50年に排出ゼロ 再エネの普及が鍵だ

2020年10月29日 08時06分
 「二〇五〇年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする」と、菅義偉首相は国会で胸を張った。「五〇年実質ゼロ」は今や「国際標準」だが、実現にはエネルギー社会の大改革が不可欠だ。
 少なくとも「周回遅れ」は、取り戻すことができそうだ。
 温暖化対策のためのパリ協定は最新の科学に基づいて、今世紀末までの気温上昇を産業革命前の一・五度未満に抑えるよう求めている。さもなくば、異常気象や海面上昇などの損害は破局的なものになるという。
 「二〇五〇年実質ゼロ」が「一・五度目標」達成のための最低条件、すなわち「気候危機」を脱するための必要条件であることは、もはや世界の常識である。
 「五〇年実質ゼロ」の目標を掲げ、達成に向けてすでに動き始めている国は、約百二十カ国に上っている。
 先進七カ国(G7)の中では、日本と、パリ協定からの離脱を宣言したトランプ大統領の米国だけが例外だった。
 一方、来月三日の米大統領選で優勢が伝えられるバイデン候補は「五〇年実質ゼロ」を公約として掲げている。当選すれば、独り取り残されてしまうという危機感が高まる中で、首相は“仲間入り”に踏み切った。
 目標を明確にしたことは評価したい。だが問題は、その手段と道筋だ。
 「鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションです」と、所信表明で首相は述べた。技術革新は必要だ。だが「実質ゼロ」のハードルは低くない。まだ見ぬ技術に頼っていては間に合わない。
 「安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します」とした発言も看過できない。
 原発は事故のリスクが大きく、安全対策に膨大なコストもかかる。経済合理性がない。
 「グリーンリカバリー(緑の回復)」。コロナ禍で冷え込んだ経済を環境への投資で再生させようという世界的な流れの中で、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電所を速やかに廃止して、再生可能エネルギーへの切り替えを加速する−。「実質ゼロ」への道のりは、そこからだ。
 今月から本格化した国のエネルギー基本計画改定の議論に、その意思を反映させられるかどうか。政権の本気度が試される。

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