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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第二章

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14.メイドを捕縛した

 俺は屋敷に戻るとフェリクスの元へと向かった。

 お付きのメイドをやっているならば、フェリクスのそばにいるだろう。


 今の時間なら剣術の稽古を終え、そのまま庭で休憩をしているだろうと、他のメイドから聞いた。

 庭に近づくにつれ、フェリクスとメイドの会話が聞こえてくる。

 俺は気づかれないようにそっと近づいた。


「フェリクス様は大変すばらしい方です。どうかあたしを一生、そばに置いてください」


 フェリクスはサージェント辺境伯家の三男だが、跡継ぎのいない伯爵家の養子になるのではないかとウワサされている。

 たぶん、このメイドも伯爵家当主になるかもしれないフェリクスについていきたくてそんなことを言っているのだろう。


 だが……、素晴らしいからそばに置けとは、さっぱり意味がわからない。


 フェリクスは小さくため息をつくとメイドの言葉を無視して用意されていた飲み物を口にした。


「どうかあたしを愛しているとおっしゃってください。そうすればフェリクス様はずっと幸せでいられますから、ね?」


 メイドはニコニコというよりもギラギラとした表情でフェリクスの顔を覗き込んでいる。

 フェリクスは今度は顔を引きつらせながら、視線をそらせた。


 これは、メイドとしてついていきたい……というものではなく、妻になりたいという話か…‥。

 二十代前半の女性が十歳の男児に言い寄るとは……俺の顔まで引きつりそうになった。


「どうして何も言ってくださらないんですか? あたしはずっとフェリクス様に尽くしているのに!」


 それはフェリクス付きのメイドなのだから、尽くして当たり前だろう……。

 だんだん聞いているのがつらくなってきたので、俺はあえて足音を立ててフェリクスたちに近づいた。


 俺に気づいたメイドは、途端に態度を改めるとすまし顔になった。


「今いいか?」


 そうフェリクスに問いかけるとその場で立ち上がり、姿勢を正した。


「はい」


 俺はフェリクスに向かって頷くと、視線をメイドへと移した。


「サージェント辺境伯家の養女であり、国の特別研究員でもあるチェルシー・フォン・サージェントの誘拐を企てたとして、フェリクス付きのメイド、シェイラを捕縛する」


 メイドは俺の言葉を聞くとカッと目を見開き、すぐにそばにいたフェリクスをぎゅっと抱きしめた。


「あたしがそんなことするはずないじゃないですか」

「誘拐犯である邪教徒の一人がお前が関与していると話した。他にも証言は集められる」

「そんなことしてないので、集まるはずがありません」


 メイドはなぜかフェリクスを抱きしめながらどんどん後ずさっていく。


「十日前に訪れた居酒屋の店員、お前と邪教徒を結んだ情報屋、チェルシーに外出するようそそのかした時にいた護衛、それから出発前に御者にも話しかけていたな」


 証言をするだろう人物の名前を次々にあげていくと、メイドの表情は次第に曇っていった。


「……邪魔するから悪いのよ」


 メイドはポツリとつぶやくとどこからかナイフを取り出して、フェリクスの首元に当てた。

 フェリクスは喚きもせず、じっとしている。


「あたしと同じ男爵家の娘のくせに先代様に媚び売ったり、フェリクス様と仲良くしようとするから悪いのよ!」


 ナイフを持っていないほうの腕でフェリクスをぎゅうぎゅうと抱きしめるメイドは、気が触れているとしか思えない。


 俺はスキルを使いメイドを捕縛しようとしたが、突然フェリクスが話し出した。


「シェイラが今言ったことだけど、父上に聞いてみたんだ」


 フェリクスの言葉にメイドの目が泳いだ。


「姉上は父上の妹……叔母様の娘なんだ。だから、先代であるお祖父様とお祖母様が姉上をかわいがるのは、孫娘なんだから当たり前なんだ」

「う、うそでしょう……」


 メイドはフェリクスの言葉を聞き、次第に当てていたナイフの位置が首元から口の下あたりまでズレていった。

 これならたとえフェリクスに傷がついたとしても致命的なものにはならないだろう。


「ぼくとチェルシー姉上はイトコだから、『姉上』って呼んで仲良くしたっておかしくないんだ」


 フェリクスはそういうとメイドの手から逃れるように暴れだした。

 メイドは慌ててフェリクスを抱えなおそうとしたが、手がぶれてフェリクスの口の下あたりを切った。


「いたっ」


 切れたことでフェリクスが声を上げた。

 メイドはゆっくりと抱えているフェリクスの顔を横から覗き、血がにじんでいるのが確認した。


「あ……い、いや……ちが……違うの、本当に切るわけじゃ……いや、いやああ……!」


 メイドはフェリクスを切ってしまったことに動揺して、その場でナイフを投げ捨てた。

 そして、そのままフェリクスから離れ逃げ出そうとしたところを、捕縛の魔法をかけ捕まえた。


 メイドの叫び声によって、屋敷の者たちが庭にやってくる。

 ほとんどの者が捕縛の魔法で動けなくなっているメイドと顔から血を流しているフェリクスとを見比べて顔を青ざめさせていた。

 それに気づいたフェリクスは屋敷の者たちに向かって言った。


「サージェント辺境伯家のものにとって傷は勲章だから!」

「さすがに顔には傷がないほうがいいだろう……」


 俺はすぐにフェリクスの顔に治癒の魔法を施した。




 こうして、フェリクス付きのメイド、シェイラはチェルシーの誘拐を企てただけでなく、フェリクスにナイフを向け人質にとり傷をつけたとして、刑に処されることが決まった。

ブクマ・評価ありがとうございます。


【お知らせ】

書籍化することになりました!

これも応援してくださったみなさまのおかげです。

本当にありがとうございます!

これからも出来る限り頑張っていきますので、よろしくお願いいたします!<(_ _)>

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