1章 21話 報告(他視点)
「また全滅しただと!?」
「……はい。15人ほど送った暗殺者達の魔道具から連絡がありません。
最後に聞こえたのが……悲鳴で、その後は途切れてしまいまして」
「まさかファルネに聖獣が味方してるのか!?」
「その可能性もあります」
なんということだろう。
このままでは我らの地位も危うい。
「別の暗殺者を雇え!!聖獣は満月の夜は儀式のために動けぬはずだ。
その時に森を探させろ!!」
「しかしグラシル様、それは神殿だけが知る情報です。
部外者……しかも暗殺者ギルドにその情報を漏らすのは……」
「我らの命がかかっている!!そんなことを言っている場合か!!!」
あの馬鹿聖女の力が弱いせいで偽聖女という噂まで流れ、いまでは聖女を見つけ出したグラシルの立場は悪くなっている。
それなのに私怨でファルネを殺そうとしたなどと知れれば役職どころか命まで危うい。
しかしファルネが生きているとしたらおかしい点もある。
エルディアの森にはラーズ派の神官がいるのだ。
何故ファルネが助けを求めないのか。
ファルネもエルディアの森の神官達がラーズ派なのは知っているはずである。
もしかしたら……ファルネは生きていないのかもしれない。
生きていればすぐにでも助けを求めたはずだ。
ただ、ただ単に銀の狼の怒りをかって殺されただけの可能性もある。
だが、どのみち真相を確かめる必要がある。
くそっ!!こんなはずではなかったのに!!
グラシルは手近にあった本を投げつける。
大神官になるまで絶対諦めてなるものか。
必ずっ!!!
■□■
「ラーズ様。また聖女様の世話係の女神官二人が職を辞したいと」
大神官専用の執務室で。
書類に目を通していたラーズは部下の報告を聞いて顔をあげた。
「……これで六人目か」
ラーズはとんとんと苛立ちながら机を叩く。
「はい。どうにも聖女様はターゲットを決めてその女性に嫌がらせをする事が多いらしく……」
報告をうけた部下が申し訳なさそうにラーズに書類を渡す。
辞めたいと申し出た神官は二人。
どちらも家柄があまりよくなく、神殿での地位も低い。
聖女シャーラは逆らえなさそうな女性をターゲットにしては嫌がらせを繰り返す。
これでは意地の悪い貴族そのものではないか。
本当にあの女が聖女なのか?
ラーズは苛立ちながら、書類に目を通す。
例によって二人ともヴァルノ派の神官だ。
ラーズ派の神官は聖女に近寄ることすらできない。
ヴァルノ派の神官なのにラーズに嘆願してくるということは、ヴァルノ派の実権を握っているグラシルが人身御供として彼女らの辞職すら許さぬためこちらに頼ってきたのだろう。
聖女は本来聖樹に愛される子。
それ故歴代聖女も性格がよく皆に愛された。
それなのにあのシャーラという女はどうだ。
どう考えても意地の悪い商家の娘にしかすぎない。
最近では男の神官にすら嫌がらせをはじめているという。
誰かに嫌がらせをしないと気のすまないタイプの人間なのだろう。
本来味方であるはずのヴァルノ派の神官でさえも聖女の悪口をいうことが多くなっている。
聖女の母のテンシアも父のヘンケルも贅沢の限りをつくし、異性を買いあさっている。
品位のかけらもない。
あんな女たちのために、ファルネが僻地に追いやられた事実にラーズはため息をついた。
彼は聖気を感じる事ができる貴重な神官だった。
あの女に見初められたばかりに僻地へと追いやられ……今現在行方不明になっている。
エルディアの森へ向かうという連絡を最後に、連絡がとれていないのだ。
調査隊を派遣すべきか――
聖気を探れる自分が行くべきか。
ラーズは考える。
彼を見せしめのために追いやった事への罪悪感があった。
神殿はヴァルノ派が牛耳っているため、自分の権力は失墜しつつある。
多少の時間なら自分がいないところで支障はないだろう。
エルディアの森ならすぐ近くだ。
「その二人は辞職を認めてやりなさい。
それと、カイルを呼んできてほしい」
「はっ」
ラーズに言われ部下は頭を下げる。
「無事でいてくれるといいのだがな」
ラーズは一人呟くのだった。