07.グレンの気持ち
とても短いです
魔王国から届いた親書には、どんな対価でも支払うのでブルーリリィを大量に欲しいといった内容が書かれていた。
求められた数を生み出すには、十年以上かかるだろう。
そんな長期間、ブルーリリィを生み出すためだけにチェルシーを縛りつけることはできない。
だから俺は、新たな瘴気を吸収する種を生み出そうとチェルシーに伝えた。
「ブルーリリィの問題点は、一代限りで子孫が増えないことだね」
俺の言葉にチェルシーは頷く。
「その問題を解決するために実がなって種ができるブルーリリィを生み出そうか」
もともとブルーリリィの成長速度は普通の植物に比べたら、おかしいくらいに速い。
そこに子孫を残せるようにすれば、チェルシーが種を生み出し続ける必要はなくなる。
ブルーリリィは瘴気を吸収すると花が咲いて枯れるのだが、新しく生み出す種では、瘴気を吸収すると花が咲いて実がなり種が出来、その後枯れることにした。
「やってみます。【種子生成】」
チェルシーがそうつぶやくと、テーブルの上に親指の爪くらいの大きさの種が現れた。
形や大きさはブルーリリィの種と同じだが、ガラスのように光を透過する青い種になっていた。
「なんだかすごい種になっちゃいましたね」
「ブルーリリィの種と花は空のように青色だったから、もしかしたら、この種を植えたら、ガラスのように透ける青い花になるかもしれないね」
チェルシーは俺の言葉を聞いた途端、期待に満ちた目をしたまま小さく微笑んだ。
きっと新しいブルーリリィが一面に咲く花畑でも想像したのだろう。
その微笑みが満面の笑みに変わったらいいのに。
一瞬、心にうずくものを感じたけど、子猫姿のエレの声にかき消された。
『数を増やしたあと、植えに行こうではないか』
よく見れば、子猫姿のエレもチェルシーと同じように期待に満ちた目をしていた。
エレもまたチェルシーと同じような想像をしたのかもしれない。
俺はクスリと笑った。
その後、チェルシーは残りの魔力全てをその新しい種を生み出すことに使った。
翌日、サージェント辺境伯領と魔王国との間にある山の麓に、新しい種を蒔くことにした。
今回はチェルシーと子猫姿のエレも一緒だ。
エレはどうやら、チェルシーが身につけている精霊樹の腕輪があれば、精霊樹本体から離れて行動することが可能らしい。
等間隔に三十個、種を蒔き土をかぶせて水を与えるとあっという間に芽が出て、俺の腰ほどの背丈まで茎が伸びた。
それから、薄っすら残っている周辺の瘴気を吸収するとガラスのように透明な青い花を咲かせた。
風がサーッと吹くと透明な青い花がゆらゆらと揺れる。
「なんだか海にいるみたいだね」
花畑を前にしてそうつぶやくと、チェルシーが不思議そうな顔をした。
「海、ですか?」
どうやら、チェルシーは海を見たことがないらしい。
国の南端に海はあるが、見たことがある者は一握りだろう。
今世の俺もこの世界の海は見たことがない。
「キラキラと輝く水面が波によって揺れるんだ。いつか一緒に見に行こう」
微笑みながら誘うと、チェルシーは一瞬驚いた顔をしたあとニコリと微笑んだ。
やっぱり、チェルシーには笑っていてほしい。
心からそう思った。