12.挑発
王弟殿下であるグレン様が用事のためしばらくの間、王都から離れるというウワサはあっという間に広がった。
わたし専属のメイドたちの間でもその話で持ち切りだったりする。
計画を聞いた翌日から、グレン様を見かけなくなったので、本当に王都にいないのかもしれない。
いつもの午前中の魔力の総量を増やすためのお茶会は、第二騎士団副長で従兄でもあるマルクスお兄様と副長補佐官でマルクスお兄様の婚約者でもあるステイシーお義姉様が来てくれている。
グレン様とは違った視点の話が聞けるので、楽しい。
一番面白かった話は、ときどき騎士団員は変装して、護衛任務につくことがあるというもの。
商人や農民に扮して護衛をするというのはとても面白かった。
一応、グレン様の計画については、マルクスお兄様とステイシーお義姉様、トリス様の三人には伝えてある。
伝えたあとの三人の微妙な表情がなんとも言えなかった……。
グレン様を見かけなくなった三日後の午後、ジェラルド様が筒状の大きな紙を携えて現れた。
もちろん、無言で扉を開けて……。
わたし専用の研究室には、護衛の騎士が二人とトリス様、それからわたしの四人だけで、グレン様はいない。
そんな中、ジェラルド様は扉の前にいた護衛の騎士たちに以前、所長から得た許可証を見せつけた。
護衛の騎士たちはしぶしぶ引き下がる。
「前に言われた改善点を修正して、完璧な設計図を書いてきました! 見てください!!」
ジェラルド様は挨拶もなしに部屋の中央にあるテーブルの前まで来ると、筒状の大きな紙を広げた。
ちなみにテーブルの上には図鑑や種を載せるトレイ、トリス様がまとめている書類などがあったんだけど、問答無用で載せられた……。
「これならば、不特定多数の魔物をおびき寄せることが可能です! さあ、種を生み出してください!」
ジェラルド様が持ってきた設計図を見ると、以前グレン様が指摘した『芽は双葉なのか、つる草なのか真っ直ぐ伸びるのか、葉の大きさや背丈、花の形など、植物としての要素が足りなさすぎる』という部分が書き加えられており、種の設計図としてはたしかに完璧なものになっているみたい。
だけど、グレン様が言っていた『これらの魔物が一度に現れた場合はどう対応するつもりだ?』という問いの答えにはなっていない。
このままこの種を生み出せば、魔物が一斉に訪れて、大変なことになるのは間違いない。
「お断りします」
わたしはきっぱりとそう言った。
「な、なぜですか! この設計図どおりの種を生み出せば、魔物を一網打尽にできるというのに!」
「この設計図どおりなら、世界中の魔物が一度に訪れる可能性だってあるんです。そんな危険なもの生み出せません」
ジェラルド様はわたしの言葉を聞いた途端、唇をかみしめた。
わたしのスキルは『願ったとおりの種を生み出す』もの。
この世に存在しない種も生み出せる。
だから、気をつけなければならない。
グレン様とも約束してるしね……。
「……本当は……………だろ……」
ジェラルド様が何か言ったけれど、あまりにも小さな声だったため聞き取れなかった。
首を傾げていると、睨みつけながら言った。
「本当は種なんか生み出せないんだろ! 新種のスキルだなんてでっち上げて、周囲のコネで特別研究員になったんだろ!!」
ジェラルド様の言葉にわたしは目を見開いて驚いた。
わたしのスキルを鑑定したのは、国に認められている鑑定士のグレン様だ。
でっち上げ……であれば、グレン様の鑑定結果が間違いということになる。
周囲のコネで特別研究員になったことに関しては、否定できない。
グレン様と出会っていなければなっていなかったと思うし……。
「チェルシー嬢が特別研究員になったのは、コネなんかじゃないっす! ハズラック公爵の孫娘さんの命を救ったからっす! あの種は新薬として、活用されることになったっす!! 実力でなったんすよ!! 自分が特別研究員になれなかったからって、テキトーなことを言うな! っす!!」
トリス様が擁護してくれたので、嬉しくて泣きそうになった。
コネじゃないって言っていいんだ……。
ジェラルド様は目を充血させつつ、さらに叫んだ。
「種を生み出している姿を見たことないんだから、信じられるわけないだろ! だったら、今ここで何でもいいから種を出してみろよ!!」
確認のために視線を向けると、トリス様は小さく頷いた。
「わかりました。無害な種を生み出します……【種子生成】」
いつものようにそうつぶやけば、ジェラルド様が作った設計図の上にころんと種が転がった。
生み出したのはかぼちゃの種。
ジェラルド様は一瞬驚いたけど、すぐにムッとした表情に変えた。
「本物かどうか確認してきてやる!!」
そして、かぼちゃの種を掴むと、設計図を置いて出て行った。
足音がどんどん遠ざかっていく。
「部屋に入るときも出るときも何も言わないとか、ミラベルさんに頼んで教育しなおしてもらったほうがいいっすね」
トリス様はそう言いつつため息をついていた。
「これで、いいんですよね?」
わたしはトリス様の顔をうかがうようにしてつぶやく。
「そうっすね。グレン様の言うとおりになったっす。あとはなるようになるっす!」
トリス様はそう言うといつものようにニパッとした笑みを浮かべた。
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