02.種を生み出そう
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ミカさんがどこからか植物図鑑を取り出して、開いて見せてきた。
「ドクフラシの好む植物はこれなのよ~。毒素で出来た湿疹に効く薬の元はこっちね!」
「ありがとうございます」
わたしは図鑑に載っている植物を食い入るように見つめた。
名前はアマ草。そのままではただの草なんだけど、煮たり焼いたりするととても甘くなるらしい。
どんな形の種でどんな風に育つか、花や実はできるのか……図鑑をひととおり見終わったので、わたしは大きく深呼吸をした。
「アマ草そっくりだけど、成長が早い一代限りの種を生み出します。【種子生成】」
わたしがつぶやくと、目の前にあるテーブルの上に拳くらいの大きさの真っ赤な種が現れた。
本物のアマ草の種は茶色なので、似ているけど違う種が出来たのだとわかる。
「では、私が責任持って、これを植えてこよう」
護衛の騎士のおじさんはそう言うと、種をポケットに入れた。
そして、他の護衛の騎士たちとともに部屋を出て行く。
騎士たちはこれから、村長の家を訪れて、身分を明かして信用を取り付けるんだって。
王国の第二騎士団の団員だから、きっとすぐに信じてもらえると思う。
そのあと、ドクフラシと戦うのに良さそうな広場に種を植えるみたい。
わたしが生み出した種は、植えてすぐに芽をだして大きく育ち、半日で枯れるというもの。
ミカさんの話では、ドクフラシはアマ草が大好きだからすぐに現れるらしい。
騎士たちが出て行ってすぐ、わたしは今度は図鑑の別のページを開いてじっと見つめた。
次に生み出すのは、毒素で出来た湿疹に効く薬の元となる種。大きさは小指の爪よりも小さいもの。
これは種のまますり潰して、湿疹ができた場所に塗ればいいらしい。
問題は、一人二百粒必要ってこと……。
「魔力壺が大きくなって、たくさん種を生み出せるようになったし、がんばる!」
ミカさんの食事のおかげもあって、成長したと同時に魔力壺がとても大きくなった。
辺境伯領にいる下級の鑑定士に見てもらったけど、種を三千回以上生み出せるくらいはあるらしい。
それからも毎日、おいしい食事を摂り続けているのでもっと増えているかもしれない。
それから、薬の元となる種をひとつひとつ生み出していたんだけど、だんだん面倒になってきてしまった。
一人二百粒で、倒れた人は十三人。二千六百回もスキルを使うとなると……つらい!
「一度にたくさん生み出せないかな……」
わたしがそう愚痴をこぼすと、ミカさんはテーブルの上にある薬の元となる種を袋に入れながらニコッと笑った。
「試してみるのよ~!」
精霊姿のエレもうんうんと頷いている。
初めてスキルを使った日に試したけど、できなかった。
でもそれは、魔力壺が小さくて、魔力量が足りなかったからかもしれない。
たしかあのとき想像していたのは、あふれるくらいたくさんの種だった。
十粒で魔力切れを起こして倒れるような状態であふれるくらい種を出すことはできないよね。
「そうだね。やってみる!」
魔力量的に出せる種を思い浮かべたながら、つぶやいた。
「毒素で出来た湿疹に効く薬の元となる種を千粒、生み出します! 【種子生成】」
体の内側でごっそりと何かを持っていかれるような感覚があったあと、テーブルの上に種がざらっという音とともに現れた。
そして、あまりにも数が多かったため、テーブルから床へと零れ落ちていく。
「あああ!」
「あらまぁ~」
わたしとミカさんは慌てて零れた種を拾い集めた。
精霊姿のエレはしばらくの間、呆れた顔をしていたけど、大きなため息をつくと拾うのを手伝ってくれた。
「大精霊にこんなことをさせるのはチェルシー様ぐらいだぞ」
ぶつぶつと文句を言っていたけど、聞こえないふりをしておいた。
あとで子猫姿に戻ったときにたくさん撫でておこうっと。
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