04.出迎え
城門を通り抜けて、城壁の内側にある王立研究所近くに馬車が止まった。
ミカさんと精霊姿のエレとわたしの三人で馬車を降りると、そこにはグレン様やトリス様、メイドのジーナやマーサが出迎えにきてくれていた。
「ただいま戻りました」
そう声を掛けたんだけど、誰一人として返事がない。
みんながみんな、目を見開いて驚いている気がするんだけど、気のせいかな?
首を傾げていたら、そばに立っていたミカさんがニコッと笑った。
「チェルシー様は前に比べて成長したから、みんな驚いているのよ~」
そういえば、この三カ月で身長がだいぶ伸びたんだった。
といっても、平均的な十二歳の身長よりは低いので、まだまだ子どもに見られるんだろうな……。
そんなことを考えていたら、トリス様が駆け寄ってきた。
「チェルシー嬢、めっちゃ変わったっすね!」
「たしかに、身長が伸びました」
「いや、それだけじゃないっすよ!」
「髪の毛が伸びました……?」
「そうじゃないっすよー!」
トリス様が呆れた表情になるのと同時に、グレン様が目の前に立った。
「以前にも増して可愛くなったってことだよ。おかえり、チェルシー」
「ただいま戻りました」
かわいくなったなんて言ってくれるのはグレン様くらいなので、とても嬉しい。
わたしは頰を緩ませながら、カーテシーを披露した。
それを見たグレン様はいつもと同じように優しく微笑んでくれた。
「そういえば、予定よりもだいぶ到着が遅くなったみたいだね」
グレン様の言葉にコクリと頷いて、返事をしようとしたところ、そばにいた精霊姿のエレが腰に手を当ててて叫んだ。
「それは道中現れた魔物とチェルシー様に言い寄った男のせいだ!」
精霊姿のエレは口をへの字にして、ムッとした表情をしている。
「途中の村でドクフラシという魔物と出くわしたという報告は受けているけど、言い寄った男っていうのは聞いていないよ?」
グレン様は優しい微笑みを引っ込めると、無表情になり視線を護衛の騎士……隊長さんへと向けた。
「ハッ……到着後、報告する予定でした」
「で、どんな男なんだ?」
「モグリッジ伯爵家の令息で次期当主を名乗り、チェルシー様に研究員を辞めて妻になるよう申しておりました」
隊長さんは強張った表情のまま汗をかいている。
「あ~……モグリッジ伯爵んとこの令息っすか……。たしか三十代前半の引きこもりで、何を言っても通じないおっさんっすよ。昔は幼い子と婚約しては成人したあとに破棄するってのを何度か繰り返してたって、所長が言ってたっすよ」
トリス様が心底嫌そうな表情をしながら、そう告げた。
「ロリコンか……」
グレン様から聞きなれない言葉が聞こえて、首を傾げていたら、ミカさんが力強く頷いた。
「ロリコンは幼女趣味って意味なのよ~! チェルシー様を見た瞬間に『妻になることを許そう』なんていう男は、許せないのよ~!」
あの時、背中がぞわっとしたのを思い出して、首をプルプルと振った。
ジーナとマーサがわたしを心配そうな表情で見ている。
「別の町に移動したあともついてきたのよ~! こっちはこっそり王都へと向かっているっていうのに、道端で『俺の妻を返せ!』なんて叫んだり、宿に先回りして女将さんから『若奥様なんですってね!』なんて言われたり、さんざんだったのよ~!」
ミカさんが話すたびに、だんだんとグレン様の目が据わっていっているような気がした。
「我が何度も雷を落として警告したのだが、一歩も引かなくてな。何度、首を捻ろうと思ったか……!」
「それはさすがにダメだから……」
精霊姿のエレの言葉にわたしはそうつぶやいた。
たしかにちょっと……いや、だいぶ、嫌な行動をされたけど、まだ、罪を犯してないから……。
いや、そもそもエレが首を捻ったら、エレが罪人になってしまうのかな?
グレン様は深い深いため息をついた後、もう一歩わたしに近づいてきた。
驚いて見上げるとグレン様はとても心配そうな顔をしていた。
「触られたりしていないね?」
「はい」
わたしはコクコクと頷く。
「ここにいるかぎり、必ず俺が守るから、安心してね」
グレン様はそうつぶやくと、わたしの頭をぽんぽんと撫でた。
久しぶりのこの感じは、なんだか照れてしまう。
でも、嬉しい。
まだしばらくは子ども扱いのままでもいいかな……。
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