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二度と家には帰りません!~虐げられていたのに恩返ししろとかムリだから~【Web版】 作者:みりぐらむ

第一章

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25.二度と家には帰りません!2

 移動先の部屋は、スキルが一切使えなくなる特殊な部屋だった。


 部屋の中央に罪人が座る席があり、そこにはユーチャリス男爵家当主バーナードと夫人のメディシーナ、妹のマーガレットが座っている。

 右側の席には、サージェント辺境伯家当主とその夫人、さらに養女となったチェルシー、それから第二騎士団の副長でありチェルシーの義理の兄となったマルクス。

 左側の席には、王弟グレンアーノルドとフォリウム侯爵家子息トリスターノ、メディシーナの父であるアクロイド侯爵家当主とその夫人が座っていた。


 しばらくすると国王と宰相が入室してきた。

 国王は中央奥にあるイスにドカッという音とともに腰を下ろした。

 宰相はなぜか、右側の席にいるチェルシーの横に立った。


「まず先に、皆様にご報告がございます。こちらのチェルシー嬢が先日、国の特別研究員になられました」


 宰相がそう告げると、アクロイド侯爵家当主と夫人から感嘆の声が上がった。

 チェルシーはその場で立ち上がると見事なカーテシーを見せる。

 小さいながらも立派な淑女に見えるその姿に、宰相はうんうんと頷いた。


「チェルシー嬢はサージェント辺境伯家の養女となられたことも併せて報告させていただきます」

「なぜ、サージェント辺境伯家なのだ!」


 さきほどまで感嘆の声を上げていたアクロイド侯爵家当主が声を荒げた。

 サージェント辺境伯家当主はにこやかな笑みを浮かべ、夫人は隣にいるチェルシーの頭を撫でた。

 チェルシーは少し顔を赤くしつつも嬉しそうに微笑む。


「チェルシーは我が家の孫娘だ。筋を通すのであれば、アクロイド侯爵家の養女になるべきだろう!」


 アクロイド侯爵は鼻息荒くそう言ったが、場の誰もそれには同意しなかった。


「なぜ、サージェント辺境伯家であるかについても、このあとお話しさせていただきます」


 宰相は目の奥が笑っていない笑顔でアクロイド侯爵にそう言い放つと、国王の隣へと場所を移動した。

 そして、裁きの時間が始まった。


「先日、チェルシー嬢がサージェント辺境伯家の養女となる際に、貴族名簿に虚偽の登録がされていることが判明いたしました」


 宰相はそこで区切るとその場にいた者たちを見回す。

 バーナードはうつろな目をしてどこか虚空を見ていた。

 メディシーナは堂々とした態度をしており、自分には一切関係のない話だと言わんばかりだ。


「虚偽登録の内容は三つ。一つ目はチェルシー嬢の産まれた日が二日ほど違っていること。次にチェルシー嬢の産みの母が後妻のメディシーナ夫人と登録されておりますが、実際には前妻のソフィア様であること。最後にチェルシー嬢とマーガレット嬢は双子と登録されていますが、一つ目二つ目の虚偽登録により異母姉妹であることでございます。」


 宰相の声が響くと、メディシーナがカッと目を見開き何かを叫ぼうとしたが、横にいたバーナードに口を抑えられた。


「すべて出生時の登録ですので、チェルシー嬢本人は関係ございません。関与の可能性があるのは実の父であるユーチャリス男爵、もしくは夫人でしょうね」 

「何を言っているの? わたくしは間違いなく双子を産んだわ! たしかに二人を抱きかかえたわ!」


 メディシーナはバーナードの制止を振り切って、口を開きそう叫んだ。


「では、夫人はそう思い込まされていたのでしょう。これに関しては証人を連れてきています」


 宰相は部屋の入り口に立つ騎士に目配せすると扉が開き、見た目の異なる三人が入ってきた。

 罪人が座る席から離れた場所に立つと軽く頭を下げ、緊張した面持ちのまま話し出した。


「わ、私は長年、産婆をしております。十二年前のあの日、私は当時、正妻だったソフィア様がチェルシー様をお産みになるのを手伝いました。それから翌々日、愛人だったメディシーナ様がマーガレット様をお産みになるのも手伝いました」


「俺は少し前までユーチャリス男爵家で料理人をしていた。押しかけ女房としてやってきたソフィア様は体調が悪くて離れで暮らしていたから、毎日、食事を届けていた。腹が膨らんでいくのも知ってた」


「私はメイドをしておりました。ソフィア様がチェルシー様を産んだ直後に亡くなられたのを覚えております。翌々日に愛人だったメディシーナ様が本館で出産されました。そのときにバーナード様が、マーガレット様の横にチェルシー様を置かれたのを見ております」


 三人がそれぞれそう話すとメディシーナは口を大きく開け、何も言わなくなった。


「異論はありますか?」


 宰相がそうバーナードに問うと、首を横に振った。


「ありません。知りうるすべてを話します」


 バーナードはそう言うと、語り始めた。



+++


 結論から言えば、バーナードは貴族名簿に虚偽の登録を行った。

 それにメディシーナは一切関与していない。


 バーナードは生まれたばかりの前妻ソフィアの子の存在を、愛人のメディシーナが知れば、逆上して手に掛ける可能性があると思っていた。

 それを隠すために、ソフィアの子とメディシーナの子を双子ということにして、貴族名簿に虚偽の登録を行ったそうだ。


 メディシーナは双子を産んだと信じていたため、五歳の誕生日を迎えるまでは二人とも大事に育てたらしい。

 だが、五歳の誕生日に、メディシーナの父であるアクロイド侯爵に『チェルシーは本当におまえの子どもなのか?』と問われ、それからだんだんとチェルシーに対して冷たい態度を取るようになった。


「わたくしは悪くないわ! バーナードに騙されていただけよ!」


 バーナードがすべて語り終えるとメディシーナがそう叫び始めた。


「たしかに、おまえは虚偽登録には関与していないようだな」


 国王自らそう言ったため、メディシーナは心からの笑みを浮かべた。


「そうですわ! わたくしは悪くないの! 悪いのはすべて、バーナードよ!」

「だが、おまえは双子ではないという可能性に気づいていた。その時点で報告することもできただろう?」

「え、いや、でも……」

「うすうす気づいていたにもかかわらず、報告を怠った。さらには、双子ではない可能性に気づきつつも、チェルシーを虐待していたのだろう」

「違うわ! あれはしつけよ! そもそも、自分の子どもをどう扱おうが親の勝手でしょう!」


 メディシーナは血走った目でそう言うとその場で暴れだした。

 それをすぐさま、騎士たちが取り押さえる。


「その勝手のせいで、チェルシーは体じゅうに傷を負い、成長障害を患っていた。おまえのしていたことは親として恥ずべきことだ」


 今までずっと黙っていたグレンが立ち上がり叫んだ。

 隣に座るトリスも怒りの形相である。


「ち、ちがう……わたくしは……わたくしは……!」


 メディシーナはそういうと錯乱したようでその場でわけもわからぬ言葉を叫び続けるようになった。

 国王の指示により、メディシーナは拘束され、部屋を追い出された。

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