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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第三章

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01.宿の部屋で

(2/4)

 部屋に戻ると、わたしはソファーに座った。

 ミカさんはすぐにどこからか簡易キッチンを取り出して、部屋の隅でごはんを作り始めた。

 もしかしたら、ミカさんもアイテムボックスという異次元を使った収納を持っているのかもしれない。

 いつもどこかわからない場所からアイテムを取りだすもんね。


 薬になる種について話し合うのだと思ってたんだけど、違うのかな?


 首を傾げていると護衛の騎士たちが次々に部屋へと戻ってきた。

 そして、ミカさんとは対角に位置する部屋の隅で話し始めた。


「どうやらこの村では、何らかの病気が流行っているようだな」

「ならば、すぐにでも出発すべきではないか?」

「出発しようにも外は大雨で、馬たちはまともに走れないだろう」

「しかも、この先にある橋が大雨の影響で崩落しかかっているらしい」

「なんてことだ……。まるで足止めされているようではないか」


 騎士たちはそこで黙るとしばらく考え込み、いっせいにわたしの顔を見た。


「チェルシー様! どうか、この部屋からは出られませんよう……!」


 祈るように手を合わせて見つめてくる騎士たちの表情は今にも泣きだしそうな感じだ。

 護衛対象が病気や怪我になったら、騎士たちが困るもんね。


「また屋敷にいたときのように病気になり、つらい思いをされたら、……我らは生きた心地がしませぬ!」


 あれ? もしかして、この間までベッドから動けなかったわたしのことを心配してくれてる?

 メイドたちが心配してくれているのは知っていたけど、護衛の騎士までだったとは知らなかった。


「わかりました。病気にならないように気をつけます」


 わたしは泣きそうな顔をした騎士たちに何度も頷いた。


 それよりも薬になる種を生み出したらどうかという話をしたいんだけど、誰にすればいいのかな。


 話を聞いてくれそうなエレは昨日、霧のように姿を消してからどこへいったのかわからない。

 ミカさんなら聞いてくれるかもしれない。

 だけど、今はごはんを作っているから、声を掛けづらい。


 残るは護衛の騎士の隊長さんだけど……。

 きっとわたしがどんなスキルを持っているかは理解してると思う。

 でも、今までどんなことをやってきたか、詳しく話したことはないから、どこからどう説明すればいいんだろう……。


 薬となる種を生み出したいです! ってだけじゃ、伝わらないよね……。


 悩んでいる間にミカさんが作ったごはんがテーブルに並んだ。


「すっごく悩んでいるみたいだけどぉ、どうしたのかなぁ?」


 ミカさんはわたしのすぐそばに座るとそう聞いてきた。

 わたしはなんて言おうか迷って口をパクパクさせていた。


「まずはごはんを食べてからなのよ~。食べないと頭が働かないからね!」


 わたしはミカさんの言葉に頷くと、出来立てのミカさんお手製の晩ごはんを食べ始めた。


 ミカさんの料理は簡単なものでも、とてもおいしいので嬉しい。

 護衛の騎士たちも同じことを思っていたようで、少しだけ雰囲気が和らいだ感じがした。


 お味噌汁とごはん、お漬物と焼き魚を食べ終えたところで、わたしはミカさんに話し始めた。


「あの、食事スペースで聞いた話で……」


 そこまで言いかけたところで、手首にあるガラスのような精霊樹の腕輪がパッと光り、精霊姿のエレが現れた。


「外の様子を確認してきたぞ」


 精霊姿のエレの言葉は誰にでも聞こえるので、護衛の騎士たちは姿勢を正した。


「どうやらこの村には、少々厄介な魔物が潜んでいるようだ」

「ど、どんな魔物でしょうか?」


 騎士のおじさんは、精霊姿のエレに向かって丁寧な口調で話しかけた。

 精霊姿のエレは威厳があるから、緊張しちゃうよね。


「毒素を含んだ雨を降らす魔物だ」

「うわぁ……ドクフラシかぁ……それなら妙な気配がしてあたりまえなのよ~」


 エレの言葉にミカさんがとても嫌そうな顔をしていた。


「ねぇ、もしかして……村の人たちに湿疹が出来て倒れているのって、そのドクフラシのせい?」

「うむ、そのとおりだ。ドクフラシは毒素を含んだ雨を降らせ、獲物が弱ったところを捕食する」


 わたしの疑問に精霊姿のエレが答えてくれる。


「ドクフラシも倒れた人たちもなんとかしてあげたい……」


 わたしがそうつぶやくと、精霊姿のエレがニヤッと笑った。


「チェルシー様であれば、どちらも可能である」

「え?」

「あ~そっかぁ! チェルシー様だったら、種を生み出せるからね!」


 ミカさんが尻尾をぶんぶん振りながら答えた。


「ドクフラシって特定の植物が大好きなのよ~。それを広い場所に植えれば、一カ所に集まってくるから、そこを騎士さんたちがシュパパッて倒しちゃえばいいのよ~!」

「なるほど、それはよい! 我々の活躍の場ができるということだな!」


 ミカさんの言葉に、口調が戻った騎士のおじさんがそう叫んだ。


「毒素に効く軟膏も植物の種が原料だ」


 精霊姿のエレが優しく微笑みながらそう言った。


 どちらもすでに存在する植物。その種を早く育つような植物の種として生み出せば……。

 村を救うことができる!


 わたしはその場にいた全員の顔を見回すと、力強く頷いた。

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