学術会議問題 説明を尽くさぬ不誠実
2020年10月29日 08時06分
菅義偉首相の所信表明演説に対する代表質問が始まった。新内閣発足後初の本格的な論戦だが、日本学術会議会員の任命を一部拒否した問題を巡っては、首相が説明を尽くしたとは言い難い。
国民の代表で構成する国会に対する不誠実な姿勢まで、菅首相は安倍前内閣から継承してしまったようだ。学術会議が推薦した会員候補のうち、六人の任命を首相が拒んだことは、国会で成立した法律に基づいて行政を行うという三権分立の根幹に関わる問題だ。菅首相にはその認識が欠落していると指摘せざるを得ない。
冒頭質問に立った立憲民主党の枝野幸男代表は、日本学術会議法が同会議の会員について「推薦に基づいて、首相が任命する」と明記しており、推薦された会員候補を任命しないことは「条文上、明らかに違法」と指摘した。
これに対し、首相は「憲法一五条第一項は、公務員の選定は国民固有の権利と規定」しており、学術会議会員も「推薦通りに任命しなければならないわけではない。内閣法制局の了解を得た政府としての一貫した考えだ」と答えた。
しかし、この答弁は首相が「承知している」とした過去の政府答弁と矛盾する。一九八三年には中曽根康弘首相(当時)が「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と答弁し、この法解釈は審議を通じて確立、維持されてきた。
首相が法制局の了解を得たというのは二〇一八年にまとめた「推薦の通りに任命すべき義務があるとまでは言えない」との内部文書を指すのだろうが、この文書が過去に国会で説明され、審議された形跡はない。つまり、国会で審議して成立した法律の解釈を、政府部内の一片の文書で変更し、それを正当化しようとしているのだ。
そうした政府の独善的な振る舞いは議会制民主主義を脅かし、国権の最高機関であり、唯一の立法府である国会を冒涜(ぼうとく)するものだ。到底許されるものではない。
自民党の野田聖子幹事長代行は代表質問で学術会議に触れなかった。いくら政権与党だとはいえ、政府の専横に対する危機感が足りないのではないか。
首相は会員に「民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りが見られる」とも述べた。ならば任命拒否ではなく、堂々と問題提起して改善策を探るのが筋だ。
首相がいまさら何を言っても後付けの説明にしか聞こえない。首相がすべきは任命拒否を撤回し、違法状態を解消することである。
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