1章 35話 かんしょー的
ファルネ様、ファルネ様。明日はどこ行くの?
旅の支度をはじめたファルネ様に私は聞いた。
あれからいっぱい日にちがすぎた。
シリルもファルネ様もあの日以来、私を人に会わせようとしなくなった。
不思議に思って聞いたけれど、もう少しこの生活に馴染んでからにしましょうって言ってた。
ちゃんと頑張れるのになぁと思うけど、少し嬉しい自分もいた。
できる事ならファルネ様とシリルとリベルと聖樹の精霊さんたちだけと一緒に暮らしたい。
もちろんファルネ様に言われれば頑張るよ!
あれから毎日ファルネ様と字や言葉のお勉強。
絵本やおえかきなんかもした。
発声練習もして言葉も上手に喋れるようになったの。
新しい可愛いお洋服も買ってもらえて、森の中をファルネ様と聖樹の精霊さんたちやリベルと遊びに出かける事も多かった。
毎日毎日ふかふかのベットで寝れて。
ご飯もいっぱい食べられた。
でもね。前と違って、もう元気になったから規則正しい生活を身に付けましょうって言われて毎日決まった時間に起きて、毎日きまったお時間に寝るの。
ご飯も時計を見ながら食べるようになったんだ。
ファルネ様が大人への第一歩って言ってたの。
大人になるのは嬉しいけれど。最近は「もうお風呂は一人ではいりましょうね?」とお風呂は一人になっちゃって寂しい。
今日は久しぶりに可愛いお洋服と帽子をかぶって、明日は馬車でどこかへお出かけって言われたの。
シリルとリベルも樹の精霊さん達も一緒みたい。
「前の家に一度戻ります。
リーゼも大きくなりましたし、いろいろ買い揃えたいものがありますから」
ファルネ様が言えばリベルが
『森でるのはじめて!!楽しみ!!楽しみ!!!』
と、はしゃいでた。リベルは小さくなってる。ぬいぐるみくらいの大きさ。聖樹の樹さんたちも。
エルディアの聖樹様に頼んで小さくしてもらったんだって。
『いいかい。食べ物はたんまり用意してやるから絶対人間を食べるんじゃないよ!?』
『大丈夫!!お菓子の方が美味しい!!人間より美味しい!!!』
と、ビスケットを食べながらリベルが嬉しそうににっこり笑うの。
小さくなったから同じ量なのに前より一杯食べれるとすごく喜んでる。
嬉しそうにビスケットの缶を抱えて食べてるんだ。
「前のおうち戻っていいの?お引越し終わり?」
ファルネ様に聞けば
「いえ、買い物に出かけるだけですよ。
またここに戻ってきます。
新しい絵本や私の服も新しいのを揃えないと。
急で申し訳ありませんが頑張れますか?」
ファルネ様が手をとって私に聞くのでうんうんと頷いた。
私はファルネ様がいるところならどこでも行く。
置いて行かれる方が嫌なの。
でも嬉しいな。あのおうちがやっぱり一番好き。
ファルネ様と最初に会った場所だから。
お庭が綺麗でお花がいっぱい咲いていて。
ふわふわのベッドに可愛い家具に。
ファルネ様との思い出がいっぱいつまったおうち。
馬車の旅は嫌な事を思い出しちゃうけれど。
シリルもリベルも聖樹の精霊さんたちもいるから平気。
ダイとレムとコロンも小さくなっておうちの中に入れて嬉しそう。
ちょこちょこおうちの中を探検してる。
皆であのおうちで暮らせるなんて幸せ。
ファルネ様もいて。
シリルもいて。
リベルもいて。
ダイとレムとコロンもいて。
嬉しくてファルネ様に抱きつけば、ファルネ様が背中を撫で撫でしてくれる。
大好き大好き。皆大好き。
どうかいつまでも皆で幸せに暮らせますように。
■□■
……ん。
まだ外も薄暗い中。
私は目を覚ました。
この神殿は夜でもお月様の光が差し込んでうっすら部屋の中が見える。
いつもなら夜中に目を覚ましても隣でファルネ様が寝ていて、ファルネ様の隣だと安心してもう一度寝るのだけれど。
今日はファルネ様が隣にいなかった。
慌てて部屋の中を観れば、シリルもリベルも樹の精霊さんたちもみんなシリルのベッドでスヤスヤ眠ってる。
よかった一人じゃなかった。
でもファルネ様はどこに行ったのかな?
私はシリル達を起こさないようにこっそり歩いて、窓からお外をみればファルネ様が中庭でお月様を見上げてた。
ファルネ様は本当に天使みたい。
青い髪がお月様の光でキラキラしてて。
綺麗な緑の瞳。
ファルネ様は今でも天使なんだと思う。
私がトコトコファルネ様の所にいけば、ファルネ様が振り返った。
「ああ、すみません。起こしてしまいましたか?」
ううん。ううん。私も目が覚めただけだよ。
隣にいていい?
「はい。でも少しだけですよ?
明日は少し早いですから」
うんうん。ファルネ様と馬車の旅。嬉しいな。
今度はねシリルもリベルも精霊さんたちもいるから怖くないよ。
私も元気になったからお布団に寝てなくても馬車に乗れるよ。
「そうですね。
あの頃とは比べ物にならないくらい、体力がつきました」
言って撫で撫でしてくれて。私は嬉しくて微笑んだ。
いっぱいいっぱい大変な事があったけど私はファルネ様と一緒だから幸せ。
もうシリルもリベルもいるからファルネ様が危ない目にあうことも、私に痛いことする人もいないはず。
これからずーっとずーっとファルネ様と一緒。
嫌な事も一杯あったけど。
今が幸せだから。
きっとあの不幸はこの幸せの為にあったんだ。
嫌なことをいっぱいいっぱい我慢したから、ファルネ様に会えたんだ。
だってママが言ってたもん。
嫌なことも我慢すればきっといいことがあるって。
急にファルネ様の私を撫でていた手が止まった。
私がどうしたのかな?と上を見上げればファルネ様が顔を逸らす。
どうしよう?どうしよう?
何か嫌われる事しちゃったかな?
怒ってる?怒ってる?
慌ててファルネ様の顔をみればファルネ様は泣いているみたいだった。
どうしたの?どうしたの?どうしたの?
どこか痛いの?シリルを起こして治してもらわないと!!
私が慌てて駆けようとすれば
「大丈夫ですよ。リーゼ。すみません。
ここから旅立たないといけないと思ったら急に感傷的になっただけです」
かんしょーてき?
「ここを離れるのが寂しくなったというだけですよ」
ファルネ様も意外と淋しがりやさん。
また戻ってくるから大丈夫だよ!
私がいい子いい子してあげればファルネ様が「そうですね」と微笑んだ。
その笑顔は本当に天使様で、私はファルネ様に抱きついた。
大好き大好き大好き。
「私もですよ」
言いながら撫でてくれるファルネ様の手が気持ちよくて。
私はまた再び眠気に襲われる。おやすみなさいファルネ様。