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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第二章

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06.魔王国から使者がきた

 瘴気を吸い取る種……では呼びづらいので、グレン様が『ブルーリリィ』という名前をつけてくれた。

 わたしはまだ見ていないけど、花びらの色が空のように真っ青なんだって。


 それから毎日、わたしはブルーリリィを生み出し続けた。

 サージェント辺境伯領へ来てからもおいしい食事を摂っていたので、一日三十個まで種を生み出せるようになっていた。

 初めて種を生み出したときと比べたら三倍になっている。


「着実に増えているね」

「前に比べたら増えてはいますけど……今の領内のことを考えたら、もっと種を生み出したいです」


 わたしがしょんぼりしていると、グレン様はわたしの頭を優しく撫でてくれた。


「被害が出そうな場所へ優先的に植えているから、焦ることはないよ」

「でも……。そういえば、魔力を回復するポーションがあるって聞いたんです。それを飲むっていうのはどうですか?」

「いったい誰からそんなことを聞いたの?」

「フェリクス様のお付きのメイドさんです。飲めば魔力が回復するって」


 この間、フェリクス様のお付きのメイドがやってきて、魔力を回復するポーションを飲むことを勧められたんだよね。

 それをグレン様に伝えたら、とても険しい表情になった。


「……あれは無理矢理、魔力を回復するものだから、翌日は疲労困憊で身動きできなくなってしまうんだよ。命の危機以外で飲むようなものではないんだよ」


 わたしは驚いて何度も瞬きを繰り返した。

 一時とはいえ、そんなものを飲んで、翌日は種が生み出せないなんて……意味がない。


「そんな危険なものを勧めてくるメイド……ね」


 それからしばらくの間、グレン様は口元に手を当て何かを考え込んでいた。



+++



 サージェント辺境伯領内の瘴気が落ち着いたころ、魔王国から使者が来ることになった。

 王都ではなく、辺境伯家に直接来るあたり、切羽詰まっているな……とグレン様は言っていた。


 国と国とのやりとりだし、難しいことはわからないから、お部屋で大人しくしていよう。

 なんて、思っていたのに、同席するよう強く言われた……。


 魔王国の使者は、白髪のおじいさんだった。

 耳の上に太くてぐるぐる巻きの角がついているので、人とは違う種族だってことがわかる。


「初めまして、私の名前はメーヴェルドと申します。普段は魔王国、国主ザビラウェールド閣下の参謀を務めております」


 メーヴェルド様はそう名乗るとにこりと微笑んだ。

 参謀ってとてもエライ人なんじゃないかな。


「私は王弟グレンアーノルドだ」


 グレン様が名前を名乗るとその途端、メーヴェルド様が体をプルプルと震わせた。


「グレンアーノルド殿下ですか!?」

「参謀であれば、私の名前くらい知っているか」

「もちろんでございます。グレンアーノルド殿下は他の方々とは桁違いのオーラをお持ちなのは、魔王国では有名な話でございます」


 メーヴェルド様はだんだんとぎこちない笑みを浮かべ始めた。


「オーラ?」


 わたしがぽつりとつぶやくと、グレン様が教えてくれた。


「人以外の種族は感覚的に相手の強さがわかるんだ。それをオーラと呼ぶんだよ」


 つまり、グレン様はとても強いということだ。

 そういえば、妹のマーガレットが出した炎のゴーレムを一瞬で凍らせていたっけ。


 つづいて、サージェント辺境伯家当主のジェイムズ様、わたしの順番で挨拶をした。

 そして、グレン様を中心にして話が始まった。


「予想はついているが、どういった件でここへ来たんだ?」

「僭越ながらお話させていただきます」


 メーヴェルド様はそう前置きして話しだした。


 魔王国はここ数年の間、ずっと瘴気に悩まされている。

 初めは精霊樹を燃やすことで対処していたが、それを上回る瘴気が発生している。

 ついには魔王国全域に瘴気が広がって、多くの植物が枯れ、国民は狂い始めた。


 一応、精霊樹の枝……人差し指サイズでもいいからもっていれば、正気は保てるらしい。

 でも、初めのうちに燃やしちゃったから、国民全員分は用意できないんだって。


 そんな状態だけど、先日、瘴気の発生原因を突き止めたそうだ。

 瘴気を発生させているのは、なんと邪教!


「その瘴気は魔王国だけでなく、周囲の国々へと広がっています。その中でなぜか、ここだけは広がるどころか収束しているそうで……」


 ここでメーヴェルド様は黙るとじっとグレン様の顔を見つめた。


「噂では、瘴気を吸い取る花が存在しているのだと聞き、こちらへと参りました」


 この時点でメーヴェルド様の顔色はとても悪くなっていた。

 その様子から悪いものだというのは伝わってくる。


「瘴気……あれは本当に良くないものです。体が腐っていくような感覚……とてもではないが耐えられない」


 メーヴェルド様は首からぶら下げている精霊樹の小枝をぎゅっと握りしめていた。

 きっと、一度おかしくなりかけたのかもしれない。


 わたしにはエレがくれた精霊樹の腕輪がある。

 これがあればわたしとその周りにいる人は無事に過ごせるらしい。


「どうか、瘴気を吸い取る花についての情報をください!」


 メーヴェルド様はその場で深々と頭を下げた。


 わたしは両隣に座っているジェイムズ様とグレン様を交互に見つめた。

 ジェイムズ様はグレン様に向かって強く頷いている。

 任せるよって意味だよね。


 グレン様は小さくため息をつくと言った。


「瘴気を吸い取る花の名前は『ブルーリリィ』、一代限りの花で種を残さない。その種を生み出せるのはここにいるチェルシーだけなんだ」


 あっさりと伝えちゃったけど、いいのかな?

 そう思って、グレン様のほうを見ると優しく微笑まれた。


「もし、瘴気を抑える存在がいると知られたら、邪教はどういった反応にでるだろうか?」


 グレン様はそういうとメーヴェルド様に脅すような笑みを浮かべた。


「邪魔者は消されることが多い……でしょうな」


 メーヴェルド様はそうつぶやいた。


 わたし、殺されちゃうってこと?

 血の気がサーッと引いていくのを感じた。


 そんなわたしの様子に気がついたグレン様は、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。


「大丈夫だよ、チェルシー。魔王国の人たちが邪教を何とかしてくれるから」

「も、もちろんでございます。チェルシー様に何かあれば、それはすなわち魔王国に死が訪れるということでございます!」


 メーヴェルド様は滝のように汗を流しながらそう答えた。



 その後、今日生み出した分の種を渡して、実際に瘴気が吸い取れるか試してもらうことになった。

 メーヴェルド様はものすごい勢いで魔王国へと帰っていった。



 翌々日、魔王国からお手紙が届いた。

 それはブルーリリィを大量に欲しいというもので、数はとんでもないものだった。

 たぶん、今の魔力量だと数年か十何年かそれくらいの間、ずっと毎日ブルーリリィだけを生み出し続けなければならない……。


「数年に分けてでいいとは書かれているけど、チェルシーに何年もブルーリリィだけを生み出させるなんてさせたくない。これは別の種を考えたほうがよさそうだね」


 一緒に手紙を読んでいたグレン様はそういうと真剣な表情になった。

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