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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第三章

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10.別問題

 反論することができずにジェラルド様が研究室を去っていった。

 グレン様は苦笑いを浮かべながらこう言った。


「これでしばらくはここに来ないだろうね」

「そうだといいですね」


 わたしが頷くとトリス様が叫んだ。


「二度と来るな! っす」


 それからしばらくの間、グレン様が言っていたようにジェラルド様は研究室に現れなかった。


 ホッとしていたのだけど、別の問題が起こった。


 それは休日に護衛の騎士たちとともに、与えられている庭へ向かおうとしている時だった。


 西の大庭園を通った先にわたし専用の庭があるんだけど、その途中にモグリッジ次期伯爵様が立っていた。

 西の大庭園は貴族であれば、誰もが訪れることができる場所。

 なのでモグリッジ次期伯爵様がいてもおかしくはない。


「ああ、婚約者のチェルシー! こんなところで君に会えるとはなんて素敵な日だろう!」


 モグリッジ次期伯爵様はわたしの顔を見た途端、そう叫んだ。

 護衛の騎士たちは、わたしの顔をチラリと見てくる。

 わたしは盛大に首を横に振った。

 たったそれだけで、護衛の騎士たちは全てを理解したようで、わたしを守るような形で立ちはだかってくれた。


「君は研究所でとても苦労しているのだろう? 特に最近は歳の近い少年にいろいろ言われているのではないかい?」


 どうしてそれを知っているの?

 そう聞き返しそうになったけど、ぐっと我慢した。

 この人とは口をきいてもいいことがないから、黙っているのが正解のはず。


「やっぱり苦労しているんだね。顔に出ているよ! そんなに苦労しているなら研究員なんてやめて、すぐにボクのお嫁さんになりにおいでよ」


 わたしはまたも盛大に首を横に振った。


「ボクのお嫁さんになれば、幸せになれるよ? 毎日優しく撫でてあげるよ。ね?」


 モグリッジ次期伯爵様はそう言うとゆっくりとわたしに近づいてきた。

 わたしはあまりの気持ち悪さに一歩下がった。

 するとモグリッジ次期伯爵様が目をギラギラさせながら、嬉しそうに笑い出した。


「怖がっているチェルシーもかわいいね。大丈夫だよ。ボクのそばにいれば何も怖くないよ」


 ……き、気持ち悪い……。

 わたしはその場でブルッと震えてしまった。


 その瞬間、視界の端っこがキラッと光って、目の前に実体化した精霊姿のエレが現れた。


「……我が主をここまで怯えさせるとは、地に還るがいい!」


 エレは怒った表情でそうつぶやくと、モグリッジ次期伯爵様の手前に雷を落とした。

 直撃ではなくても近くに落ちれば痺れる。

 それは旅の間に知っていた。


 一応、手加減をしているのだと、エレは不機嫌な表情のまま言っていたっけ。


 そんなことを考えていたら、エレに抱き上げられて、腕に座らされた。


「こんなものがウロつく場所へは行ってはならぬ。今日は部屋へ戻るがいい」

「うん、そうするね。ありがとう、エレ」


 前より身長が伸びたのもあって、腕に座らされると、エレの頭のてっぺんがよく見える。

 子猫のときと同じように頭を撫でたら、フワフワして気持ちよかった。


+++



「次期伯爵のボクに対してなんたる仕打ち!」


 騎士たちによって、城壁の外へと追い出されたモグリッジ次期伯爵は、門前でそう叫んでいた。

 門番をしていた騎士たちは眉間にシワを寄せている。


「チェルシーはあんなにかわいいのだから、ボクのお嫁さんになるべきなのに、なぜあのような態度をとるんだ!」


 モグリッジ次期伯爵はそう言うと、腰に手を当てて考えるような仕草をし始めた。


「ボクのことをさんざん弄んでひどい子だ。そういう子はお嫁さんになってから、一度ズタボロにして逃げ場がないことを徹底的に教え込まないといけない。ああ、楽しみだな……!」


 門番をしている騎士のうちの一人がモグリッジ次期伯爵の発言をこっそりとメモに残し始めた。

 その後もモグリッジ次期伯爵は、どのようにズタボロにするか語ったりしていたらしい……。


いつもお読みいただきありがとうございます!


書籍化についての続報はないの? という質問をいただいていますが……

出版社から発表の許可が出ていないので、何も言えません。ごめんなさい。

ぼくから言えることは、Web版と書籍版では設定がいろいろ違います……ってことくらいです。

なので、タイトルに【Web版】の文字を入れました。


今後もよろしくお願いします!

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