22.グレンとマルクス
短いです
その日、俺は玉座のある王城の一室でサージェント辺境伯家の令息マルクスから話を聞いていた。
「グレンアーノルド殿下におかれましては、ますますご健勝のことと……」
「マルクス、いつもどおりでいいから……」
俺が嫌そうな顔をすると、マルクスがニカッとした笑みを浮かべた。
この男は普段は第二騎士団の副長を務めているのだが、どこからともなくよからぬ話を嗅ぎつけてきて俺に報告してくる。
もういっそ諜報部隊に所属すればいいのではないかと言ったことがあったが、それでは情報が集まらないのだと、このニカッとした笑みでかわされた。
「今回は、新種のスキルに目覚めたチェルシー嬢についてなんですがね」
チェルシーについてだと?
これは普段よりも気合を入れて、話を聞いたほうがよさそうだ。
「殿下はチェルシー嬢についてどれくらいご存知ですかね?」
「研究所に来る前、ユーチャリス男爵家にいたころは虐待されていたと認識しているな。成長障害や外傷があったから、間違いない。他はそうだな、
俺はマルクスの望みどおりの答えを出したのだろう。
マルクスはニヤッとした笑みを浮かべた。
「そこまでご存知なら、結論から言いましょう」
俺はマルクスの言葉に軽く頷く。
「チェルシー嬢は前妻ソフィア様の子で、後妻メディシーナの子ではない。そして、妹のマーガレットは後妻メディシーナの子である。つまり……」
「チェルシーとマーガレットは双子ではない。異母姉妹だな」
「そして、先ほど殿下が仰ったように貴族名簿には、チェルシーは双子で後妻メディシーナの子どもだという偽りの情報が登録されているんですよ」
「貴族名簿の虚偽登録は、我が国ではかなり重い罪だな」
この国というか、この世界ではスキルが重要視されている。
貴族というのは特に高ランクで有能なスキルに目覚める者が多い。
そういった高ランクのスキル持ちを国外へ逃がさないため、また有効利用するために、貴族たちは庶子も含めて漏れなく貴族名簿に
「前妻ソフィア様の出産に立ち会った産婆、および当時メイドをしていた者二名、それから近所の住人から証言は取ってきました」
「ソフィアの死因は?」
「こちらは産後すぐに亡くなったとかで、産婆および死亡を確認した神父から証言がありますよ」
マルクスは先ほどまでとは打って変わって、剣呑とした雰囲気になった。
「前妻のソフィア様ってのが、サージェント辺境伯家現当主の末妹……つまり俺の叔母にあたるんですよ。子どもができずに亡くなったと聞かされていたのに、まさかソフィア様にそっくりな娘がいて、しかもですよ! 虐待されていたなんて知った日には……。いや~、うちの祖父母や両親がどれくらい暴れるのか、楽しみで仕方ないですね」
マルクスは魔王のごとくクククと笑った。
俺としては思う存分暴れてほしいところだが、なにせサージェント辺境伯家は魔王国から流れてくる魔物を食い止めている場所だ。
そこに住む者たちはみな、強者ぞろい。
できれば穏便に済ませてほしいところだが、どうなることやら。
「虚偽登録に関与した者は?」
「ユーチャリス男爵家当主。それから後妻メディシーナの父であるアクロイド侯爵家当主。あとは貴族名簿を管理してる役人が数名」
「後妻は関与していないんだな?」
「虚偽登録には関与していませんね。ですがこれまでチェルシー嬢を虐待していたという事実があるんで……」
「つまり、全員引きずり下ろして、まとめて罪に問えばいいってことだな」
俺はマルクスの言葉に黒い笑みを浮かべた。