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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第二章

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01.母ってどんな人?

 あっという間に五日経ち、サージェント辺境伯領の領主が住む屋敷に着いた。

 馬車を降りると、玄関前に屋敷で働く人がいて出迎えてくれていた。


「ようこそサージェント辺境伯領へ。狭い屋敷ではありますがごゆっくりお過ごしください」


 そのたくさんの人たちの中央に、淡いゴールドの髪にわたしと同じ紫色の瞳をした背の高い男性……サージェント辺境伯家当主でありわたしの養父でもあるジェイムズ様が立ち、グレン様に向かって頭を下げていた。


「よろしく頼む」


 グレン様は無表情のままそう言い、玄関へと進んでいく。

 なぜか、子猫姿のエレもグレン様についていった。

 ジェイムズ様はちらっとわたしの顔を見て、優しく微笑んだあと、グレン様と一緒に屋敷の中へと入っていった。


 二人の背中を見つめていたら、養母のアリエル様がさささっと現れてわたしの隣に立った。


「おかえりなさい、チェルシーちゃん」

「た、ただいま……です」


 緊張しながら答えると、アリエル様は優しくわたしの頭を撫でた。


「馬車の旅は大変だったと思うけれど、まずはあなたのお祖父様とお祖母様にご挨拶に行きましょ!」

「は、はい」


 グレン様と一緒に行動しなくていいのかな?

 なんて確認する間もなく、屋敷の奥へと連れていかれた。



 屋敷の奥にあるサンルームにお祖父様とお祖母様はいた。

 お祖父様は養父のジェイムズ様と同じ淡いゴールドの髪に紫色の瞳、お祖母様はわたしと同じ薄桃色の髪に緑色の瞳をしていた。

 二人はわたしの顔を見るや否や、小走りに近づいてきて頭やほっぺた、肩なんかをぺたぺたと触ってきた。

 急にそんなことをされたので驚いていると、アリエル様が止めに入った。


「お義父様、お義母様、チェルシーちゃんが驚いてますわ」


 そこで二人は我に返ったようで、触るのをやめた。

 その代わり、じぃっとわたしの顔を覗き込んでいる。


「ここまでそっくりだとは思ってなかったんだ。すまんな。ワシはジェイクだ」

「いらっしゃい、チェルシーちゃん。わたしはあなたの祖母でエマというの」

「ジェイクお祖父様、エマお祖母様、初めまして、チェルシーと申します」


 わたしは祖父母の前で、カーテシーを披露する。

 すると二人は目を細めて笑みを浮かべた。


 ソファーに座るよう促されて、ゆっくりと腰掛けた。

 しばらくソファーの生地を撫でていたら、祖母がぽつりとつぶやいた。


「中身は全く似ていないのね」


 アリエル様からは仕草が似ていると言われ、祖母からは中身は似ていないと言われる。


「あの……母はどんな人だったんですか?」


 なんだか想像がつかなくてそう尋ねると、祖父母はお互いに顔を見つめ合った。


「そうだな……はっきり言えば、お転婆だったな」

「お転婆で済まなかったわ。兄たちのあとを追いかけて、木登りをしたり剣を振り回したり……女の子らしくはなかったわ」

「いつも兄たちと同じようにシャツとズボンで歩き回っていたな」

「ドレスを着せてもすぐに泥だらけになっていたんだもの、仕方なかったのよ」


 わたしは呆気に取られて口が開きっぱなしになった。

 たぶん、小さなころの話だとは思うけど、とても活発な人だったんだね……。


「成人したあとも一緒に魔物討伐にいったな」

「女の子だからやめさせたかったのだけれど、あの子とても強かったから……」


 まってまって……大人になっても活発な人ってこと?

 活発っていうか、えっとその……。

 わたしはだんだんと理解できなくなってオロオロとしだした。


「成人したんだし、お茶会に行きなさいって言ったのだけれど……」

「そういえば、ソフィアはよくお茶会に男装して現れていたわ」 


 アリエル様の最後の言葉で、わたしの中の母像は崩れ去った。

 記憶にないので、聖母様のようなイメージを抱いていたわたしが悪いんだけどね……。


 祖父母とアリエル様はわたしが呆然としていることに気がついて、慌てて母の良い話をしだしたけど、さっきの話を聞いたあとでは何も心に響かなかった。


 祖父母たちは申し訳なく思ったのか、わたしに母の肖像画を見せてくれた。

 三歳のときはかわいらしいドレス姿だったけど、だんだん育つにつれて男装しているものが出てきた。

 成人後の肖像画は全部、ドレス姿だった。

 どんな姿でも、母は不敵な笑みを浮かべていた。


 とりあえず、母はとっても自由な人で、父はそんな母に振り回されたんだろうなってことは理解できた。


「今度はチェルシーが今までどうやって過ごしてきたか教えてくれるかい?」


 わたしは紅茶を飲み干してから、ゆっくりと今までの出来事を語った。



 ……もうちょっと包み隠して話すべきだった。

 お祖父様はそれはそれはお怒りになって、サンルームから出て行ってしまった。


「大変な目にあってきたのね……。今まで、気づかずに助けられずにいてごめんなさい。これからは全力でチェルシーを守るから……」


 お祖母様はわたしの横に座り、ぎゅっと抱きしめると何度も何度も頭を撫でてくれた。



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