・【映像】『ある日突然 仕事も家も ~コロナに奪われた日常~』(ナレーター:大友康平)
「“家に居なさい、ステイホーム”らと言ってますけど、昼間居る場所が無くて、移動しているわけですからね」(仙台夜まわりグループの今井誠二理事長」
しかし、仙台にも仕事は無い。彼らはコロナ禍で、どのように生活しているのか。そして、新たな仕事を見つけることはできるのか。その実態と生活再建への道のりを追った。(東日本放送制作 テレメンタリー『ある日突然 仕事も家も ~コロナに奪われた日常~』より」
■食事をとらない日が2~3日続くことも
6月中旬、仕事を求めて市中心部の公園にやってきた内田さん(仮名、40)は福島県内の工場で派遣社員として働いていたが、新型コロナウイルスの影響で、契約を打ち切られた。所持金が底を突き、4月から路上生活を送ってきた。「路上で生活するというようなことは全く想像もしていなかったっていうか。ありえないだろうって思っていたので」。
大切にしているのは、非正規社員が企業に立ち向かうという小説『非正規レジスタンス』(石田衣良)。どこか自分の姿を重ねる。「何が今、一番必要ですか?」との質問には、「食べ物ですかね」。食事をとらない日が2~3日続くこともある。
2日後、内田さんは炊き出しがあると聞き、公園から移動していた。
■20~30代、女性の生活困窮者も
山形県内の温泉旅館で派遣社員として住み込みで働いていた山本さん(仮名、36歳)も、4月に解雇を言い渡された。公園で1週間ほど路上生活を経験した。
「(仙台に)来た時、1日、2日はここ(公園のベンチ)に座って、ここで寝てた。雨の日はステージに移動してしのぐ、そんな感じでしたね。ジーパンの上にスウェットを履いて、服を6枚くらい着こんで、バスタオル2枚をかぶって。寒いけど、もうそれしかないから」。
その後、区役所に助けを求め、今は仙台市内の自立支援施設に身を寄せている。「やっぱ寝る所、衣食住があるっていうのが一番の喜びっていうか。食事も取れない状態だったから」。働きたい。しかし、仕事は仙台にも無かった。
■歯止めがかからない解雇・雇い止め
仙台けやきユニオンの森進生代表は「正社員の人たちには休業補償を払うけども、アルバイトたちには払わない。経営の規模を縮小するため、まず非正規雇用から切るという形で、解雇・雇い止めが発生していると思う」と話す。
厚生労働省の統計によれば、新型コロナの影響で解雇や雇い止めされた人は見込みを含め全国で4万1391人(7月末時点)。5月以降、毎月およそ1万人ずつ増加している。雇用形態別に集計を始めた5月25日以降では、非正規雇用がおよそ55%を占めている。政府が相次いで雇用維持策を打ち出しているが、歯止めがかかっていないのが実情だ。
生活困窮者の相談に応じる労働組合には、深刻さを増す相談が日々寄せられている。「4月は1日働きましたけど、5月、6月の2カ月間は働いていないから、収入はゼロですね」「ごくわずかな収入で暮らしているもので、本当に生活が困っているのでね」。
■“1400円ほどの所持金が全財産”
しかも5年ほど前から寝泊まりしていたネットカフェも休業になり、路上生活に。「携帯見ながら、ここ(ベンチ)でぼんやりしてるだけでしたね」。1400円ほどの所持金が全財産、そして4畳半のこの部屋だけが唯一の居場所だ。1日も早く、仕事を見つけたい。「年齢的なものもあるから、体を資本とした職業は無理だと思うし、たとえ働けても、どのくらい使ってもらえるかっていう。まだ具体的に形になってないから、不安があります」。
■炊き出しへ、12kmの道のりを徒歩で
そのうちの一人、元派遣社員の木村さん(仮名、40代)は、4月に仕事を失った。福島県から仙台にたどり着き、駅で数日間の路上生活を経験した。「(炊き出しは)嬉しいです。派遣切りされちゃって、再就職するのにも、はっきりいって厳しいです。今、どこの工場も求人が出てないので」。
仙台市中心部で炊き出しが行われるたび、片道およそ12kmの道のりを徒歩で往復する。「家を出たのが、午前8時半なので、3時間くらいかな」。この日、用意されたのは120食分。炊き出しをしている職員が「ちゃんと食べましたか?」と尋ねると、「はい!もう3杯食べて、コーヒー3、4杯飲みました」と木村さん。「お腹たっぽんたっぽんだね」と冗談交じりの職員に、「いや、まだ余裕です。まだ、お腹は5分目くらい」。
■生活保護を申請が全国で急増
後日、木村さんの生活保護申請が認められた。名取市役所で、およそ8万円を受け取った。「嬉しいです。これからがスタートなので、頑張っていきたいと思います」。さっそく向かったのはドラッグストア。シャンプー、歯ブラシ、ボディソープを手にしていた。
政府の「緊急事態宣言」の発令後、生活保護を申請する人は全国で急増している。今年4月には2万1486件と、去年の同じ時期よりおよそ25%増加した。仙台市でも、申請件数は微増ながら相談件数は4月に826件、5月に726件と、去年の倍近くに増えている。
■「働けることが本当にうれしかった」
迎えた初出勤の日。「早く仕事に慣れるように頑張りますので、よろしくお願いします」と挨拶する加藤さん。この施設では、路上生活を経験した人や自立支援施設に入っていた人を、これまでに13人を雇ってきた。
「本当にちょびっとしたお手伝いしかできないと思うんですけど、自分たちにできることがあるのであれば、社会復帰の一つということで。デイサービスという新たな居場所に早くなじんで頂いて、“清流ホーム”っていう肩書きみたいなものが、早く取れていくと良いのかなと思っています」(施設の所長)。
生活再建への第一歩を踏み出した加藤さん。「働けることが本当にうれしかったから、特にそんなに緊張することもなかったし、皆さん良い方で、ちゃんと教えてくれますし、良かったと思います」。
■それぞれの道へ…
一度はすべてを失い、先のことは何も考えられなかった。「3カ月で復帰の見通しついていることは嬉しいですね」。
山形から来た山本さんにも新たな仕事が決まった。「社会復帰して、働いて、ちゃんと稼いで、自立できたらいいなと。また同じことを繰り返さないように。やっぱり自分が経験したことは、自分が一番分かっていることだから。ちゃんとやらないと」。
しかし、公園で路上生活をしていた内田さんは、その後どこに行ったか分からなくなった。