13.邪教徒を捕まえる
護衛騎士たちと自分自身に目くらましの魔法をかけ、チェルシーの幻影を乗せた馬車のあとをつけた。
たどり着いたのは、国境付近の寂れた教会の前だった。
馬車が止まると寂れた教会から黒いローブを着た邪教徒たちが集まってきた。
御者の男はうつむいたまま動こうとしない。
鑑定してみたところ、眠りの魔法を掛けられているようだ。
「お迎えに上がりました。聖女様」
邪教徒たちの中でも一番背の高い男が小窓を覗き込みつつそう言った。
馬車の中には俺が生み出したチェルシーの幻影が身を縮こませながら座っている。
チェルシーのスキルは見方によっては聖女と思われてもおかしくない。
王立研究所にいたときは副作用のない薬草の種を、サージェント辺境伯領にきてからは瘴気を吸収する種を生み出している。
俺の頼みを聞き、悪用されそうな種は生み出していないから、なおさら聖女と思われるだろう。
教団として聖女を迎え入れたいのであれば、真正面から話をつけにくるものだ。
誘拐という形を取るならば、やましいことがあるのか、もしくは聖女を消そうとしているとも考えられる。
どちらにせよ、瘴気を振りまき魔王国をそしてサージェント辺境伯領をも混乱に陥れようとした邪教に、聖女としてチェルシーを渡すなんてことは、ありえない。
たとえ、幻影だとしても渡したくない。
俺はすぐさま、チェルシーの幻影を生み出す魔法を解き、様子を伺った。
邪教徒たちは馬車の足元に簡素な階段を置き、その上に黒い布をかぶせた。そしてゆっくりと扉を開ける。
「……誰も乗っていないぞ」
先ほど馬車の小窓を覗いていた背の高い邪教徒が、今度は馬車の中を覗きながら呆然としつつつぶやいた。
「そんなバカな!」
「本当だ! いない!」
「聖女様はどちらへ!?」
邪教徒たちは代わる代わる馬車の中を覗くとそんなことを叫んだ。
そんな邪教徒たちの叫びにニヤッとした笑みを浮かべた。
そして無言で捕縛の魔法をかけた。
邪教徒たちは身動きが取れず次々に倒れていく。
「な、なんだ!?」
「動けないぞ? どういうことだ!?」
さらに指をパチンと鳴らし、目くらましの魔法を解く。
邪教徒たちは突然現れた俺たちに目を見開いて驚いていた。
「彼女に手を出すとはいい度胸だね」
俺は地面に転がる邪教徒たちを睨みつけた。
「失敗……か」
背の高い邪教徒は諦めた表情になりそうつぶやいた。
その途端、地面に転がる他の邪教徒たちがうめき声をあげた。
背の高い邪教徒自身も苦痛で顔を歪めている。
周囲にいた護衛騎士たちが邪教徒たちに声をかけるがうめき声は止まない。
するとそのうちの一人がパタッと動きを止め、口からダラダラと血を流した。
他の邪教徒たちも次々に血を吐き動かなくなっていく。
俺は驚きつつも目の前にいる背の高い邪教徒を鑑定した。
結果としては、任務に失敗すると死ぬ呪いを受けていた。
まだ、フェリクス付きのメイドが関与していることを確認していない。
死なせるわけにはいかない。
慌てて呪いを解く魔法をかけたところ、背の高い邪教徒はピタッとうめくのをやめた。そして何かを言おうとしてゴホッと血を吐いた。
俺はすぐに治癒の魔法をかける。
「あなた様は……」
背の高い邪教徒はそこで口をつぐむと、俺の顔をじっと見つめてきた。
何を言おうとしたかはわからないが、今はそれよりもフェリクス付きのメイドが誘拐に関与していたかどうかを確認したい。
そう問うとあっさりと関与していたことを明かした。
さて、仕上げと行こうか。
俺は黒い笑みを浮かべたあと、その場を護衛騎士たちに任せて屋敷へと戻った。