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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第三章

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06.カトラリーコイン

 お休みを挟んだ翌々日、お茶会とスキルの調査および研究を再開することになった。

 トリス様に迎えにきてもらって、いつもの日当たりのいい研究室へと向かう。


 午前中は魔力量を増やすためのお茶会。

 ジーナによって、白いクロスのかかったテーブルには紅茶と様々なお菓子が並ぶ。

 グレン様とは向かい合わせに座り、サージェント辺境伯領での出来事や道中に起こったことを話した。

 ドクフラシの話をしたときは、とても鑑定したがっていた。


「そういえば、モグリッジ次期伯爵を名乗る男に言い寄られていたんだってね?」

「はい……」


 今までにされたことや言われたことを詳しく話すと、グレン様は眉間にしわを寄せた。


「報告は受けていたけど、とても厄介な相手だね」


 わたしはコクリと頷いた。


「身分は明かしていないんだよね?」

「はい。研究員とだけ伝えてあります」


 モグリッジ次期伯爵様には、サージェント辺境伯家の養女であることも国の特別研究員であることも伝えていない。

 護衛の騎士たちと話し合って、伝えないことにしていた。


 いろいろと理由がある。

 貴族というものは誰かの紹介で知り合うものだとか、本物の次期伯爵かどうかもわからない相手に名乗るのはどうなのかとか、身分を隠しての旅だから黙っているべきだとか……。


「モグリッジ次期伯爵は、自称婚約者を名乗って好き勝手なことをするくせがあるらしい。きちんと名乗らず身分を明かさなかったことは正解だね」


 わたしはグレン様の言葉に顔を引きつらせた。


 先回りされて、宿屋で若奥様と呼ばれることがあった。

 それと似たような感じで社交界でもわたしのことを婚約者呼ばわりされたら……?

 恐ろしくなって首を横に振った。



+++



 午後になると、トリス様がやってきた。


「今日は第二騎士団からの要望で、新しい種を生み出してほしいっす」


 以前、第二騎士団の副長のマルクスお兄様と副長補佐のステイシーお義姉様に皿やフォークになる種について話したことがあった。

 それを実用化できないか? ということらしい。


「その話は俺も聞いているよ。一緒に考えてみよう」

「よろしくお願いします」


 そこから三人で、皿やフォークになる種の設計図を考えた。


「まずは種の大きさから決めよう。魔物討伐などの遠征時に使うのを前提にしているので、できるかぎり小さい種がいいだろう」

「小さすぎると失くしそうっすね」

「コインくらいの大きさで平たいものなんてどうでしょうか?」


 わたしがそういうと、グレン様がハッとした表情になった。


「コインのようなものなら管理する側も数えやすくていいな」


 持ち歩くことばかり考えていたけど、こういったものの場合、管理も必要になってくるんだね。


「種の形はそれにしよう。あとは葉や茎、背丈などは……」


 そこからは三人で紙に絵を描いていった。

 結果として、一つの種からフォークとスプーン、ボウル型の器の三種類の実が出来て、採取すると葉や茎が枯れるというものになった。

 採取したフォークとスプーンとボウルは、一日経つと枯れることになった。


「一生使えるものにすると、経済に影響が出るからね」


 グレン様は複雑そうな表情をしていた。


「最後に、この種なんだけど、栽培可能なものにしたいんだ」

「フォークとスプーンと器とは別に種が実るようにしますか?」


 わたしの言葉にグレン様が首を横に振った。


「それだと、万が一遠征先で種を落としたら、その地でこの植物が生え続けることになってしまう。それは他の生き物に影響が出るだろうから、避けたい」

「では、どうするっすか?」

「栽培可能な種とコインの形をした種の二種類を生み出すことにする」


 グレン様はそういうと別の紙に書きながら、説明してくれた。


 わたしが生み出す種は栽培可能な種。わかりやすく丸い種とする。

 その丸い種を植えると、丸い種が一粒とコインの形をした種が百個出来るようにする。

 コインの形をした種を植えると、フォークとスプーンと器を生み出す。

 丸い種を植えると、最初の種と同じく、丸い種一粒とコインの形をした種を百個生み出す。


 こうすれば、栽培可能になるってことらしい。


「これは、チェルシーが生み出す種は必ず発芽して成長するという結果が出ているから出来る方法だよ」

「なるほど……」


 わたしが納得していると、トリス様は目を輝かせた。


 それから栽培可能な種について考えて、紙に書き記した。

 何度も設計図を読み込んで頭に入れる。

 種の名前も決まったので、いよいよ生み出すことになった。


「では……カトラリーコインの最初の種を生み出します! 【種子生成】!」


 スキルを発動させると、設計図の上にあめ玉みたいにまん丸な黄色い種が現れた。


「設計図通りの見た目っすね」


 トリス様は種をいろいろな方向から観察し始めた。

 グレン様は鑑定を発動させているようで、種の少し上あたりをじっと見つめている。

 わたしはうまくいったか分からなくて、ドキドキしていた。


「鑑定してみたら、『カトラリーコインの栽培できるほう』って言う名前がついていたよ……」


 グレン様は苦笑いを浮かべつつ、そう言った。


「さっそく植えて確認してみるっす!」


 トリス様はニパッと笑うと種を持って部屋を出て行った。

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