池田総理大臣の西太平洋諸国訪問の際の各国政府との共同声明
日本国池田総理大臣は夫人を伴い、一九六三年九月二十九日から十月三日までオーストラリア連邦政府の賓客としてオーストラリアを訪問した。
池田総理大臣はオーストラリア滞在中キャンベラ、シドニー及びメルボルンを訪ずれ、サー・ロバート・メンジス総理大臣その他の閣僚と会談した。
日本及びオーストラリア両国総理大臣は友好的、かつ、有益な会談を行ない、特に、国際情勢一般につき腹蔵なく討議し、かつ、両国の友好関係を更に増進する方策につき検討した。
国際情勢の討議において両総理大臣は、対外政策における両国の立場が近似していることを確認した。
両総理大臣は両国及び自由世界の利益を伸長する目的をもって種々の段階における協議を通じ、将来両国が密接に協力することを待望した。
両総理大臣は、最近締結された部分的核実験禁止協定を特に歓迎するとともに、すべての国、就中、太平洋諸国或いは、太平洋に利害関係をもつ諸国が、この協定を支持すべきであるとの希望を表明した。
日本及びオーストラリア両国がマレイシアの成立を歓迎していることに留意し、また、アジア・西太平洋地域において両国が有する共通の運命と責任を認識して両総理大臣は同地域の情勢に対し深い関心を表明し、かつ、両政府が世界のこの地域における平和と経済的進歩の達成に寄与するため益々、緊密に協力すべきことに意見一致した。
両総理大臣は、日本及びオーストラリアがコロンボ・プランその他の手段によって東南アジアの経済的発展を助長するため協力する方策を討議した。
両総理大臣は、日本国とオーストラリアとの間に両国間の完全なガット関係を現出し、ガット35条の留保を撤回した通商協定が最近締結されたことにつき、喜びと満足とを表明した。新協定は両国間に現存する互恵的通商関係の一層の拡大をもたらすものと確信する旨表明した。
両総理大臣は、更に、両国間の人的接触及び文化交流が益々増大していることに満足の意を表し、両政府は今後これらの発展を促進するため一層の努力を払うべきことに意見一致した。両総理大臣は、今回の池田総理大臣のオーストラリア訪問が両国の相互理解と友好関係の増進に極めて有意義であったことを認め、今後両国の閣僚及び政府関係者が出来る限り、密接な接触を保つべきことに意見一致した。
池田日本国総理大臣は夫人を伴いニュー・ジーランド政府の招待により一九六三年十月三日から五日までニュー・ジーランド政府の賓客としてニュー・ジーランドを訪問した。
池田首相はニュー・ジーフンド滞在中ホリオーク首相兼外相及びマーシャル副首相兼海外貿易相と会談した。これらの会談はもっとも友好的雰囲気のうちに進められ、両国が共通の関心を有する国際問題及び日本・ニュー・ジーランド間の友好関係の増進につき率直な意見の交換が行なわれた。また池田首相はノードマイヤー労働党首と会談した。
両首相は日本及びニュー・ジーランド両国がアジア及び太平洋の情勢に対処するに当って多くの利害と目的とを共にすることを認め、就中両首相はこれらの地域における平和と経済発展とを促進すること、そしてその目的のために両国相互間の、また他の関係諸国との間の協力を拡大することに関心を示した。更に両首相は平和及び国際問題解決のための機構として国連が有する重要性を認めた。
両首相は部分的核実験禁止条約が最近締結され両国がその署名国となったことに満足の意を表明した。しかし両首相は本条約が全ての国によって受入れられるまでは人類の環境を汚染する核実験が今後も行われるかもしれないとの見通しに対し引続き重大なる懸念を感ぜざるを得ないことを認め、また適当な国際的監視及び管理のもとにいかなる場合にも核実験を禁止する包括的条約を含む有効な一般軍縮措置に向って前進することが必要であると認めた。
両首相は両国が共通の関心を有する国際情勢を検討し両国がマレイシアの結成を歓迎するものであることを認め現在の情勢に深い関心を示すと共に、問題が近く満足な解決を見ることを希望することに意見の一致を見た。
両首相は日本・ニュー・ジーランド両国間の政治、経済及び文化関係が近年非常な発展をとげていることを喜ぶと共に一九五八年の通商協定締結以来両国間の貿易が著しく増大していること、また一九六二年三月の通商協定改正議定書の締結が両国間の貿易促進のために有益な措置であったことに満足の意を表明した。両首相は両国相互の利益のため貿易の堅実な拡大を維持するに適当な今後の方策を決定することを目的として両国政府及び担当官の間で常時現状の検討を行うべきことに意見の一致を見た。
両首相は更に両国間の人的接触及び文化交流がますます増大していることに満足の意を表し両国政府は今後これらの発展を促進するため一層の努力を払うべきことに意見の一致を見た。
両首相は今回の池田首相のニュー・ジーランド訪問が両国の相互理解と友好関係の増進に極めて有益であったことを認め、今後両国政府はあらゆる経路を通じて相互に出来る限り密接な接触を保つべきことに意見の一致を見た。
日本国池田勇人総理大臣はインドネシア政府の招待により、夫人とともに、一九六三年九月二十六日から同月二十八日までインドネシアを訪問した。
池田総理大臣は、ジャカルタ滞在中、スカルノ大統領及びその他のインドネシア政府指導者と会見し、現下の国際情勢と両国が共通の関心を有する諸問題について意見を交換した。この会談は極めて友好親密な雰囲気の中に行なわれ、その際、両者は主として日本・インドネシア関係を深く、且つ、綜合的に検討し、特に、両国間の経済協力について協議した。
池田総理大臣とスカルノ大統領は、平和の維持が両国の経済発展と両国民の福祉の前提条件であり、かつ、人類の生存のため不可欠であることに意見の一致を見た。
池田総理大臣とスカルノ大統領は、核戦争が人類の完全な破滅を意味することを深く憂慮して,部分的核実験禁止条約の締結を歓迎し、効果的保障を含む全般的且つ完全な軍備縮少協定ならびに核兵器実験の全面的禁止協定の早期締結が急務であることを強調した。
両首脳は、国際連合憲章の精神と原則を全面的に支持することを再確認し、加盟国数の増加に適応するよう、この世界機構を改善するため、ともに努力することに同意した。
総理大臣と大統領は、日本・インドネシア両国間の関係を更に強化したいとの希望を再確認し、また、世界、特に西太平洋の平和を増進するために緊密に協力することに合意した。この点に関して総理大臣は、マフィリンド諸国の指導者が、その地域の安定、平和及び相互の繁栄に貢献する目的をもってマニラ首脳会談の精神にもとづき協議(ムシャワラ)を行なうようにとの強い要望を表明した。
池田総理大臣とスカルノ大統領は、両国間の一九五八年の協定に基づく現行賠償実施計画が円滑に進捗しており、かつ、両国相互の利益のため日本との健全な経済協力の方向に進んでいることに満足の意を表明した。
池田総理大臣は、スカルノ大統領に対し、日本はインドネシア国民の生活水準の向上と国造り一般を目的とする諸事業の発展を早めるため、日本の能力の許す範囲内で、引き続き出来る限りインドネシアに対する経済技術援助を拡大する用意がある旨述べた。両者は更に日本・インドネシア両国間の貿易を一層増進する方法につき意見を交換した。
総理大臣と大統領は、両国間の経済協力は、単に商業上の考慮のみに基づくものではなく、両国の広義の相互利益に寄与するような積極的性格を有するものであることにつき意見の一致を見た。
池田総理大臣とスカルノ大統領は、政治経済及び文化の各分野において現存する両国の友好的かつ協力的関係が今後ますます発展することを希望した。
池田総理大臣とスカルノ大統領は、今回の訪問の機会に相互理解を深めることができたことに満足の意を表明した。両首脳は今回の訪問によって新たにされた個人的接触が今後とも維持され、強められるようにとの希望を表明した。
ジャカルタ 一九六三年九月二十八日
日本国総理大臣
池 田 勇 人 署名
インドネシア共和国大統領
スカルノ博士 署名
日本国池田勇人総理大臣はフィリピンのマカパガル大統領の招待により、夫人とともに、一九六三年九月二十三日から二十六日までフィリピンを訪問した。
マニラ滞在中、池田総理大臣とマカバガル大統領は両国が共通の関心を有する諸問題について率直な意見の交換を行なった。会談は極めて友好親密な雰囲気の中に行なわれた。
大統領と総理大臣は世界平和の維持が自国の国民の経済発展と福祉にとって不可欠であるのみならず人類と文明の存続そのものにとっても必要不可欠の条件であることに意見の一致をみた。大統領と総理大臣は世界平和と国際の安全の維持を共通の目標とすることを確認し、あらゆる可能な手段によりこれらの目標を、特に両国が存する地域において達成するため努めることに合意した。これらの目標に関して池田総理大臣はマカパガル大統領がマフィリンドを主唱するに際して、同大統領が示した、平和への献身的努力を多とすると述べた。
両首脳は核戦争が人類の完全な破滅を意味することを深く憂慮して、最近の部分的核実験禁止条約の締結を歓迎し、かつ、効果的査察及び管理を含む核兵器実験の全面的禁止協定の早期締結が急務であることを強調した。
両首脳は効果的国際管理及び監視を含む全般的かつ完全な軍備縮少協定を締結する重要性を認めた。
マカパガル大統領及び池田総理大臣は両国間の一九五六年の協定に基づく現行賠償実施計画が進展しており、フィリピン共和国の経済発展に役立っていることに満足の意を表した。
大統領と総理大臣はフィリピンと日本との間の貿易を一層拡大するための方法について意見を交換した。総理大臣は賠償、経済開発借款及び延払い信用供与を組合わせて活用することにより、可能なあらゆる援助を提供することを提案した。大統領はこの提案に対し謝意を表明した。この提案の実施を促進するため、友好通商航海条約批准問題解決にいたるまでの間両国国民の事業及び関連事項の遂行にあたって両国国民の間の関係を規律すべき取極の策定に関し、検討と会談が行なわれることになろう。
大統領と総理大臣は政治経済及び文化の各分野における両国の友好的かつ協力的関係が今後ますます発展することを希望した。
マカパガル大統領と池田総理大臣は今回の訪問の機会にアジア及び世界情勢全般に関するそれぞれの見解について相互理解を深めることができたことに満足の意を表し、この訪問により確立された個人的接触が今後とも維持され、強められるようにとの希望を表明した。
マニラ 一九六三年九月二十六日