光り輝きたくて

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光り輝きたくて

「今日はこれ位にしておくか……」  外の星空を見ながら、俺はいつもの様に静かにパソコンを閉じた。 虫が飛び交う田舎だからか、夜空の星が綺麗に見える。 幼い頃はよく望遠鏡を使ったもんだ。 でも今の自分は別の輝きの方が大事なのだ。 『遅いから寝ますね~!』  SNSでポツリと呟くが、反応はない。 そんな俺の垢とは対照的にTLには人気者がずらりと並ぶ。 煌びやかで楽しそうな様子を見ると、腹の底が何処となく疼く。   SNSの先、画面の先はいつもきれいだ。 それはまるで恒星の様に、燦燦と光輝いており、その周りを 人々が惑星の様にくるくると楽しそうに気に回っている。 無論人の作る物だから、出来や好みに波は異なれど、並みに乗れば基本、楽しめる。 絵が上手い人、文字が上手い人でさえ、その光と連星の如く共鳴する。 とても調和のとれた惑星系の様な場所だ。 でも、そんな中で俺は光に入りたいとは思えなかった。 自ら光になりたいと思ってしまった。 そこから先は、ただひたすらに、宇宙の大部分のような……暗さしかない。 そしてこのまま終わる人がいるのも、俺は知っている。 (……気にしたら負け負け!)  そう思っていても、どうしても比べてしまう。 自分は光に集う蝶々処か、その辺にいる蜘蛛みたいな奴だ。 害虫を駆除しても、人は綺麗な蝶々を褒めるのだろう。 むしろ少し褒められても、差が明白な分惨めに思える。 少しだけ付いたいいねを見ながら、俺は人知れずしょぼくれた。 そんな中、ふと辛そうな言葉を放つアカウントが目に入る。 何て事の無い、絵師の閲覧数の少なさを愚痴る話だった。 俺が同じ事を呟いても、誰も見向きをしないだろう。 そう呆れながらネットから離れようとした時、マウスが彼のプロフィールを映した。 (……上手いじゃないか……普通に……!)  恒星を見ても目は焼けないが、舌打ちは出る時もある。 俺の目の前には美しい女性の煌びやかなイラストと、万単位のフォロワー… そして何より俺が欲してる賞賛や実績が、その人にはあった。 何でそんな人間が悩む……?気の迷いか…… そう思おうとした矢先、その人の実績の中身を俺は理解した。 (あ……古い……!5年前位のノリだ……)  そう、彼は「今」輝いている訳ではない。「かつて」輝いていたのだ。 その時の流行を彼が学んだのか、染みついたのか、或いは偶々マッチしたのか… そこは分からないが、少なくとも彼は一時は売れたのだ。一時は…… だからこそ、今のギャップに嘆いているのだ。 これでは地球に光が届いている時には既に光を失っている星の様な物だ。 (……お辛い……)  俺はそう思いながら励ますわけでもなく、パソコンを閉じた。 星の寿命も永遠ではないというが…… 作家として満足出来ずに消えるのは、人生にとって辛すぎる。 一度手にした満足感を、栄光を失うのは耐えがたい物だ。 しかし時代が映る以上、宇宙が変わっていく様に流行も変わってしまう。 皆自由浮遊惑星の様に自由気ままだ。 そもそも人自体が光り輝くのではなく、それぞれが持つスポットライトを好き勝手照らし、 偶々それが重なった物が輝いて見えていたのが正しいのかもしれない。 惑星に見えた人は、蝶ではなく蛍だったのかも。 正にコペルニクス的転回だ。 (……それでもやるしかない……) 自分に重力でひっぱる力も 生きる為に引きつける力もあるかはわからない。 そもそもそうした力の有無さえ、第三者次第かもしれない。 それでもやるしか、結果は来ない… その後の運命は、星も虫も、 それをみる占い師すらもわからない筈だ…… そんな事を思いながら、俺は静かに眠りについた。

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