絶交絶望絶好調

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絶交絶望絶好調

「もうこなたなんて知らない!」 「あやねこそ! 二度と会いたくないね!!」 私が放った一言は、測らずとも現実になってしまった。 「あやねさんは両親の都合で夏休み中に外国に引っ越しました」  その言葉を学校の先生から聞いた時、愕然とした。 「夏休み開けたら仲直り出来るって」 そう励ました母親に、私は何故クラスの皆みたいに、 スマホを買ってくれなかったと強く強く当たった。 他人の夢をバカにした完全に自業自得だったが、それほど私にはショックだった。  それから暫く、私は彼女の連絡先を小学生で出来る範囲の全力で探した。 しかしスマホのサービスが異なる異国の地への連絡手段など、サッパリだった。 年が明けて年賀状が来るかと思ったが、そんな事は無かった。  それから十年以上が過ぎたある日。  喧嘩した事すら忘れてかけたある日。    私は惹かれる絵を見つけた。 淡い色遣いに、鮮やかな背景。豊かな表情、才能を感じさせる構図… ネットに目を泳がせていた私の心を鷲掴みするのには十分の物だった。 しかしその直後、私はその絵の作者のペンネームに驚いた。  (え……あやね……?)  そのペンネームを私は知っていた。 かつて落書きに書かれていた、如何にも形から入った様なペンネーム。 それと同一の物だった。  (偶然……じゃないよね……)   魅力的な作品と聞き覚えのあるペンネームに、私の心は揺さぶられた。 それからというもの、私は毎週の様に彼女のアカウントから投稿される絵を見た。 何度か感想も送った。丁寧な返信が嬉しかった。 しかし……もし謝れるのなら謝りたい。 本人なら謝罪したい。 貴女の夢をバカにしてごめんね。 そういう思いも募っていった。 そんな時、彼女がサイン会付き講演会をするのを知った。 (……あやねちゃんだった……)  数十人の人々が待つステージの中、私は緊張しながら始まるのを待っていた。 偶々打ち合わせ途中の様子がチラリと見えてしまったが…… 実際に本人だと思うと、また違った焦りが出てくる。 何を話すのだろうか。経緯を話す途中で私を引き合いに出すのだろうか? そんな思いが募っていく内に、講演会は始まった。 「こんにちわ。からなぎ あずさです」  素顔のままペンネームを語る彼女の様子は、まるでモデルの様に綺麗に見えた。 司会のトークに頷く姿も堂々としており、喧嘩した頃の気弱さは全くない。 正直、カッコいいと思った。 「さて、今絶好調なからなぎ先生がイラストレーターを目指そうとした切欠ですが~」  様子に見惚れてた私の耳を、司会の言葉が貫いた。背筋が思わずヒヤリとする。 「そうですね。実は……友達と喧嘩してしまった事が原因なんです」  今までの焦りや不安が全て抜けていくのを感じた。  すべての意識が、彼女の言葉に繋がっていく。 「その時仲良くしていた子に、頑張って描いた絵を見せたんです。作家気分で。 でも、その子からは酷評されて……喧嘩しちゃって。絶交してしまって」 「それは残念ですね……」 「でも……だからこそ頑張れたんです。そのまま疎遠になって凄くショックだったけど、 その子に見せても恥ずかしくない様な物を作れるように……と勉強を重ねたんです」 「成程~そんな事があったんですね~友達だったのに結構ワイルドですね~」 「そうですね。でも、悪い子じゃなかったです」  そこから後の話は覚えて無かった。家に帰るまで、ドキドキしていた。 嬉しかったと同時に、ここに私はいてはいけないなと強く感じた。 サイン会の時にも、こちらには気が付いてなかったように見えた。 ただ茫然と、彼女の中で既に折り合いが付いていたという事実を受け取った。 ただ1つ言えるのは、私はあやねのイラストがより好きになった。 今でも彼女の絵を見ると、心がわしづかみになる。 懐かしい記憶や思い出と 彼女のたゆまぬ努力が1つになって「からなぎ あずさ」がある。 そう思うと、より一層嬉しさが増すのだった。

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