ」
「わかったよ」
「じゃあ、また後でな」
そう言い残すと、アレインは再び町の中に向かって歩き出した。
(これは……どっちを追いかけよう? 春人に知らせるべき?)
早足で街道を南下するオリン達の後姿を眺めながら、アイシアが思案する。
(ううん。あっちは放置しても害悪はないはず。なら、私はあいつを追いかけるべき)
そう判断を下すと、アイシアは再びアレインを追いかけることにした。
◇ ◇ ◇
その頃、クレール伯爵領、領都クレイアにて。
クリスティーナ捜索隊の指揮官――シャルル=アルボーは、セリアの父ローラン=クレールから貸し与えられた執務室に籠り、四百名からなる二個中隊の指揮に追われていた。
「まだ見つからないのか、クリスティーナ王女は!? 役立たず共めがっ!」
執務机を乱雑に叩き、シャルルが怒鳴る。
対面に立つアルフレッド=エマールは微かに顔をしかめ、
「兵達はお前の指揮通りに動いている。北と東の街道は封鎖し、捜索も森の中にまで行わせている。だが、それらしい痕跡は見当たらないそうだ」
と、淡々と報告を行った。
「本当にちゃんと調べているんだろうな? 見落としがありましたなどと、後で判明しようものなら冗談では済まぬぞ?」
「人事は尽くしている」
「なら結果を出させろ。結果が出なければ過程に意味などない」
シャルルが苛立ちを隠そうともしない物言いをする。
「命じられたまま動いている兵に責任はない。結果に対して責任を負うのは指揮を行う上官の役目だ」
「……私の指揮が悪いとでも言うつもりか?」
「そうではない。部下に責任を押し付けて、当たり散らすのは止めろと言っているだけだ」
アルフレッドが歯に衣着せぬ反論を行うと、シャルルは剣呑な目つきでアルフレッドを睨んだ。
「なんだと?」
「落ち着け。少し見方を改める必要があるかもしれん」
「……どういうことだ?」
シャルルは小さく舌打ちをして、アルフレッドに尋ねる。
「南の街道だ。最初に言ったが、そちらから逃亡した可能性がないわけではない。今は手薄になっているが、まだ遅くはないだろう。捜索隊を編成して送るべきではないのか?」
「…………駄目だ。人員が足りん」
「何故だ? 日が経てば移動範囲は広がっていくぞ。それこそ人員が足りなくなる」
語りながら、アルフレッドはありえないと言わんばかりに目をみはった。
「まだ三日しか経っていない。北と東の捜索をおろそかにして、逃げられては話にならん」
シャルルがそれらしい理由を挙げて反論する。
「馬鹿な。ほぼ手薄な南から逃げられる方がお粗末だろう。お前も指揮官ならば切り替え時を見誤るなよ、シャルル」
「うるさい! 指揮官は私だ。上から目線で私に指図するな。今回に限っては貴様は私の補佐役にすぎんのだぞ? 余計な口出しは止めろ!」
アルフレッドに諭され、シャルルがヒステリックに喚き散らす。
その発言にはシャルルがアルフレッドに対して抱いている歪な劣等感が透けて見えた。
「……私は忠告したぞ?」
「安心しろ。貴様に責任を押し付けることはない。私の方針に反対した以上、功績が貴様の物になることもないだろうがな」
「そうか。それならそれで構わん」
アルフレッドは思わず眩暈がしそうになったが、頭を抑えることでかろうじて堪えた。
シャルルが気にくわなさそうにアルフレッドの仕草を見つめる。
結局、シャルルが南に向けて捜索隊を放ったのは、さらに数日が経過した日のことだった。
◇ ◇ ◇
クレール伯爵領、領都クレイアから少し南下すると、人口千人ほどの小さな都市がある。
そんな小都市のさびれた酒場を、一人の男――アレインが訪れた。
アレインは店内を見渡すと、おもむろに隅にあるテーブルへと歩き出す。そこには三十前後の冒険者風の男が二人座っている。
「よう、ヴェン、ルッチ。こんな昼前から酒場に入り浸りとは、良いご身分だな」
「早かったな。アレイン。まさかもう任務が終わったのか?」
座っていた男二人の内、中肉中背の人物――ヴェンがアレインの皮肉に気安く応じた。
「ふん。終わるわけがないだろう。俺の任務が一番面倒なんだ。情報交換がてら、どうせサボっているお前らを手伝わせに来たんだよ」
「情報交換には賛成だ。だが、俺らはサボっていたわけじゃねえぜ。待機していたんだ。何があってもいいようにな」
大柄な男――ルッチが鷹揚に頷き、にやけながらアレインに反論する。
すると、そこへ――、
「旦那、注文は?」
不愛想な店主が注文を聞きにやってきた。
「麦酒だ。お前らは?」
「俺達もお代わりを頼む」
アレインが大銅貨一枚を店主に投げ渡し、ヴェン達も一緒に注文を告げる。
「あいよ」
店主は大銅貨を受け取ると、のっそりとカウンターに戻り、酒を注ぎ始めた。
「まあ、座れよ。酒が来たら、一杯飲みながら話をしよう」
ヴェンに促され、アレインが腰を下ろす。
程なくして店主が麦酒を運んでくると、アレイン達は互いが得ている情報を交換し始めた。
「やはりクレイアに滞在している国軍が何かを捜索しているのは明白だな。北と東の街道及び近隣の森にかけて、数百人単位で部隊が展開中だ」
と、ヴェンが麦酒を口にして語りだす。
続けて、ルッチもぐびりと杯を呷ると、
「気になるのは団長の名を口にしたとかいう賊との関連性だ。レイス様が聞かれた話によれば南に逃走したようだが、南の様子はどうなんだ、アレイン?」
そう尋ねて、アレインを見やった。
「南側は完全に手薄だな。街道の先にある関所こそ検問が敷かれているが、お粗末なもんだ」
「となると、国軍の捜索対象とその賊は別件なのかねえ。まぁ、そもそもそいつに関する話自体がガセって可能性も無きにしも非ずだがな」
ふむ、と、あごの無精髭を撫でるルッチ。
「いや、ガセの可能性は低いだろう。捜索部隊の指揮官がレイス様に偽の情報を掴ませるにしても、わざわざ団長の名前が出てくるのは不自然だ」
アレインはきっぱりとかぶりを振った。
「俺もアレインの考えと同じだ。捜索部隊の連中を観察した限り、どうも賊を追っているという雰囲気ではない。おそらく捜索の過程で捜索部隊に被害を与えたのだろうが、連中の捜索対象とは無関係だと判断されたんだろう」
ヴェンが言葉を挟み、自らの意見を述べる。
「どうして無関係だと判断できんだよ?」
「そんなこと、俺が知るか。そもそも連中が何を捜索しているのかすらわからないんだからな」
ルッチが疑問を口にすると、ヴェンはあっさりと一蹴した。
「じゃあどうする、国軍の兵士を拉致って訊きだすか?」
「それも一つの手だが、最終手段だ。時期尚早だな。もう少し隠密に情報を収集してからでも遅くはない」
「面倒なんだよなあ。そういう裏方の仕事って。あんだけ大規模に動かれると、行動しづれえし」
ヴェンが語った方針に、ルッチは頭を掻いて、あからさまに億劫そうな表情を浮かべた。
「だったら俺と来いよ。南の街道沿いにある宿場町に網を張って、人海戦術を仕掛けているが、人手が必要なんだ。捜索部隊の調査はヴェンに任せておけば大丈夫だろう」
と、アレインがルッチを勧誘する。
「賊の手掛かりを掴めたのか?」
ヴェンが興味深そうに尋ねた。
「確信は持てないが、候補者はいる。ま、外れの可能性も高いがな」
「ここに戻ってきて大丈夫なのかよ?」
と、ルッチがアレインに訊く。
「問題ない。金で冒険者を雇っている。といっても、早く戻るに越したことはないからな。あまり時間はない」
「行ってやれ、ルッチ。こっちはもう俺一人で十分だ」
ヴェンがアレインを手伝うようルッチに促す。
「まあ、いいぜ。騎士複数人に被害を出した奴だ。なかなかの手練れと見た。もしかしたら腕試しができるかもしれねえしな」
「まぁ、状況次第だな。レイス様は何者か調べろとのご命令だが、ターゲットとの接触は必須ではない」
「おう、わかっている。まあ、やりようはいくらでもあるだろ。それに、本人かどうか確認するためにも、実力は確かめなきゃならねえしな」
ルッチはそう語ると、麦酒を飲み干し、ニヤリと笑みを刻んだ。
アレインがやれやれと嘆息する。
そんな彼らのやり取りをすぐ傍で立ち聞きする者がいた。
(やっぱりここにいる男達はルシウスと繋がっている。それに、レイス。そいつがこの男達に指示を出している存在)
アイシアである。
霊体化した状態でアレイン達の会話を盗み聞きしていたのだが、まさかガラ空きの店内で会話が筒抜けだとは彼らも思ってはいまい。
「じゃあ、そろそろ行くぞ。ルッチ」
「おう。どんくらいで着くんだ?」
「グリフォンを飛ばせば一時間半くらいの距離だ」
アレインがルッチを引きつれ、店を後にする。そのまま彼らは都市の外に出て、近くの森に移動し、使役していたグリフォンに乗っかり飛び立つ。
(春人に知らせよう)
アイシアも彼らを追って、リオがいる方角に向かい飛び立った。
◇ ◇ ◇
場所は変わり、少しだけ時は遡る。
宿場町を後にしたリオ達は、レストラシオンの本拠地に向かうべく街道を歩いていた。
「ハルト殿……」
ある時、ヴァネッサが他の者達に聞こえないよう、少し低い声でリオに語りかけた。
「後ろを歩いている冒険者達のことですか?」
リオが声を抑えて尋ねる。
「そうだ。気がついたらあの位置にいた。後ろから歩いて我々に追いついたのだろうが、以降は今の距離を付かず離れず維持し続けている。妙だとは思わないか?」
「確かに妙ですが、我々を付け回していると決めつけるには少し根拠が弱いですね。尾行するにしては色々と杜撰すぎますし、自衛のために街道では他の旅人と距離を置いているだけという可能性もあります」
「ふむ、確かに……。しかし、鬱陶しくはあるな」
ヴァネッサは思案顔で頷いた。
すると――、
「どうかしたの?」
クリスティーナ達が話に加わってきた。
「決して後ろを振り返らず、話をお聞きください。実は我々の後方を冒険者のパーティが歩いておりまして」
ヴァネッサが警戒を促しながら答える。
「いつの間に……」
クリスティーナ達は気づいていなかったのか、小さく目をみはった。
「三十分くらい前でしょうか。宿場町を出て一時間くらい経過した辺りからです」
「尾行されているの?」
リオが説明すると、クリスティーナがやや警戒した様子で尋ねる。
「可能性は低いですが、ゼロというわけでもありません。とはいえ、尾行されているにしても、その理由は不明ですが……」
「私を追いかけているということはありえないのかしら?」
「ありえないとは言えませんが、それにしては堂々と歩きすぎているといいますか。こそこそしている感じではありませんね。尾行するにしてはお粗末すぎて不自然なくらいです」
クリスティーナの質問に、リオが苦笑しながら回答した。
「となると、ただの旅人の可能性の方が高い、か」
セリアがぼそりと呟く。
「そういうことです。もう少し進むと、南と東に別れる分岐点があったはずです。我々は東に向かいますが、そこを過ぎても後ろを付いてくるようなら、何らかの対処を行いましょう」
「わかったわ」
リオが対処案を提示すると、クリスティーナ達は揃って頷いた。
それから、リオ達は数十分ほど歩き、街道の分岐点にやってくる。そこで、当初の予定通り、街道の東へと入っていくと、少し歩いた先で休憩をとることにした。これなら後ろを歩いてくる冒険者達に視線を向けても不自然ではないだろう。
街道沿いの岩場に腰を下ろし、冒険者達がやって来るのを待つ。
「……行っちゃったわね」
冒険者達が真っ直ぐと街道を南下していくと、セリアが拍子抜けした声で言った。
「まだ油断するのは早いです。もう少し休憩して、様子を見たら、出発しましょう。彼らが戻ってこないとも限りませんので」
リオが警戒したまま注意を呼びかける。
しかし、その後も、通り過ぎた冒険者達が引き返してくることはなかった。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
リオ達は次の宿場町に到達すると、いつものように宿を手配し夕食をとっていた。
すると、ある時――、
(春人、戻ったよ)
アイシアの念話が脳内に響いた。
(早かったね。大丈夫だった?)
リオが微かに目を丸くし、応答する。
(うん。少し話したいことがある)
(……わかった。実際に会って話そう。実体化して南門の近くで目立たないように待っていてくれるかな。すぐに行くから)
リオは少しだけ思案すると、宿の外でアイシアと落ち合うことを決めた。
(了解)
アイシアの簡明な返事とともに、リオが口を開く。
「少し外で情報を収集してきます。皆さんは宿の中で休憩していてください」
そう言い残すと、リオは宿屋を後にした。
南門の付近までやって来ると、どこからともなく、フードのローブで顔を覆ったアイシアが現れる。
「少し人がいない場所に行こうか」
「うん」
リオはアイシアを引きつれ、人気のない袋小路に足を運んだ。そこから大きく跳躍して空を飛び、夜闇に紛れて宿場町の外へ繰り出す。
近くの台地に行くと、『時空の蔵』の中から岩の家を出して、話し合うことにした。
「ここなら誰にも話を聞かれることはない。聞かせてくれるかな。アイシアが何を見聞きしたのか」
机の上に冷えたお茶を用意すると、ソファに座り、リオがおもむろに尋ねる。
「あの後、冒険者の男達を追った。春人達に声をかけたのはあの宿場町を拠点にしている冒険者達。彼らを雇ったのが三十前後くらいの男。アレインと呼ばれていた」
「アレイン……聞いたことがないな」
「おそらくアレインとルシウスは別人物。アレインをさらに使役している存在がいる。名前はレイスと言っていた」
「レイス……。やっぱり聞いたことがないな」
リオが思案顔を浮かべる。こちらも聞いたことがない名前だった。
「アレインにはレイス以外にもルッチとヴェンという二人の仲間がいた」
「ごめん。その二人の名前もわからないや」
「本題はここから。結論から言うと、アレイン達がルシウスと関係している可能性は極めて高いと思う」
アイシアが抑揚のない声で告げると、リオの顔つきが微かに強張った。
「……その理由を聞かせてほしい」
「アレイン達は人を探している。でも、相手が誰かはわかっていない。たぶんだけど、その相手というのが、春人のことなんだと思う」
「それはどうして?」
と、リオが訝しげに訊く。
「あいつらはレイスの命令を受けて、クレイアで騎士達に被害を与えて、逃走した男を追っているらしい。その男は団長の名を口にしていたと言っていた。その団長というのがルシウスだと私は思った」
アイシアは淡々と自らの推理を述べた。
「確かに、その団長がルシウスだと仮定すると、俺ならその条件に合致する。というより、俺以外に合致しそうな人物はそういないか」
リオが得心がいったようで、苦笑交じりに語る。驚きはそれほど感じられない。むしろ驚くほどに心は冷静だった。
「そう」
アイシアは短く頷くと、机の上に置かれた冷たいお茶入りの金属製のグラスを口につけた。カランと、氷が崩れると音が響く。
「ルシウスの名を出したうえで、探し人を探していると言っていたのは、相手の反応を探るためってところかな。けど、随分と効率が悪いことをする」
「見つかれば儲け物くらいの感じだったけど、アレイン達は可能性がある相手を片っ端から調べようとしているみたい。春人も連中の数少ない候補者になっている。でも、確信はされていない」
「なるほど……。あの宿場町でのやり取りで何かを感じとられたか」
まさかルシウスの名を出したことで噂を呼び、期せずしてルシウスの関係者を呼び寄せることなろうとは――。
奇妙な巡り会わせに、リオは冷たい笑みを口許に刻んだ。
「けど、そうなると連中は捜索部隊から情報を得たということになるね。それも指揮官クラスから」
リオの脳裏に、セリアの婚約者だったシャルル=アルボーの存在がよぎった。
「アレイン達は捜索部隊と直接の面識はないと思う。別行動中のレイスが面識を持っているみたい」
と、アイシアがレイスの存在を示唆する。
「レイスか。覚えておくよ。……ところで、アレイン達が俺に注目しているということは、俺達の足取りを追跡していると考えていいのかな?」
「うん。冒険者を雇って旅人のフリをさせて、春人達を追跡させていた。街道の分岐点で春人達とは別方向に向かうように指示を出していたけど」
「……今日俺達の後ろを歩いていた奴らか。確かに街道の分岐点でどっちに進むかわかれば、そこからどの程度進むかは把握できるな。ということは――」
「うん。私は先回りして来たけど、アレイン達もいつこの宿場町に追いついてもおかしくはない。連中はグリフォンを使役しているから、空を飛んで移動できる」
「そうか。おかげですごく有益な情報が得られたよ。ありがとう、アイシア」
微笑を浮かべ礼を告げると、リオはソファから腰を上げた。
「アレイン達はどうするの?」
「……少し泳がせようと思う。今セリア先生と別行動するわけにはいかないし、その方が情報を得られそうだ」
アイシアの疑問に、リオが微かに逡巡して答える。
「なら、私は今後もアレイン達の動向を探ればいい?」
「お願いできると、すごく助かる」
「じゃあ、任せて」
「……ありがとう。とりあえず、今夜は霊体化して俺の体内でオドを回復してくれるかな。連中の動向を観察するのは明日からでいいから」
「うん」
頷くと、アイシアは立ち上がってリオに歩み寄った。そして、おもむろにリオの手を掴み、ぎゅっと握りしめる。
「おやすみなさい、春人」
「おやすみ、アイシア」
眠そうな顔をしているアイシアに、リオがどこか困り顔で微笑み頷いた。
次の瞬間、アイシアの姿がスッと消えて、霊体化してリオの体内に入る。
(……俺は酒場に行くかな。一度この町でしっかりと情報収集しておこう)
軽く伸びをして身体をほぐすと、リオは家の外に向かって歩きだした。