◇
「あれは絶対に転移魔法などではありんせん!」
「そうなると背後に未知の勢力がついている、という可能性もあるわ。どうあっても探し出して情報を──」
変身した姿でデミウルゴスと鉢合わせてしまった翌日。
アルベドによって集められた守護者たちが語ることをアインズは黙って聞いていた。
──謁見の間である。
実際に侵入者を目にしたのは、アルベド・シャルティア・アウラ・コキュートス。それからデミウルゴスだ。彼らはすべて、スケルトンをアインズだと見破れなかった。
貴女の名は?
………レイス。
幽鬼? なるほど、貴女にぴったりかもしれませんね
ゆうべのやりとりが思い出されて、アインズの心が少しばかり踊る。
Change Avatar00を手にしたとき、これなら──と期待したことがほぼその通りになっているのだ。
だが、魔力最大値が低下するという無視できない問題が残っている。一夜の刺激的な夢だと思い、二度とあの宝玉は使わない、と、ついさっきまでアインズはそう思っていた。だが……
(減ってなかったんだよな……魔力)
もしかすると別の能力値がと疑って、ほかのステータスも確認してみたのだが、どの値にも変化は見られなかった。
まさかユーザー配慮の不文律が、この異世界でも機能したというのだろうか?
本来であれば、このまま消えてもらうところですがね
貴女に少し興味がわきました
(…………)
ちらり、とアインズは玉座の上からデミウルゴスを盗み見る。
彼は守護者たちの話に耳を傾けながら、発言はせずに何か考えているようだった。
「守護者の方々の追跡を受けながら、易々と逃れてしまうなど、ただのスケルトンとも思えませんな」
「そう考えるべきでありんした。悔いても悔やみきりんせん」
「ソレニシテモ、何者ダッタノカ……」
「僕たちの誰にも気づかれないうちに入り込んだなんて、信じられないですよね」
マーレの発言に、アインズはぎくりとする。
ぶっちゃけ自分よりも遙かに知恵の回るデミウルゴスが、今の一言で何か気づかなかったかと心配になった。
「しかし侵入を許してしまったことは事実でしょう。何か、我々には想像もつかないような手段があったということです。アインズ様はどのようにお考えでしょうか?」
真剣に聞いてくるデミウルゴスから、アインズは目をそらした。
ひじ掛けに頬杖をつき、やれやれという雰囲気を演出して焦りをごまかす。
「……まだわからんな。いくつか可能性は考えられるが、どれもそう問題ではない気がする」
守護者たちがどよめいた。
戸惑いの注視は冷や汗ものだが、伊達に何十年も彼らの主をやってはいない。
「しばらく様子見だ。のこのことまた現れるとも思えんが……その時はお前たちの好きに始末するがいい」
「「「はっ」」」
ざっ! と音を立てて頭を下げる守護者たちを横目に、アインズはあまり興味がないというポーズを押しとおした。
『深淵なる叡智をもった至高の御方』が問題視していなければ、シモベたちもそういうものかと納得していくだろう。これまでだってずっとそうだったのだから。
(ナザリックの中では使えなくなるけど、問題はない…よな?)
私は『外』に店を持っています。
神聖なるこのナザリックに踏み込むことは二度と許しませんが……
貴女がそこに来るのであれば、歓迎しますよ?
退室していく守護者たちの中に、デミウルゴスの姿を視線で追いかける。
まだ呼び止めこそしないものの、後でほかの守護者たちが彼を質問攻めにする光景が目に見えるかのようだった。
きっと今回もまた、デミウルゴスは驚くべき深読みスキルを発揮して守護者たちを納得させてしまうことだろう、とアインズは思った。