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 「焼け残った細切れな記録に、生き残った人々のおぼろげな記憶を混ぜこんで再現された小ぎれいな城」。この夏芥川賞を受けた高山羽根子さんの「首里の馬」は、那覇市の首里城をこう描く。

 太平洋戦争末期の沖縄戦で、激しい砲撃にさらされて焼失。戦後、わずかな図面や写真、そして古老の記憶を頼りに復元が進められた。1992年に正殿など主要施設が完成すると、鮮やかな朱色の建物群は沖縄の象徴として定着していった。

 そんな城が、またも炎に包まれようとは。正殿を含む6棟が焼失した火災からあすで1年になる。夜空を背景に焼け落ちる姿は衝撃的だった。すぐに再建の機運が高まり、作業が動き出したのは心強い。

 ただ、前回復元時の記録があるとはいえ、独特の赤瓦に使う粘土をはじめ、現在は入手が難しい資材もあるという。単なる再建ではなく、確かな史料と最新の技術を組み合わせた再建を期す。新たに防火施設も整備する。

 再建の過程を公開する「見せる復興」が始まっている。焼け残った大龍柱(だいりゅうちゅう)の修復などを見学すれば、何度も焼失しながらその度に再建されてきた歴史を感じられるかもしれない。

 「首里の馬」は価値も分からない雑多な史料の記録と保存を主題に据える。「この資料がだれかの困難を救うかもしれない」。主人公の望みが現実となり、「小ぎれいな城」が再現される日を待ちたい。