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【書籍化】虐待されていた商家の令嬢は聖女の力を手に入れ、無自覚に容赦なく逆襲する【本編完結】 作者:てんてんどんどん
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1章 23話 目覚め

「なんだこれはっ!!!!」


 暗殺者セガルは心の中で毒づいた。

 魔道具で体臭を消し、神官が持っているという魔道具の場所を検知してここまでやってきた。

 この森に住む聖獣は聖なる儀式で動けない。

 その間に、この魔道具の示した場所に男がいないか調べる。

 もしファルネという男がいたら殺す。

 それが任務だった。

 途中までは順調だったのに。

 気配を消し、体臭を消し森のかなり内部までやってきたのだが……。

 魔道具の反応まであと少しという所で、事態は動く。


「ぐはっ!!!!」


 部下の一人がトレントに殴られ吹っ飛んだのだ。

 まさか伝説の魔物トレントがこんな場所に!?

 木だと思い不用意に足場にしたとたん、部下の一人が殴りつけられたのである。


 セガルは毒づいた。


 なんでこんなところにモンスターが!?

 エルディアの森は動物はいるがモンスターはいないと報告を受けていた。

 だからこそ動物の習性をよく知り気配を消すのが上手い暗殺者を集めたのだが……まさかモンスターが出没するとは。

 対モンスター専門の暗殺者はまた別だ。

 ここにいるメンバーではモンスターは倒せないだろう。


 男がいると言われる魔道具の反応がある場所には洞窟がある。


 せめてあの中だけでも確認してから脱出する。


 セガルはそう決め、暗号でその場にいた者たちに指示をおくれば、一体につき3人ずつがトレントを引きつけ、残りの者たちが洞窟へ向かう。


 トレントは動きが大振りなため、倒すのは無理でも逃げ回るだけなら支障がない。

 数人の部下が引きつけている間に、残った者で洞窟内に入ろうとしたとたん。


 ひゅんっ!!!


 蔦が襲ってきてセガルは咄嗟にそれを躱す。


「ちっ!!!中にもモンスターがいたのか!?」



 セガルがそこで目を凝らせば、そこには無数の蔦と共に一人の少女とクマが立っていた。


 場違いな光景にセガルは思わず息を呑む。


 そこに立つ少女は美しく、栗色の髪が風もないのにさらりとたなびいていた。

 透き通るような白い肌に、燃えるような赤い瞳。それでいて中性的な顔立ち。

 神秘的な美しさの少女はただニコニコと笑みを浮かべ――


「あーーー!」


 少女から発せられた意味不明な言葉とともに、一緒に乗り込んだ部下が蔦で貫かれ、セガルは我にかえった。


 容赦なく頭を貫いたところをみると殺すつもりらしい。


 逃げられないと。


 本能的にそう悟った。


 ニコニコと微笑みながら次々と部下を貫く少女は――間違いなく悪魔だった。


 □■□



「ぎやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 仲間の断末魔が洞窟に響いた。

 あの声は恐らく隊長のセガルのものだ。


 ひぃひぃひぃ


 傷ついた足を引きずりながら暗殺者の一人が洞窟の内部に入り込む。

 なんとか蔦とクマの目を隠密の秘術で乗り切り洞窟の奥まできた。

 少女の蔦攻撃とクマの目から逃れたはいいが、洞窟入口は蔦に阻まれていて逃げ道はない。

 仕方なく気づかれないように奥まできてみたが……そこで暗殺者ダグラスは動きを止めた。


 そこに――いたのだ。

 ターゲットの神官が、光の玉のような物の中にフワフワ浮いた状態で。



 これがターゲット……。

 ダグラスは冷や汗をかいた。

 あの少女とクマは恐らくこれを守っている。


 ということはここにいるのは危険だ。


 思った瞬間。


「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 ダグラスは奇声とともに貫かれていた。

 脇腹を。


「ぐあっ!!!」


「あー!!あー!!あー!!!」


 少女がダグラスに容赦なく蔦で攻撃をしてくる。

 手に足に。動けなくなるようにとメキメキと絡ませ潰してきたのだ。


「だずけで!!だずけて!!!」


 ダグラスがあまりの痛みに声をあげた。

 今まで暗殺ギルドにいたため嬲り殺してきた相手など数多くいた。

 恐らく相手もこのような痛みの中で死んでいったのだろう。


 それでも自分がやられるとなると話は別だ。


 ダグラスだってなりたくて暗殺者になったわけではない。

 父に売られて仕方なくギルドに入れられたのだ。


 まだ死にたくない!死にたくない!!!


 祈ったその瞬間。


「……やめなさい。リーゼ」


 男の声が聞こえ――ダグラスを攻撃していた蔦がピタリと止まった。

 蔦に絡まれながら、ダグラスがそちらを見やれば――光の玉から一人の男が立ち上がる。

 恐らくターゲットの神官だろう。

 まだ20代あたりの若い青年だ。


「あ……あ……」


 男が起きて来たとたん、少女の攻撃が止まった。

 びっくりした顔で少女はただ立ち尽くしているのだ。


 ………助かったか?


 ダグラスが思ったその瞬間。

 容赦なく噛み付いてきたクマの攻撃でそのままダグラスは命を落とすのだった。


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☆悪役令嬢ですが死亡フラグ回避のために聖女になって権力を行使しようと思います☆
☆コミカライズ化決定!☆
☆2020年秋~冬にかけて開始予定☆
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