by ぼそっと池井多
ひきこもり仲間のSNSを見ていたら、
「ユーチューブで『5分で人生が変わる26歳経営者の感動スピーチ』見てたらすごく誰かに似てる人がでてきたからびっくりしたわ。
別人だろうけど。」
という投稿があり、そこにどう見ても私としか見えない男が、電車のなかで本を読んでいる写真が貼りつけてあった。
いや、本を読もうとして、そのまま居眠りしているのか。
いずれにせよ、あまりカッコいい画ではない。
ややっ、これはいつのまに盗撮されたのか、と思い、元になっているYouTubeの映像を見た。
こちらである。
「お前は何がしたい」【5分で人生が変わる26歳経営者の感動スピーチ】#ASKME1000 VOL10(字幕付き)
すると、上に挙げた電車の中の居眠りだけでなく、冒頭近くに地下鉄のエスカレーターを上がっていく私の背中のシーンも、そこには含まれていた。
ここまで来ると、ちょっと盗撮っぽくない。
私は地下鉄に乗っているときもボケーっとしているが、そんなボケーっとしている私でも、さすがにこれだけいろいろな角度から撮影されていたら、気づきそうなものである。
「いつかこのような映像収録をされたことがあったっけ?」
と思い返してみたところ、あった、あった。
ちょうど3年前、アメリカのテレビ局NBCが取材に来て、当時ひきこもり新聞の編集会議に向かう私をずっと撮っていた。そのときの映像である。
しかし、なぜNBCの映像がこんなところに出てくるのか。
件の映像を見てみると、なにやら竹花貴騎とかいう若い起業家が自分のサクセス・ストーリーを自慢げに語っており、そのなかで自分がやっていることの意味がわからず、ただ人生の時間を無駄にしている無知な大衆といった意味合いで、地下鉄の中で本を読み居眠りをしている私の映像が使われているのであった。
これはとんでもないことである。
私は、「自分がやっていることの意味がわからず、ただ人生の時間を無駄にしている無知な大衆」とは一線を分かつために、たとえ金にはならなくても、ひきこもり新聞を書き、ひきポスを書き、ぼそっとプロジェクトで発信している。
竹花氏は、ほんとうにやりたいことをやったあげく、お金儲けに成功している人物らしいが、私は同じくほんとうにやりたいことをやって、お金儲けの方向はむいていないだけの話である。
つまり、そこに撮られている私は、映像で使われている人物とは正反対の内的時間を生きている。にもかかわらず、そのような使われ方をされているのであった。
そもそも、NBCはこのような映像の転用を許可したのだろうか。
私はさっそくニューヨークに住む当時のディレクター、スカイラーにチャットを送った。
幸いにも彼女は、現地時間の夜中であったにもかかわらず起きていて、すぐに応答してくれた。
著作権を持っている彼女としても、まったくあずかり知らない盗用だということが、これではっきりした。
そこで私は、件のYouTubeの映像のコメント欄に
この映像は、2017年にアメリカのテレビ局NBCが私を撮影した映像を、2か所にわたって盗用したものだと思われます。それによって私は損害を被っています。このチャンネルの責任者に賠償と映像削除を求めます。
と投稿した。(*1)
これだけでは不十分と思われたので、SNSをたどっていき、その竹花貴騎という若手起業家の投稿記事に、似たような内容の抗議を投稿することにした。
たまたま、私がコメントを投げ入れるスレッドは、その若手起業家がある自治体に子どもたちのIT教育のために約一億円を寄付した、という宣伝記事であった。
そして、こんなことを偉そうに書いている。
「人は与えることで多くを得ます。」
はっ!
ならば、自分のプロモーション・ビデオをつくるのに、生活保護の貧民をつかった映像を、ただで盗用するなどというセコイことをするなよな。
「人は与えることで多くを得ます。
でも自分は盗ることで多くを得ます」
が正しいのではないか。
ちなみに、そこ(*2)へ私が書きこんでおいた抗議のテキストはこのようなものである。
あなたは、以下に公開している映像において、著作権を持たない映像を無断で加工し使用している疑いがあります。私は、あなたのそういう行為によって被害を受けている当事者です。
社会の表に出るところでは、本記事のように受けのよいことを盛んに吹聴し、表に出ないところでは映像の盗用などを平気でおこなっているとなれば、これは人間的にどうなのでしょうか。
返答はまだない。
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