1章 16話 報告(他視点)
「全員殺されたかもしれない?」
神殿のグラシル用に用意された豪華な私室で部下の報告にグラシルは苛立ちながら答えた。
あの後。聖女シャーラにファルネを連れてくるので自分を大神官にするように取引をもちかけた。
するとあの馬鹿聖女シャーラはあっさりその誘いに乗ったのだ。
もちろんあの忌まわしきファルネをそのまま渡すわけがない。
殺して別の男をファルネの容姿にかえて渡す予定だったのである。
そうすれば聖女は操り人形に出来るはずだった。
その為ファルネ本人には死んでもらい、失踪扱いにする予定だったのだが……。
どうやらファルネを殺すために雇った冒険者達は死んだらしい。
生存を知らせるはずの魔道具が反応していないのだ。
まずい。非常に不味い。
あの冒険者は神殿経由で雇った者だ。
もしファルネが生きていて、冒険者に殺されそうになったなどと訴えでればグラシルまで捜査の手が及ぶかもしれない。
「ファルネが所持している神殿の通行書はまだエルディアの森で反応しています。
恐らく彼はあの森にいるでしょう。
あれがなければ他の都市に行けません」
部下の一人が魔道具の地図を持って告げれば
「エルディアの森なのだな!?
今すぐほかの者を手配して殺してこい!!
金に糸目は付けぬ!!
でなければ我らの未来はない!!」
「はっ!!」
部下が一礼して去っていく。
まったく、あの男は忌々しい。
いつも自分の前を歩き、ラーズにも自分より可愛がられていた。
神官の学ぶ場で学問の成績は常に上位だったが 体術が長けているなどと聞いた事はなかった。
むしろ学者肌で体術などの成績はあまりよくなかったはずだ。
冒険者を返り討ちにしたなどと信じられない。
森の中で冒険者達と一緒に殺されている可能性もあるが、真偽を確かめなければどうしようもない。
エルディアの森は動物達の住む森でそれほど凶悪なモンスターはいない場所だ。
屈強な冒険者が殺されたとも考えにくい。
とにかく、生きていたらグラシルの首が飛ぶのだ。
さっさと始末しないといけない。
だが厄介な事にエルディアの森にある神殿にいるのはラーズ派の神官達だ。
殺してこいと命令ができるわけもない。
はやく追っ手を差し向けてエルディアの森の中で殺さなければ。
エルディアの森にある神殿にもファルネが接触しないか見張るための密偵を置いておかないといけない。
くそっ!!こんなはずではなかったのに!!
グラシルは忌々しげに机を叩くのだった。