ダニの研究で著名な齋藤裕・北大名誉教授は福建省の農業科学アカデミーに招聘された。「千人計画」にリストされた際に賞金が出、3年間2100万円の研究費はこの分野では高額。住居費は中国もちで週末は星付きのホテル泊と満足。

 定年を迎えた人士は、日本では名誉教授など単なる肩書で給料も研究室もないが、中国では給料・研究費も恵まれている。

 申請手続きなどすべてやってくれるし、避暑や遠隔地赴任などの感覚でホテル住まいも許され快適ということらしい。

 他方、43歳の高畑教授は、ポスドク問題に見るように日本に研究者などポストがないため仕方なく中国へ行くしかなかったと語っている。

 本誌(29日号)で研究費の削減で基礎研究ができなくなっている現状に危機感を述べているのが、ノーベル賞受賞者の2人である。

 オートファジーで受賞した大隅良典・東京工大栄誉教授は「基礎科学者が中国に流出することがいま以上に増えていく」と危惧し、当人にも年間1億円の予算確保で声を掛けてきたと明かし、「(今の中国は)基礎科学を大事にしており、何をやってもいいような自由がある。非常にレベルが高くなっており、量も質も敵いません」と、科学者として魅力を感じるという。

 オプジーボの基を発見して受賞した本庶佑・京大特別教授は「マラソンに例えるなら、今の日本は優勝争いを繰り広げる先頭集団の最後尾」で、一度脱落すれば挽回には大変なエネルギーを必要とするので「今がまさに、わが国の科学技術政策を見直すラストチャンス」と訴える。

おわりに

 研究費などの減少で中国へ流れていく研究者が増えている実情は何とも情けない。

 定年後の貢献の仕方は、意識次第でいくらでもあるのではないだろうか。自衛官は一般公務員よりも定年が5年早いし、大学教授などに比すれが10年早い。それでも国家に貢献したという満足感をもつものが多い。

 こうした自衛官の国家への貢献を無にしかねないのが、「学問の自由」を声高に叫び立てる人士たちだから、何をかいわんやである。