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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第三章

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08.突然現れた少年

 カトラリーコインを生み出してから数日たったある日の午後、わたし専用の研究室に見知らぬ男の子がやってきた。

 わたしよりも年上だけど、グレン様よりは年下っぽい雰囲気の男の子はわたしを見るとニッコリと微笑んだ。


 対応にあたったのはトリス様。

 研究室の入り口に通しただけで、それ以上中へは踏み込ませない。

 グレン様はわたしを隠すように前に立った。


「初めまして、研究員のジェラルドと申します」

「約束もなしに何の用っすか?」


 トリス様からは、とげのある声が聞こえる。


「共同研究を申し込みにきたんです」


 その言葉にわたしは首を傾げた。

 共同研究って一緒にスキルの調査と研究をするってことだよね。

 わたしはトリス様と一緒に調査と研究を行っているんだけど、さらにジェラルド様が混ざるってこと?


「チェルシー様のスキルはもっと有効利用すべきです!」


 わたしが考え込んでいる間にジェラルド様はそう叫んでいた。

 その一言で、グレン様から冷たい空気が出ているような感じがする。

 わたしは真後ろにいて顔が見えないけど、対面にいるジェラルド様があからさまに怯えた表情になったから、気のせいじゃない。


「……チェルシー嬢のスキルは公になっていないっす。どうして知ってるっすか?」


 わたしのスキルって、公になっていなかったんだ……。

 そういえば、どこでも『新種のスキルに目覚めた者』と呼ばれるだけで、詳しくは話していなかった。


「魔物をおびき寄せる植物と薬となる種を生み出して、村を救った慈悲深い研究員がいるって街でウワサになっているんです。気になって調べたら、チェルシー様のところへいきついたんですよ」


 ジェラルド様は怯えた表情のままそう答えた。


 たしかに、村人たちにアマ草と湿疹を治す軟膏の種を生み出したと話した。

 それがきっかけで知られてしまうとは……。


 ここでは悪いことをしてもムチで打たれるようなことはないけど、お説教くらいは受けるよね……。


「そうっすか……。それで、どういった研究がしたいんすか?」

「不特定多数の魔物をおびき寄せる種を生み出してほしいんです! どこにいるかわからない魔物を倒すより、万全の準備をした状態でおびき寄せたのち、騎士や魔法士たちが戦えば、負傷者が減ると思うんです!」

「それと共同研究がどうつながるっすか?」

「自分は魔物を倒す魔法について研究してるんです。チェルシー様が種を生み出してくれれば、おびき寄せた魔物で魔法の実験ができるようになるんです!」


 ジェラルド様の弾んだ声が響いた。


「今日のところは帰ってくれっす。こっちにも予定があるっすよ」


 トリス様がそういうとジェラルド様は挨拶もなしにすんなり出て行った。


 三人そろって椅子に座ると、グレン様が研究室に防音の魔法を掛けた。


 グレン様から大きなため息が聞こえる。


「……あの、スキルのこと村人たちに教えて、申し訳ありませんでした」


 わたしはその場で頭を下げた。


「いや、チェルシーが謝ることじゃない。公に発表していないだけで、公言するなってことではないんだ」


 グレン様はそういって優しく微笑んだ。


「必要な時には公言していいんだ。チェルシーのことだから、誰かのためにスキルを使うことになるのは目に見えているしね」


 たしかに、村人たちに教えたのもきちんとした薬だと信用してもらうためだった……。


「それよりも、さっきのジェラルドだっけ……。あの子はマズイね」


 グレン様はそういうと眉間にしわを寄せた。


「チェルシーが戻ってきたこのタイミングで共同研究を持ちかけるっていうのが、引っかかるんだよね」

「それもあるっすけど……ジェラルドくんは魔物を食料にも素材にもならないような状態にする残虐な攻撃魔法を編み出すことで有名っす。何か裏があるような気がしてならないっす……」


 基本的に魔物は有害で、人の生活を脅かす存在だと言われてるから、おびき寄せて倒すということに問題を感じなかった。

 でも、グレン様とトリス様は何か思うことがあるらしい。


「そういえば、不特定多数の魔物をおびき寄せると言ってたっすけど……。手に負えない魔物までおびき寄せたら、どうするんすかね」

「え!?」


 わたしはトリス様の言葉に目を見開いて驚いた。


 ドクフラシは騎士たちに無抵抗なまま消えていったけど、もし反撃していたら騎士たちはケガをしたかもしれない。

 おびき寄せるということは、ケガすることだって……死ぬことだってあるということ……。


「場所が王都や町や村の近くでは、二次被害も起こるかもしれないね」


 魔物が倒せなくて、人の多い場所へと向かったら……。

 それは悪い種と言ってもおかしくないものだと思う。

 わたしはグレン様と悪い種は生み出さないと約束した。


 だから、ジェラルド様がいうような種は生み出せないし、生み出さない。


「生み出すにしても、すでに存在している種で安全なものだけにすればいいんじゃないっすか?」

「そうだね。それなら、きちんと調べてから生み出すことになるしね」


 わたしは、トリス様とグレン様の言葉に頷いた。


「まあ、話を聞くだけ聞いて、悪い種だとわかったら追い返そうね」


 グレン様そういうとわたしの頭をぽんぽんと撫でた。

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