今回は、理事の利益相反取引に対する制限について解説していきます。この利益相反取引と競業取引に対する制限は、平成28年9月の医療法改正において加えられた制限です。これらは、会社法で定められている制限を医療法人においても適用したものですが、難しい概念ですので詳しく解説していきます。
利益相反取引について
①利益相反取引とは
利益相反取引とは、ある理事が自己の(個人的な)利益又は第三者の利益を得るために行う取引が、当該理事の医療法人にとっては不利益となることです。医療法人は「法人」ですので法律上、人格が与えられています。ここで、理事は人格を与えられている医療法人の実際の運営をつかさどる人物であると同時に一人の個人です。そのため、理事個人の利益と、法人としての利益が対立することがあります。例えば、理事長個人が所有している土地等を医療法人に売却する場合です。理事長は医療法人の運営を行う立場ですので、これを利用して通常よりも高値でこの土地を売却する場合があります。この時、理事長と医療法人の利益が対立する恐れがあります。医療法では、医療法人の利益を保護するためにこのような利益相反取引に対して一定の規制を設けています。
②利益相反取引の種類
法律上では利益相反取引を2種類に分けています。1つ目は、「理事が自己又は第三者のために医療法人と取引をしようとするとき」です。これを利益相反の「直接取引」と言います。上記の具体例は直接取引です。2つ目は、「医療法人が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において医療法人と当該理事との利益が相反する取引をしようとするとき」です。これを利益相反の「関節取引」と言います。これは、例えば理事個人が負っている借金を医療法人が代わりに返済を行う場合が考えられます。実務上、1つ目の直接取引が問題になりやすいと思われます。理事個人との取引だけでなく、理事がある第三者の代わりに医療法人と取引を行う場合も利益相反取引に該当しますので注意が必要です。
③利益相反取引に該当する場合どうすればいいのか
実務上、利益相反取引が必要となる場面も多数存在します。そのため、医療法は利益相反取引を全面的に禁止しているわけではありません。厳格な法的手続きの下、医療法人の承認を得た場合、利益相反取引を行うことができます。具体的には、「利益相反に該当する取引につき、重要な事実を開示した上で、理事会において承認を受ける」必要があります。この承認決議は、理事会の開催方法で解説した方法で行います。したがって、利益相反取引に該当する場合は、理事会を開催した上で、当該取引に対する承認決議を議事録にしっかり記載しておく必要性があります。これを怠った場合、利益相反取引により医療法人が損害を受けた場合は、利益相反を行った理事だけでなく、他の理事も善管注意義務違反として損害賠償責任を負うので注意が必要です。
④その他注意点
利益相反取引に該当する場合であっても、医療法人に損害が生じない取引「理事が医療法人に対して無利息で金銭を貸し付ける場合等)は、理事会の承認を行わなくても法令違反とはなりません。この法律の趣旨(条文化された理由)は医療法人の利益を保護するためだからです。また、利益相反取引における「取引」とは、売買だけでなく、契約を含む広い概念ですので注意が必要です。
今回は以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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