転移保護局員 センリは地球に帰りたい

第一話 まどろみの記憶

眩しい朝の光が、アパートに差し込む。更にそこに畳み掛けるかの用に、スマートフォンのタイマーが鳴る。 「……起きるか……」  布団の中でもぞもぞと動きながら、女性はスマホのタイマーを切った。立ち上がって洗面台に行き、顔を整える。今日は何をするか思い出しながら、それに合わせた服を着る。朝のニュースを見ながら、前日用意していた料理を食べる……いつもと変わらない生活のサイクルだ。  それでも女性は今日に限っていえばワクワクしていた。スマホを片手に、沢山のメッセージを見る。その中には「ゲームと映画、楽しみだね」というコメントがあった。 (こんなに予定があうなんてラッキーだったなぁ。早く行かなきゃ)  食事を終えて、皿を片付け、荷物を詰め込む。徐々に眠気も覚めてきて、ワクワクが一杯に広がるのが感じられた。顔にお化粧をする勢いも増していく。 (さてと、行きますか!)  そう思いながら女性は鏡の前に立った。目の前には流行り……とまでは行かない物の、友人と会うのに恥ずかしくない服装が映る。その周りにはこじんまりとしながらも、綺麗に整った家具が見え隠れした。 (よし……と……後は、スマホを持って行くだけ……)  リビングの机に置き忘れていたスマホを取り、後はこれから出発の連絡を入れるだけ……そう思いながら、女性が机に手を伸ばした……その瞬間、大きなブレーキ音と、黒い何かが窓の光を遮った。そして衝撃音が鳴り響いた。 「……!」  何かに押し潰されるかの様な感覚を感じ、ミタビ・センリは目を覚ました。思わず服装に目をやるが、服はパジャマのままだった。 「……また夢かぁ……」  そう呟きながら、センリはため息を付いた。部屋の中は荒れており、ゴミもいくらか散らかっている。先程の夢のせいで眠りに付けなさそうなので食事を取ろうとするが、冷蔵庫にあるのはパン位。それを乱雑に口に加え、噛み切る。朝食にしてはやけに寂しい。 「……ジャム以外も買ってこないと」  食事を終え、席を立って洗面台に向かうが、そこは一見洗面台だけが置かれた部屋だった。  それでも彼女は慣れた手付きで顔を洗う……つもりが、扉に付けられたトイレに腰が引っかかった。思わず舌打ちするが、このトイレ兼洗面台の狭さは変わりようがない。 「はぁ……」  ため息をしながらセンリは少しでも気分を晴らそうと、空気を換えるべく窓を開けた。夜の間に張られていた薄霧は既に上って来た太陽によってかき消され、空には鮮やかな黄色が広がっていた。  獣は既に目覚めきっており、多くの鳴き声やさえずりが遠くから聞こえる。そして町の中では何人かの人々が、朝の稼ぎの為に働き始めようとしている。その顔には肉体的な苦労の賜物である汗がどんどんと溢れていた。 「何で仕事をあんなに楽しげにやれるのかね……」 そんな様子をセンリは羨ましそうに呟いた。空気は入れ替わった物の、気分はむしろどんどん悪くなっていく。彼女にとって、それを晴らす手段は、一つしかなかった。 「これしかないかぁ……」  センリはそういいながら、部屋の隅に置かれた物へと手を伸ばし始めた。彼女にとってなじみのある物は、それしかここには無かった。

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