今回、集団提訴を決意した7人のうち、2人が過剰な介入を止めるために親に対して調停を申し立てた。調停に至らなくても、親子関係が断絶したり、やりとりはできても非難の応酬になり、対話の端緒がつかめなくなったりするなど、ピック以前に比べて、関係性がさらにこじれた親子が複数組いる。
「つい最近の調停では、母親が『戻ってきて』と言ったのに、過度な干渉を嫌った子の側が受け入れず、『手紙だけは受け取るが、返事も連絡もしない』という結果になってしまいました」(20代男性の調停代理人)
いわゆる引き出し業者による被害を訴える人たちは、時に「拉致」「誘拐」「だまし討ち」「収容所」「人権侵害」といった表現を使う。突然の連れ出しや、監禁・軟禁・監視下での生活がトラウマとなり、施設脱出後もフラッシュバックや悪夢に苦しんだり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)で働けなくなったりした人も少なくない。
広岡氏は自著の中で、予告なく本人を訪れ、同センターの支援を受け入れるまで「説得」することを「訪問支援」と称し、その日のうちに寮に入れることを、「保護」だと主張する。
契約した親たちも、「自分は悪くない」といった思いを抱きがちで、ワンステの介入によってわが子との関係がたとえ深刻化したとしても、なぜか広岡氏を「恩人」と捉える向きがある。
一方で、ワンステの一連の強引な支援を「被害」と認識する生徒たちは多く、その間には認識の深い溝が存在する。
多数のワンステの元生徒や複数の元スタッフの話によると、提訴する7人が暮らした湘南校には、施設の内部に監視カメラやセンサー付き警報機が多数取り付けられているという。一切の金銭や身分証、通信手段を取り上げられたまま寮生活が始まり、働く先の選定や自立のタイミングまで、スタッフの指示や親の意向に従わなければならない。スタッフに逆らったり脱走が見つかったりしたら、「考査部屋」での内省生活という「罰」を受けることや、精神科病院に医療保護入院させられることもあるという。
生徒たちの中に強い被害感情が生まれるのは、このような、非自律的で、一人一人の尊厳が守られているとは言い難い手法を、ワンステが「支援」として用いているからだ。その支援がうまく当てはまり、精神的・経済的の両面で自立を果たしていく人もいるが、「被害」の声が出続ける現実を見逃すわけにはいかない。