普通って何だろう。 真っ暗な公園で、ふと俺は思った。 酒を持つ右腕からは、冷たい缶を掴む度にゴムが締まる音がする。 (この手のせいで色々言われたなァ) 生まれつきのこの腕に対する反応は見飽きる程見た。 バカにするガキ、同情する大人、心配そうにする善人、好奇心旺盛な同級生… それらにはもはや何にも思う事は無い。聞き飽きた。 だが、同じような言い草は気にしてしまう。 極端なデブには痩せろと喋り 極端な低身長にはチビと揶揄 極端なロン毛には髪を切れ…… 極端な者に普通な者は何か言う。 確かにそれは事実だろう、正論だろう。気持ちもわからなくはない でもそれでいいのか?普通になりたくても、なれない人もいる。 それで多数派だからとぶつけるのは心地いいものだろうか。危なくないのか。 そもそも普通を基準に何か言うのはどうなのか。基準も変わるのに というか普通ってなんだ。 普通とは…… そう思っている内に、俺の酒は静かに尽きる。 「あ~やってられねぇぜ」 俺は空を見上げながら憂いだ。 この世で不変な事ったらこの夜の宇宙の暗さ位だろう… そんな事を考えていると、1本の電話が飛んで来た。 「もしもし?」 『せ、先輩!ちょっといいですか!?』 それは部下からの焦りの電話だった。 効いてみると急に明日出勤予定の人間が病気で来れなくなったので来て欲しいとの事だ。 全く普通云々考えてたら異常事態か。 そんな事を思った俺は、ふと彼に聞いてみたいと思った。 「先輩?来れるんですか結局……?」 「あ、行ける事には行けるけど……お前さ、『普通』って何だと思う?」 『え、いきなり何ですか……?』 「いやぁ、普通ではない物を色々言うよな多数派はと思ったけど…… その基準は何なのかねぇ~と思ってな」 そんな酔いながらの愚痴に対し、後輩は一瞬黙った後、静かに答えた。 『普通なんてそれこそ個々人の中にあるのが真実で、 社会にある平均とかそういう意味じゃないと思うんです』 「平均年収とかとは違うって事か」 『そうです。だからこそ誰かにとって普通でも誰かの夢とかあるんだと思います。 多数とかはそこには関係なく、個々のの価値観が全てだと思います』 「……成程な……その差があるから楽しいのかもしれんな」 『という事なんで先輩は明日頑張って下さいね!誰かにとってそれをするのがお仕事なんですから』 そういって後輩はスマホの電源を切った。 「いうじゃねぇか!」 酒が抜けて来たのにますます上機嫌になるのも珍しい。 俺は「普通の人」が寝ているであろう住宅街を抜けながら、「夢」を成す為に夜へと掛けていった。
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水希かおる
味のある物語ですね。実に奥深いです。
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感想ありがとうございます! 自分もそう意識して作ったので拾って貰えて嬉しいです!!
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天柱太陽
2020年9月16日 16時12分
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