英EU交渉難航 さらなる混乱ごめんだ
2020年10月26日 07時13分
欧州連合(EU)と離脱した英国との交渉が難航している。英国が離脱協定の一部をほごにしたためだ。決裂すればコロナ禍で生じた経済の傷をさらに広げる。協定を守り合意を目指すべきだ。
今年一月末にEUを離脱した英国はEUとの協定で、英国の一部である北アイルランドと、陸続きのEU加盟国アイルランドとの間に通関施設を設けず、北アイルランドと英本土との間で通関手続きを行うことで合意していた。帰属や宗教を巡り、かつて激化した紛争を繰り返さないためだ。
しかし、ジョンソン英首相は、英国の一体性を守るためとして、この合意をほごにする法案を英議会に提案した。EUは「国際法違反」と反発、メイ前首相はじめ歴代の英首相からも、党派を超えて批判が相次いでいる。
英政府も国際法違反を認めたが「限定的」と正当化している。国際的信頼をも損なう振る舞いだ。法案は直ちに撤回すべきだ。
英国はEUを離脱したものの、激変緩和のため、今年末までは、移行期間としてEU加盟国と同等に扱われている。
一方で、新たに生じる関税の扱いなどのルールを決めるEUとの自由貿易協定(FTA)締結を目指して、交渉を進めている。
交渉では、協定破りに加え、英海域でのEU加盟国の漁業権の扱いなど難題が山積する。
FTA交渉がまとまらず、英国とEUとの間にいきなり関税が復活するなどの事態になれば、大きな混乱に陥る。欧州の自動車業界はFTA決裂で、二〇二五年までに千百億ユーロ(約十三兆七千億円)の損失が出ると試算している。物流も滞る。
損失は欧州だけでなく、国際社会全体にも及ぶ。
EU側は今月半ばの首脳会議で交渉継続の方針を確認。これに対しジョンソン氏は「FTAなし」に備える必要性を強調する。駆け引きかもしれないが、無責任と言うしかない。離脱までに残された時間は二カ月余り。交渉に誠実に臨み、完全離脱に備えるFTA締結に全力を挙げてほしい。
欧州各国では今、新型コロナウイルスの患者が急増、「第二波」が襲来したとみられている。パリなどでは再び夜間外出が禁止され、経済への影響はさらに広がっている。
英国のEU離脱の迷走がコロナ禍の傷を広げ、暮らしへの打撃を倍加させるようなことがあってはならない。
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