首相所信表明 国民の信頼得られるか

2020年10月27日 07時32分
 菅義偉首相が所信表明演説を行った。内閣発足後四十日が過ぎ、遅きに失した感は否めない。国民から信頼される政府を目指すというのなら、国民を代表する国会と誠実に向き合うことが必要だ。
 臨時国会が召集され、九月十六日の菅内閣発足後、国会での与野党論戦がようやく始まった。この間、緊急に処理が必要な案件が山積していたわけでもない。速やかに臨時国会を再召集して自らの所信を明らかにし、国民の疑問にも答えるべきだった。国会論戦を避けたと勘繰られては、首相も内心穏やかではあるまい。
 新型コロナウイルスの感染が収まらない中での首相就任だ。演説冒頭で新型コロナ対策に言及し、国民の命と健康を守り抜くとの決意を語ったのは当然だろう。
 続いて、官民のデジタル化推進や不妊治療の保険適用実現などを語った。所信表明は総じて内政重視で、二〇五〇年までの温室効果ガス排出量ゼロ以外、これまでに言及したものを束ねた内容だ。
 安倍晋三前首相のような政治スローガンは掲げず、生活密着の案件処理に地道に取り組み、国民に実績を感じてほしいのだろう。
 首相には、こうした案件処理を阻んでいるのが行政の縦割りであり、既得権益やあしき前例主義だと映っているようだ。
 もちろん、国民が不利益をこうむるような省益優先の縦割り行政は当然、打破すべきではある。
 同時に安倍前政権で問題になったのは、誤った政治主導や官邸主導で、公平・公正であるべき行政がゆがめられたことだ。真相究明と原因検証がなければ、政治が国民の信頼を盾に、あしき官僚主義に切り込めないのではないか。
 所信表明では日本学術会議が推薦した会員候補のうち、一部の任命を拒否したことにはまったく触れなかった。これまでの政府の説明は非合理的で、学術会議の在り方検討をいきなり持ち出すのは筋違いも甚だしい。「総合的、俯瞰(ふかん)的観点」と言うだけで説明責任から逃げている限り、国民と信頼の紐帯(ちゅうたい)は結ばれまい。
 目指す社会像については「『自助・共助・公助』そして『絆』」と繰り返した。自助偏重にならないか危惧する。誰も置き去りにしない決意こそ、語るべきだった。
 臨時国会は十二月五日までの四十一日間。二十八日から各党代表質問、来月二日から予算委員会が始まる。限られた審議時間だが、質疑を通じて菅内閣が本当に国民のために働く内閣か見極めたい。

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