1章 36話 神殿側(少し前の話)
「グラシル。ファルネ様はまだなの?」
聖女用に用意されたシャーラの部屋で訪ねてきたグラシルにシャーラが尋ねた。
悪趣味なほど高価な家具が並べられたその部屋には見た目の美しい男性神官がシャーラの世話をしている。
ファルネの調査に向かって帰って来たラーズを秘密裏にグラシルが殺し、グラシルの部下を変身の魔道具を使いラーズに仕立て上げた。
そのため現在では神殿の実権はグラシルが握っているため、シャーラの我がままが通るようになったのだ。
邪魔者のラーズを殺したはいいが、ラーズという重しがなくなったいま、シャーラの我がままが歯止めが利かない状態になっていた。
「……申し訳ございません。彼の行方は今探していますが……これだけ探しても見当たらないとなると」
グラシルが内心苛立ちつつも答えれば
「死んだと言いたいの?もういいわ。それよりも私の聖女の就任式は盛大にやってよね」
「そうですよ。私の可愛いシャーラの就任式ですもの。
きらびやかにお願いしますわ」
と、シャーラと母テンシアがグラシルに命じる。
「はっ。かしこまりました。それでは私は準備の方を……」
グラシルは愛想笑いを浮かべて部屋から出た。
この二人の我がままなどに付き合っていられなかったからだ。
全く何がファルネだ!!
姿を変える魔道具はラーズに使用してしまった。
ラーズはエルディアの森から帰る途中で殺し、荒野の魔物の餌にしてある。
そのため姿をかえる魔道具で自分の部下をラーズにし、今ではラーズ派も自分の意のままに操っている。
そのためファルネに姿をかえられるものがない。
姿を変える魔道具は古代の遺跡から出土されたもので、現存する数が限られている。
神殿が所有しているものを使えばあらぬ疑いを呼んでしまうためグラシルが隠れて所持していた魔道具を使うしかないのだ。
ラーズに使ってしまったため妾をあてがうためになど使っている余裕はない。
まぁ最近地下に奴隷をあてがってやった。
そのため、言動が大人しくなってきてるからいいだろう。
奴隷を虐待して鬱憤がはれるのか、神官には嫌がらせをしなくなったのだ。
……それにしても。
シャーラにあてがわれた奴隷はすぐ死体になってしまうという。
暴行がひどくてすぐ死んでしまうのだ。
本当にあんな女が聖女なのか?
聖女に反応する宝珠も測るたびに光が弱くなっている気がするという話を聞いたことがある。
虐殺行動のためにカルディアナの聖樹に愛想をつかされているのかもしれない。
流石に就任させたらあのような行為は止めさせないと。
グラシルはいら立ちながら、部屋から立ち去るのだった。
■□■
がしんっ!!!!
気の弱そうな奴隷の一人を棒で殴りつければ…すぐに死んでしまう。
「お母様、人間って随分もろいのですね?ソニアはこれくらいでは死ななかったのに」
壊れてしまったおもちゃを見て、シャーラはため息をついた。
どうしてもソニアを虐待していたときの快楽が忘れられない。
大神官になったグラシルに隠し部屋を作ってもらいそこで奴隷を嬲っていたが……シャーラはソニアを虐待していた時のような高揚感を得られなかった。
「それは貴方が聖女の力に目覚めたからじゃないかしら。
今度からソニアに似た女の子ではなくて男の方がいたぶりがいがあるかもしれないわよ?」
「そうですね。そうしましょう」
テンシアの提案にシャーラも頷く。
二人とも、虐待していた期間が長すぎて、感覚が麻痺していた。
どんどん行動がエスカレートし、普通に虐待するだけでは満足感が得られなくなっていたのだ。
「こんな事ならあの子を森の中になど捨てるんじゃなかったわ。
もうとっくに魔物の餌ね」
死んだ奴隷の頭を踏み潰しながらテンシアはため息をつくのだった。