本などの索引をつくっていこうという企画「さくいん!」
今回は明戸隆浩「ナショナリズムと排外主義のあいだ:90年代以降の日本における「保守」言説の転換」です
これは早稲田社会学会の『社会年会誌57』(2016.3)におさめられている論文ですね
90年代の「新しい歴史教科書をつくる会」による言説を【ナショナリズムを強調した言説】とし、
また、00年代の「嫌韓流シリーズ」による言説を【排外主義を強調した言説】とし、
90年代→00年代の言説の移り変わりが、なにをもってなされたかが分析されています
注目されたのは、両者の言説に共通する【反左翼】傾向でした
まず、「つくる会言説」(90年代)は、左翼を【ナショナリズム(自集団)を攻撃する連中】と位置付けていました
続く「嫌韓流言説」(00年代)では、左翼を【在日コリアンと一緒になって反日活動を行う連中】として、「左翼」という言葉に「コリアン」という意味をプラスしました
これによって【自集団を攻撃してくる他集団(コリアン含む)への正当防衛】としての排外主義が広まったわけですね
無論、「つくる会言説」と「嫌韓流言説」だけで、この時代のナショナリズム→排外主義への移行をすべてわかった気になってはいけないのかもしれませんが……
明戸隆浩さん自身は、"90年代から00年代にかけての「保守」言説にはここで扱ったもの以外にも膨大なものがあり、その点ここで示したのはあくまで「点描」にすぎないが、今後の基本的な方向性を示すという意味では、十分に意義のある結論が得られたのでは"(60ページ)としています
この論文に興味を持たれた方は、是非、早稲田社会学会の事務局までメールして『社会年会誌57』を購入してください
☆索引☆
ナショナリズム
・ナショナリズムの定義(アーネスト・ゲルナー、佐藤成基、本論文)……46。本論文の定義は47にも
・ナショナリズム(自集団)を祖父というモチーフを通して描く、手垢のついた手法について……59
排外主義
・排外主義の定義(樋口直人、本論文)……47
・ナショナル・アイデンティティの定義(田辺俊介)……47
・内集団/外集団(ウィリアム・サムナー)……47
つくる会言説
・「新しい歴史教科書をつくる会」結成について……49
>・「新しい歴史教科書をつくる会」はなぜ始まった?彼らの自己認識=左翼教科書への対抗(「正当防衛」)……51
・「つくる会言説」(90年代)=ナショナリズムを強調……45
・「新しい歴史教科書をつくる会」成立の時代背景……48
・自由主義史観研究会について……49
>・「教科書が教えない歴史」について……49
・「『新しい歴史教科書をつくる会』趣意書」……49,50,57
>・趣意書で語られているのは「自集団」のこと……50
>・自虐史観について……57
・小林よしのりとは……46
・藤岡信勝について……49
>・藤岡信勝が「自虐史観」という言葉を世に広めた……57
・坂本多加雄について……50
・「つくる会」言説の特徴のひとつ=「普通の市民」……61
嫌韓流言説
・『マンガ嫌韓流』について……52
・『マンガ嫌韓流』シリーズの売上……52
・「嫌韓流言説」(00年代)=排外主義を強調……45,46,53,54
・排外主義(00年代後半~)の新規性=路上でのヘイト、インターネットによる再生産……45
・「在日特権を許さない市民の会」の言説の源流は、少なくとも90年代まで遡れること……46
・『マンガ嫌韓流』(2005)が桜井誠の名を広めた契機……46
・『マンガ嫌韓流』の著者・山野車輪が、小林よしのり『ゴーマニズム宣言』の影響を受けていたこと……46
・2002年の日韓ワールドカップを契機に「2ちゃんねる」をはじめとしたネットに、ネトウヨ的な発言が増大……52
>・ただし、明確な形で韓国を敵として成立したわけではない……61
・『マンガ嫌韓流』には、西尾幹二・大月隆寛・西村幸祐の小文も掲載されていたこと……52
・『マンガ嫌韓流の真実!』(別冊宝島、2005.10刊)の執筆陣……52
・『マンガ嫌韓流の真実!』(別冊宝島、2005.10刊)が、一見中立的な体裁をとりながら、『マンガ嫌韓流』を支持する内容だったこと……53
・『マンガ嫌韓流』が、韓国人・左翼を悪とした勧善懲悪の形をとっていること(山野車輪自身が言明)……53,54,58
>・悪への反撃=正当防衛としての反左翼……58
・『マンガ嫌韓流』のプロトタイプ『CHOSEN』について……53
・『マンガ嫌韓流』における「左翼」(プロ市民、反日マスコミ)とは……55
・『マンガ嫌韓流』で繰り返されるモチーフ=「左翼」が在日コリアンを利用して「反日」活動を行っている……55
・「韓国タブー」という陰謀論=『マンガ嫌韓流』がマスコミで取り上げられない……55
>これに対する大月隆寛(「つくる会」、『マンガ嫌韓流の真実!』)の検証と推測と推測……55
・『マンガ嫌韓流2』(2006.2)で初めて「在日特権」が大々的に取り上げられる(その前からネットでは、盛んに言及されてはいたが)……61
「つくる会言説」と「嫌韓流言説」に共通する反左翼傾向
・共通して「反左翼」の傾向……45,54,58
>・「つくる会言説」における反左翼……46,50,57
>・「嫌韓流言説」における反左翼……46,55
・ナショナリズム強調(「つくる会」言説)→排外主義強調(「嫌韓流」言説)への移行。その論理……56
>・「他集団の否定」が「自集団の価値を(相対的に)上げる」有効な手段……56
>・「反左翼」を介在した言説の移行……56
・「つくる会」の反左翼について小熊英二の分析=右を好むというより、左を忌避……47
・西尾幹二による藤岡信勝評=左翼の質問パターンを熟知している……51
・藤岡信勝『汚辱の近現代史』(1996.10)に見る反左翼の論理……57
・「つくる会言説」にとっての反左翼→ナショナリズム(自集団)を否定する存在=左翼批判は正当防衛……57
・「在日特権を許さない市民の会」の反左翼について安田浩一の分析=左翼エリートとの階級闘争……48
・「左翼」のテンプレ(メディア、人権)……51
・『マンガ嫌韓流』が、韓国人・左翼を悪とした勧善懲悪の形をとっていること(山野車輪自身が言明)……53,54,58
>・悪への反撃=正当防衛としての反左翼……58
・『マンガ嫌韓流』における「左翼」(プロ市民、反日マスコミ)とは……55
・『マンガ嫌韓流』で繰り返されるモチーフ=「左翼」が在日コリアンを利用して「反日」活動を行っている……55
・「嫌韓流言説」では、「攻撃者=在日韓国人、左翼」を設定することにより、排外主義的な「正当防衛」を成立させる……59
その他
・河野談話とは……48
・村山談話とは……48
・「慰安婦」記述が主要7社の中学歴史教科書全てに掲載されたこと(1996.6検定結果発表)……49
☆年表☆
1993.8
・河野談話……48
・細川護煕内閣発足……48
1993.9
・細川護煕首相が、アジア太平洋戦争について「侵略戦争」「間違った戦争」と表現……48
1994.6
・自社さ連立政権。自民党が政権復帰。首相は社会党の村山富一……48
1995.1
・自由主義史観研究会結成……49
1995.8
・村山談話……48
1996.1
・産経新聞にて自由主義史観研究会による「教科書が教えない歴史」が連載……49
1996.6
・中学歴史教科書検定結果発表。「慰安婦」記述が主要7社の教科書全てに掲載……48,49
1996.8
・産経新聞連載の「教科書が教えない歴史」が単行本化……49
1996.10
・藤岡信勝『汚辱の近現代史』が出版……57
1996.12
・「新しい歴史教科書をつくる会」結成(正式発足は1997.1)……48,49
1997.3
・「新しい歴史教科書をつくる会」第1回シンポジウム→その内容は『新しい日本の歴史が始まる――「自虐史観」を超えて』1997.6刊にまとめられた……61
1997.6
・『新しい日本の歴史が始まる――「自虐史観」を超えて』が出版……61
1999
・2ちゃんねる設立……52
2002
・日韓ワールドカップ……52
2002.冬
・『マンガ嫌韓流』の山野車輪が、韓国についての読み切りを初めて出版社に持ち込む……52
2003.8
・『マンガ嫌韓流』山野車輪が、ネット連載の形で作品を発表→『マンガ嫌韓流』……52
2005.7
・『マンガ嫌韓流』が晋遊舎から出版……52
2005.10
・『マンガ嫌韓流の真実!』が別冊宝島から出版……52
2000年代後半~
・過激な排外主義が顕著に……45
2006.2
・『マンガ嫌韓流2』『マンガ嫌韓流公式ガイドブック』が出版。『マンガ嫌韓流2』では初めて「在日特権」が大々的に取り上げられる……52,61
2006.1
・『嫌韓流の真実!場外乱闘編』(別冊宝島)が出版……53
2006.5
・『嫌韓流の真実!ザ・在日特権』(別冊宝島)が出版……53,61
2007.1
・「在日特権を許さない市民の会」結成……61
2007.8
・『マンガ嫌韓流3』が出版……52
2009.4
・『マンガ嫌韓流4』が出版……52
2015.3
・『マンガ大嫌韓流』が出版……52