プロローグ
二章開始です!
※注意!
Web版と書籍版(特に二巻)の内容は全く違います。
Web版はWeb版だけで楽しめるようになってます。
書籍版は書籍版だけの続きになってます。
サージェント辺境伯夫人であり養母のアリエル様から、一緒に辺境伯領へ行きましょうと誘われたけど、それはすぐには実現できなかった。
今日言われて明日行きましょうっていうのは、身一つならできるけど、国の特別研究員になった今は難しい。
「残念だわ……一緒に戻れないなんて」
王城近くの馬車乗り場で、サージェント辺境伯夫人であり養母のアリエル様がつぶやいた。
「しかたなかろう。物事には順番というものがあるのだから」
アリエル様をなだめているのは夫であるサージェント辺境伯家当主……わたしの養父だ。
サージェント辺境伯領は魔王国との境にあって、王都から馬車だと五日ほどの距離にある。
長期間離れるわけにはいかないらしく、すぐに戻らなければならないそうだ。
「いつかお休みをいただいて、お伺いいたします」
わたしは慣れない笑みを浮かべて、養父母にそう言ったら、アリエル様が突然抱きついてきた。
「もう! チェルシーちゃんとは家族なんだから、伺うなんてそんな他人行儀じゃなくて、帰ってくるって言いなさい。サージェント辺境伯領はあなたの新しいお家なんですからね!」
「……はい」
そんな風に言われるとは思っていなかった。
なんだか急に心が温かくなったような気がした。
そんなこんなで、養父母はサージェント辺境伯領へと帰っていった。
それからしばらくの間は、種を生み出したり、それを専用の庭に植えてみたり、いろいろな勉強を行った。
マナーとダンスは国王陛下と謁見する前に教えてくれた先生に専属になってもらった。
それ以外に国の歴史や政治、語学、経済……あらゆることを勉強することになった。
今までこうやって勉強することがなかったので、とても楽しかった。
先生たちも優しく丁寧に教えてくれた。
勉強といえば、辺境伯領についても学んだ。
そもそも辺境伯っていうのが、王族に次ぐ身分で、国境付近に領地を持っていて、国を守っているんだってことも知らなかった。
だから、長期間離れてはいけなくて、養父母はすぐに帰っていったんだね。
何か役に立つ種を生み出せないかな……って考えていたところへ、国王陛下からグレン様と一緒に辺境伯領へ行って、精霊樹を挿し木してきてほしいと頼まれた。
挿し木できるのは精霊と契約したものだけなんだって。
どうしてサージェント辺境伯領に精霊樹を植えたいのかはわからないけど、祖父母に挨拶してきていいということで喜んで引き受けた。
そして、あっという間にサージェント辺境伯領へと向かう日が来た。
「お帰りをお待ちしております」
「待っていますから!」
馬車乗り場で荷物の確認をし終わると、ジーナとマーサがそう言った。
今回はメイドとしても動ける女性騎士が三人ついているため、ジーナとマーサはお留守番になった。
わたしは二人に向かって力強く頷いた。
こういうとき、なんて答えればいいのかいまだにわからない。
二人はわたしの考えがわかっているようで、優しく微笑んでくれた。
そこへ、トリス様が現れた。
「いない間の畑の世話は任せるっす!」
トリス様はわたしがいない間、わたし専用の庭の世話をしてくれるそうだ。
土の魔法が得意であるトリス様に任せれば、立派に育つのは間違いない。
ちなみに、トリス様が耕した土はふわふわだそうで、エレがとても気に入っている。
「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、トリス様はニパッとした笑みを向けてくれた。
「そろそろ行こうか」
そう声を掛けてきたのは、サージェント辺境伯領へと一緒に向かうグレン様だった。
わたしはグレン様に手を取られて、馬車に乗り込む。
もちろん、段差を上れない子猫姿のエレを抱えて。
「はい、では……みなさん、いってきます!」
馬車の小窓からそういうと、見送りに来てくれた人たちに手を振った。
+++
ガタゴトと揺れる馬車の中から、ずっと王都の街並みを見ていた。
すると、膝の上に乗っている子猫姿のエレがつぶやいた。
『なに不安そうな顔をしておる?』
慌てて顔を隠しても今さら遅いかな。
「国王陛下が頼むくらいだから、きっと辺境伯領で何か悪いことが起きてるのかなって」
わたしは言葉を選びながらそう答えた。
何かについては、最近、勉強をしているので思い当たることがある。
「そうだね。これから向かうわけだし、心構えがあったほうがいいよね」
すると向かいに座っているグレン様が苦笑いを浮かべていた。
「前にも話したかもしれないけど……」
そうグレン様が前置きして話し始めた。
実は魔王国で瘴気が大量発生していて、その余波がサージェント辺境伯領へと及んでいるらしい。
瘴気というものは長時間触れていると人や動物であれば気が狂い、植物であれば枯れていくそうだ。
それに対抗できるのは、精霊樹と精霊だけなんだって。
精霊樹は存在しているだけで一定の距離の瘴気を払えるし、枝を燃やすことで燃やした場所の瘴気を一時的に払える。
精霊は特定の人物と契約を交わすことで瘴気を払うことができる。
「それなら、挿し木だけじゃなくって、精霊樹の種をたくさん生み出して、植えればいいのでは?」
わたしがそう質問すると、今度は子猫姿のエレが答えた。
『普通の精霊樹は、育つのに時間がかかるのだ」
「え? でも研究所の精霊樹、一瞬でわたしの背まで伸びて、一晩であの大きさになったよ?」
『それは我が半身だからだ。他の精霊たちであれば、あそこまでは育たぬ』
とにかく、精霊の種を生み出すのではダメなんだね。
『ああそうだ、これを渡しておかねば』
子猫姿のエレは、馬車の中にある精霊樹から挿し木した植木鉢に手を突っ込むと腕輪を取り出した。
「もしや、アイテムボックスか?」
『似たようなものだ。精霊樹は精霊界と繫がっている』
「アイテムボックスってなんですか?」
グレン様とエレはわかっているようだけど、わたしにはわからなかったので聞いてみた。
「アイテムを入れておくことができる異次元の場所、かな。どこにいてもどんな大きさ重さでも入れたり出したりできるんだ」
グレン様はそう説明してくれた。
たしかに、わたしの膝くらいの背丈の小さな挿し木の精霊樹の内側に、腕輪が入っているとは思えない。
原理はわからないけど、アイテムを出し入れできることはわかった。
子猫姿のエレは取り出した腕輪をわたしに渡してくる。
『それは見てわかるとおり、精霊樹の枝でできた腕輪だ。お守りとして身につけておくがいい』
わたしは何も考えずに受け取って、左腕にとおした。
ガラスのような透明な輪っかはしゅるっという音を立てて、手首にぴったりおさまった。
驚いて、その場で腕をぶんぶん振ったけど、腕輪は抜ける気配がなかった。
子猫姿のエレはわたしのへんな行動を確認すると大きな欠伸をしてそのまま丸くなった。
「えっと、ホントにお守り? 呪いではない?」
急に大きさが変わって抜けなくなるので、呪いなんじゃないかと疑った。
「鑑定してみたけど、本当にお守りみたいだから、大丈夫だよ」
グレン様が優しく微笑みながらそう言ってくれたので、ひとまず、安心した。
「えっと、ありがとうね」
子猫姿のエレの背中を撫でるとまたも大きな欠伸をして目を閉じた。
ブクマ・評価ありがとうございます。
6/26の昼くらいにジャンル別の日間・週間・月間・四半期で1位をとることができました!
みなさまのおかげ以外のなにものでもありません!
本当にありがとうございます!!
二章のプロットも固まりましたので、このままがんばります。
今後も応援よろしくお願いいたします<(_ _)>