1章 25話 捜索(他視点)
「本当に護衛もつけずラーズ様自ら行かれるのですか?」
荒野の中をラーズと併走しながら、カイルが尋ねた。
二人とも直接日光が当たらぬように全身ローブに身を包んでいる。
あれからラーズとカイルは都市から出て馬を走らせていた。
「ファルネの通行手形は、エルディアの森で反応している。
もし生きているならばすぐにでもエルディアの森にある神殿に助けを求めているはず。
だが、助けを求めて出て来ない。
死んでいるか……もしくは出て来れないか」
ラーズの言葉にカイルが眉根を寄せた。
「身を隠して出て来れないと?」
「ファルネの護衛を調べた所、私が手配した護衛と別の護衛に入れ替わっていた。
グラシルが勝手に替えていたらしい」
「……まさか!?
グラシルが殺したというのですか!?」
「その可能性が高い。
……だが、まだわずかに希望はある。
ファルネを故意に殺したのなら、荒野で遭難したと見せかけて手形を荒野に投げ捨てるべきだ。
エルディアの森は拠点となる神殿があり、搜索隊が派遣されるのはグラシルも分かっているはずだ。
死体が検視され殺害が発覚する可能性が高い。
もし殺したのなら手形の反応をエルディアの森のままにはしておかないだろう。
荒野に死体を投げ捨てれば日差しで手形の追跡機能もすぐ壊れ、死体もすぐに魔物に食い荒らされ、いくらでも誤魔化せる。
荒野で遭難したと死亡報告するのが自然だ。
まだ手形の追跡魔法の効果が切れていないところをみると、生きている可能性も捨てきれない」
「だから二人でいくと?」
「そうだ。
搜索隊など出せばファルネが生きているのだとしたら、かえって身を危険に晒す。
グラシルの部下が捜索隊に加わり、見つけた所で殺されてしまうだろう。
私と君なら魔力と聖気をたどれる。
助けるなら私達が直に行くしかない」
「……無事で生きているでしょうか」
カイルがうつむきながら言う。
あの時。
カイルがファルネと立ち話などしなければ、聖女に目をつけられることもなくいまも神殿に勤めていられたかもしれないのだ。
長い間友人付き合いをしていた友が無事であってくれればいいと心から思う。
「……五分と五分だ。
ファルネは身体の弱い親戚と共に旅をしていると聞く。
だからこそ、エルディアの神殿で休んでいると思われて、搜索すらされずに見過ごされてしまったが……。
その子がいるから隠れて出て来れぬのかもしれない。
その望みにかけるしかないだろう」
言って馬を走らせる。
かくいうラーズもファルネが無事であるという可能性はそう高くないのは承知していた。
だが、自分が贔屓したために恨まれ、見せしめ的に何の落ち度もない彼を左遷してしまったことへの罪悪感がある。
出来るだけの事はしなければ自分自身も許せない。
無事でいてくれ。ファルネ。
ラーズ達は馬を走らせるのだった。