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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第二章

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04.どんな種を生み出そう?

 王都にある精霊樹から、サージェント辺境伯領にある精霊樹へ、空間跳躍を使って戻ってきた。


「王都からここまですぐに移動できるのは便利だね。だけど、瘴気を抑えるために辺境伯領内に挿し木をたくさん植えるのはちょっとマズイね」


 グレン様は精霊姿のエレに向かってそう言った。


 今はエレかわたしが認めた人しか利用できないけど、何かのきっかけで他の人もわたしが生み出した精霊樹に触れることができてしまったら……簡単に城壁の内側へ入ることができてしまう。

 そんな危険なものを辺境伯領内のあちこちに植えるなんてできない……。


「新たな種を生み出せばよかろう」


 わたしが悩んでいると精霊姿のエレがつぶやいた。


「そっか。精霊樹にこだわらなくてもいいんだ」

「精霊樹以外の瘴気に対抗できる種か……」


 グレン様がそうつぶやくと、精霊姿のエレが一瞬光って子猫の姿へと変わった。


『考えるのは屋敷でもできるであろう』


 そして、子猫姿のエレはわたしの足をぺしぺしと叩いた。

 抱っこしてってことだと思って抱え上げると、子猫姿のエレはぼそりとつぶやいた。


『別に抱えろといったわけではないのだがな……』


 それでもエレはなんだか嬉しそうだった。



 屋敷の応接室に戻って、どんな種を生み出すかを話し合うことになった。

 大事な話をするからって、グレン様が人払いをしたんだけど、メイドはなぜか扉を少し開けたまま出て行った。

 ちゃんと閉めなくては……と思って、扉を閉めに行ったら、扉の前に立っていたメイドに首を横に振られた。


「婚約者でもない男性と二人きりでお部屋でお過ごしの場合、扉を完全に閉めることはできません」


 よく考えてみれば、研究所の一室でグレン様とお茶会をしていたときも午後の種を生み出す研究のときも、マルクス様に城壁の内側を案内してもらったときも、二人きりではなかった。

 いつも、メイドのジーナかマーサ、もしくは護衛の騎士がついていた。

 わたしだけでなく、グレン様にも悪いうわさが流れないよう配慮してもらっていたのだと今さらながらに気づいた。


「扉の外でしたら、普通に話をされている分には声は漏れませんのでご安心ください」


 わたしはメイドの言葉に頷くとソファーで待つグレン様のもとへと戻った。

 グレン様はわたしの顔を見ると微笑んだ。


「今はどんな種にするか話し合うだけで、実際に種を生み出すのはあとでにしよう」


 しばらくの間、わたしとグレン様、子猫姿のエレの三人(?)でどんな種を生み出すかを話し合っていた。


「種のかたちや大きさはひとまず置いとくとして、まずはどういった効果があるか考えてみよう」

『精霊樹は瘴気を払うことはできるが、消し去ることはできぬ。それが可能な種がよかろう』

「払うのではなくて、消し去る……う~ん、吸い取るとか?」


 三人であれこれと意見を出し合っていると、子猫姿のエレがわたしの膝の上から床へと降りた。


『子どもに覗かれているぞ』


 その言葉で扉のほうを見れば、三男のフェリクス様が隙間からこちらを覗いているのが見えた。


『追い払ってくるから、少し待つがいい』


 子猫姿のエレに向かって、わたしは小さく頷いた。

 すると、エレはこそこそと扉の前のフェリクスの元まで行き、にゃああああ! と一声鳴いた。


「わああああ!」


 廊下に驚いたフェリクス様の声が響く。

 メイドや屋敷を守る衛兵たちが現れて、ちょっとした騒ぎになった。

 すぐに子猫の鳴き声に驚いたというのがわかってメイドや衛兵たちは持ち場に戻っていった。


 廊下に監視のためのメイド以外いなくなると、子猫姿のエレが素知らぬ顔で部屋に戻ってきた。


『あの程度で驚きの声をあげるなぞ、肝が小さすぎるだろう』


 子猫姿のエレの言葉に、わたしとグレン様はなんともいえない表情になった。



+++



 ある日、あいつは突然現れた。


 ぼくはサージェント辺境伯家の三男フェリクス。

 あいつは養女でぼくの義姉。


 食堂でお祖父様とお祖母様の間に座っているあいつを見ていたら、心の中によくわからないモヤモヤができた。

 それをお付きのメイドに話したら、あいつはもともとどこかの男爵家の娘で、叔母様の肖像画にそっくりだから、お祖父様とお祖母様に取り入った悪いやつだと聞いた。

 それを聞いた途端、ぼくの中でモヤモヤが大爆発した。


 一晩寝てもその爆発がおさまらなくて、あいつに虫でも投げつければ気が晴れるかと思って探していた。

 そうしたら突然、あいつが現れた!


 驚いてあいつに文句を言ったけど、怒ったりしなかった。

 なんで怒らないんだ? って思ってたら、苦手なカエルが跳んできて身動きできなくなった。


 女の子は虫やカエルは怖がるものですって、お付きのメイドは言っていたのに!

 なんで、あいつは簡単にカエルを触れるんだ!?


 驚いているとあいつはぼくの頭をぽんぽんと撫でやがった!

 ぼくよりも二つ年上だけど、でもぼくよりも背が低いやつに頭を撫でられるなんて……!!

 恥ずかしくなってぼくは逃げた……。


 あとになって、お礼は言うべきだったことに気がついた。


 母上がいつも言っている。

『ありがとうとごめんなさいを言えない者は良い大人になれません』

 ぼくは良い大人になりたい。

 サージェント辺境伯家に恥じない大人になりたい。


 だから、お礼を言うことにした。

 言うなら早いほうがいいと思って探していたら、応接室にいることがわかった。


 部屋の中を覗いたら、あいつと……グレンアーノルド殿下がにこにこしながら話をしていた。


 ぼくにはまだ笑ったことがないあいつが、殿下の前だと笑ってる。

 なんで? なんで!?

 ぼくは昨日よりもずっと大きな爆発が心の中で起こったことに気がついた。


 じっと見ていたら、ぼくが覗いていたことに気がついたらしい。

 あいつはぼくの顔を見て、驚いた顔をしていた。

 見たこともない表情だったから、つい見入ってしまった。


 ぼーっと見入っていたら、突然足元で子猫が鳴いた。

 周りにいるのはお付きのメイドくらいだと思っていたから、驚いて大きな声を出してしまった。


 そうしたら、お付きのメイドは見たこともないくらい不機嫌な顔になり、他のメイドや衛兵たちは慌ててやってきて焦った表情をしていた。

 ……みんなに心配をかけてしまった。

 きっと、あとで母上にはお説教されるだろう。


 ぼくはメイドや衛兵たちに子猫の鳴き声に驚いたことを告げると、ため息をつきながら自分の部屋へと戻った。


 次にあいつ……チェルシーに会ったら、ちゃんとお礼を言おう。

 あと、あの子猫は見つけたら、リボンぐるぐる巻きの刑にしてやる!

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