05.美容効果
宿舎の部屋に戻ると特別研究員となったときに増えた専属のメイドたちが出迎えてくれた。
「「「「チェルシー様、おかえりなさいませ!」」」」
「ただいまです」
いっせいにぴったりと声をそろえて言うから、驚いた。
みんな嬉しそうな表情をしているので、わたしもうれしくなる。
ここはもう、わたしの帰る場所なんだね。
頰を緩ませていたら、後ろからついてきていたジーナとマーサが部屋の中にいるメイドたちの列に並んだ。
そして、二人はわたしの足の先から頭の上まで何度も何度も見つめたあと、微笑んだ。
「王立研究所の入り口でも思いましたが、チェルシー様はとても変わりましたね!」
「サージェント辺境伯家から、以前より一回り大きなサイズのドレスやワンピースが届いていましたので、背が伸びたのではないかと予想していましたが……」
「背だけじゃなかったですね! 髪ツヤ、肌ツヤ、全身が磨き上げられて、一段と可愛くなってます!」
「可愛いだけではございません。貴族らしい所作も身につけていらっしゃって、美しくもあります」
「髪も伸びましたね! 結い上げるのが楽しみです!」
ジーナとマーサが興奮したようにそういった。
「ありがとうございます」
可愛いとか美しいなんて、言われ慣れていないから照れてしまった。
それと同時に、貴族らしい所作はサージェント辺境伯家にいる間にみっちり勉強したので、身についていると言われるのは本当にうれしい!
ますます頰を緩ませていたら、斜め後ろに立つミカさんがつんつんとつついてきた。
そういえば、宿舎の部屋に戻ったら、紹介するんだった。
「こちら、魔王国からやってきた料理人のミカさんです」
「チェルシー様の専属料理人で獣人のミカなのよ~。おいしいご飯やお菓子を作るのが得意なのよ~!」
ミカさんはそういうとふわふわとした太い尻尾をぶんぶん揺らした。
ジーナの目がミカさんの尻尾に釘付けになっている。
子猫姿のエレを見て目を輝かせていたから、猫好きなんだと思っていたけど、ふわふわした生き物が好きなんだね。
「チェルシー様の髪や肌のツヤは香油やマッサージだけじゃなくて、お料理も関係しているのよ~!」
ミカさんは魔王国から届いた食材を使って、いろいろな食事を作ってくれた。
ほとんどが初めて見る料理だったけど、どれもこれもおいしかった。
「成長にも美容にもいい料理なのよ~!」
ミカさんの言葉にメイドたちの目がキラッと輝いた。
「そうだ。実際に食べて、確かめてもらったらどうかな?」
「いいアイディアなのよ~! さっそく、作るのよ~!」
こうしてミカさんは、すぐに部屋に設置されている簡易キッチンを使って、成長にも美容にもいい料理を作り始めた。
その間に、わたしはメイドたちによってお風呂に入り、徹底的に洗われた……。
毎日、ミカさんに【浄化】の生活魔法をかけてもらっていたので汚れはないけど、そういう問題ではないらしい。
サージェント辺境伯領にいたときにも使っていた香油をつけられ、マッサージもされた。
肌触りの良いワンピースに着替えて、ドレッサールームから部屋へ戻ると、ミカさんの尻尾がぶんぶん揺れていた。
「チェルシー様、出来たのよ~!」
ダイニングテーブルの上には、八人分のオーギョーチーの入った器が置かれていた。
ゼリーみたいにプルプルしたオーギョーチーの上には小さく切ったレモンが添えてある。
「これはオーギョーチーという食べ物で、美容にとてもいいのよ~! 材料はチェルシー様が生み出してくれたオーギョーチーの種から作られているのよ~!」
ミカさんはメイドたちに向かってそう説明した。
実は、サージェント辺境伯家の屋敷にいる間にオーギョーチーの材料となる種は底をついていた。
だけど、旅の途中で一度にたくさん種を生み出すことが出来るようになったから、暇をみつけて生み出しておいたの。
これでいつでも、オーギョーチーが食べられる!
「わぁ……何度見てもキレイ」
「冷やしておいたから、どうぞなのよ~!」
ミカさんはそういうと、テーブルの上から器を一つ取って、さっと食べた。
どうして先に食べたんだろう?
首を傾げたら、ミカさんがニコッと笑った。
「毒見しないと、みんな不安なのよ~?」
料理に対して真剣なミカさんが毒を入れるなんて考えられないけど、メイドたちは心配になるよね。
「うん、ばっちりおいしいのよ~!」
ミカさんの様子から問題ないのを確認したあと、ダイニングテーブルに置かれている椅子に座ろうとして気がついた。
「普通の椅子に変わった?」
「はい。チェルシー様の背が伸びたことで、以前使っていた椅子よりもこちらのほうがよいと判断いたしました」
「ありがとう!」
ジーナの言葉にわたしは頰を緩ませた。
気遣ってもらっているのがわかると、胸が温かくなる。
改めて椅子に座り、神様に祈りを捧げたあと、ミカさん特製のオーギョーチーを食べた。
ゼリーよりも少し柔らかくてのどをつるっと通り抜けていく。
「おいしい……」
わたしが食べ終わると、メイドたちがお互いに顔を見合わせたあと、器を手に取っていく。
みんな、ミカさんと同じようにその場でさっと食べた。
「ん……」
「おいしいわ~」
「のどごしがさわやかね」
メイドたちが感想を言うと、ミカさんは尻尾を高速回転させていた。
それ以上振ると尻尾どこかに飛んでいくんじゃ……。
それから、ミカさんは時々だけど、メイドたちにもお菓子を作るようになった。
結果として、メイドたちの肌に変化があったようで、何度もお礼を言われている姿を見かけた。
みんな、仲良くなってよかった。
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メイドは全部で6人います。