首里城火災1年 地域の宝守る具体策を

2020年10月30日 07時56分
 首里城(那覇市)の火災から三十一日で一年になる。国立文化財機構(東京)は今月、文化財を災害から守る拠点「文化財防災センター」を開設した。具体的な防災策や地域連携の構築が急がれる。
 二〇一一年の東日本大震災や一九年の台風19号、今年七月の熊本豪雨など大規模災害では文化財も被害を免れない。史跡や建築物の損壊、工芸品や史料の冠水などが各地で報告されている。
 燃え盛る炎が今も記憶に新しい首里城の火災は一九年十月三十一日未明に発生し、正殿などを全焼した。「沖縄の象徴」の焼失は地元のみならず人々に喪失感をもたらした。電気系統から出火した可能性が高く、スプリンクラーの未設置が問題視された。
 今月一日に発足した文化財防災センターは奈良文化財研究所(奈良市)に本部を置き、文化庁や各地の博物館、大学、地方自治体などと連携し、文化財の防災・減災を図る。東日本大震災時に関係者が駆けつけ、文化財の散逸を防いだ「レスキュー(救出)」経験が発足の原点にあり、文化財情報のデータベース化や防災ガイドラインの構築、展示技術の研究を進めて、災害時は専門家を派遣する。
 災害は年々、凶暴化する一方、文化財の保護に多額の予算を付けることは難しくなっている。国などに指定や登録をされていなくても、地域には貴重で、後世に伝えるべき財はある。首里城も焼失で何度か再建されている正殿などは登録文化財ではなかった。
 地方自治体では改正文化財保護法(一九年四月施行)に基づき、防災や観光、まちづくりの視点から未指定も含めた文化財をいかに保存、活用するかを盛り込んだ大綱や計画の作成が進む。抽象的な文言に終始したり、文化庁の指針を踏襲しただけにせず、実効性のある中身が求められる。
 文化財保護法は一九四九年の法隆寺の火災を機に施行され、今年で七十年を迎えた。その後も金閣寺や大徳寺、寂光院などを焼いた京都では市消防局が二〇一一年に文化財の一覧表「セーフティカード」を作成。どの建物のどこに仏像などがあり、何人で運べるか、分解できるかなど写真や配置図を添え記録されている。幸い、活用例はないというが、極めて実用的だ。地域と熟慮した万が一の消火体制や訓練も充実している。
 悲劇を繰り返さないため、具体的な防災・減災策を広く共有することが求められている。

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